貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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「ラブミー♡ラブユー♡ 今回ちょっと緊急で小説を更新しているんですけど、これから“とあるウマ娘が実装されたとき”はキャラストを4話まで読んだのに10連ガチャ1回で諦めた架け橋くんがなんと! ステイゴールドをプラスアルファでGETしたのでお祝いにスウィートメモリーズと一緒に夏の夕暮れに旅立つ権利をプレゼントしま〜す♪ 架け橋くん、なにか言い残すことある?」

「た、確かに競バに詳しくないウマ娘ユーザーにはRタイプ戦闘機の名称はウマ娘の名前と勘違いするかもしれないし、ミッドナイトアイに比べれば戦闘力も高いが……なら、せめて名前繋がりでレディ・ラブに載せて」

「さぁ、懺悔の時間だよ?」
(ADCYM並感のセリフ)

「違うんだ、ぱかチューブのワードウルフ回のステイゴールドに魅了されたトレーナーは間違いなく大勢いることは確定的に明らか」<グッドラック



☆秘湯混浴刑事グラスの事件簿☆

 ↓ここからOpening↓

 

【蹄鉄伝説 LEGEND of UMA】

 

 作詞:デストロイ毒嶋

 作曲:バイソン塚本

 

 PrettyDerby GET to The TOP

 GIRLS LEGEND !! 

 俯いてばっかいんな 踏み出してみようじゃない

 ターフでも ダートでも

 LETS CHALLENGE Miracle Fighting

 早く開けゲート こんな世界だぜ

 止まれないウマ娘

(短距離で)G1級ダッシュ

(長距離で)蹄跡刻むパワー

 蹴散らしていけ 手垢塗れの栄光なんて

(マイルでも)ラスト一直線

(ミドルでも)勝負服拝みやがれ

 

 抜け出してけWINNER(CALL The Make Debut)

 

 全身全霊(UMA pyi)

 お先に失礼(UMA dac)

 鋭脚一閃(UMA poi)

 

 駆けろPrettyRunner 魅せろPrettyFighter

 我らPRETTY SURVIVORS

 

 ↑ここまでOpening↑

 

※これはアプリケーション【ウマ娘プリティーダービー】内に登場する固有名詞や競馬用語などを思い付きで適当に羅列してそれっぽく英単語を加えて整えたものであり、仮にこれを読んだ読者の脳内に存在しないメロディーの記憶が甦ったとしても作者は一切の責任を持ちません。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「……じゃ、コレ。でも本当に私のなんかでいいワケ? いうてトレーナーさんの指示通りに走ってただけだし、ルームに置いてあるファイルにはグラスの走りに噛み合うようなヤツだってあったんでしょ? そりゃ、後輩に頼りにされるのは先輩としては素直に嬉しいけどさ」

 

「はい。先輩の、今日までの努力が記されたこのノートこそが私にとってなによりも価値のある貴重なデータなんです。得意な作戦が同じ差しであることもそうですが……適性距離がマイルと長距離、という組み合わせはなかなか珍しいですから」

 

「あ〜、それもあったか。ま、おかげさまで安田からマイチャン経由で有マなんて普通のトレーナーならまず許可しないようなレース走れたんだけどね。ま、そんなボロボロのノートがアンタの役に立つってんならいくらでも使い倒していいよ。だけど、グラスワンダーってウマ娘が宝塚記念で勝つ前提でトレーニングプランをこっそり組んで楽しんでるバカがいることも忘れないほうがいいと思うよ〜? じゃ、アンタの活躍を楽しみにしてるからガンバりな〜」

 

 

「……はい、存じております。だからこそ、私は私に許された全ての可能性に死力を尽くしたいのです。至らぬ点ばかりの若輩者で何一つ恩返しなどできませんでしたが、先輩との時間が無駄ではなかったことを必ず証明してみせます。────いままで、ありがとうございました」

 

 

 すっかり姿が見えなくなるほど背中が離れ、ウマ娘の聴力でも拾えぬほどの小声で。決意と、感謝と、少しだけの寂寥感を胸にグラスワンダーは頭を下げた。

 

 そのウマ娘は中央トレセン学園という上澄みのアスリートが集う中では、決して強いウマ娘ではなかったのかもしれない。単純な身体能力だけで競うのであれば、総合力でメイクデビュー前のグラスワンダーのほうが数値の面では優れていたぐらいだ。

 

 だが、グラスワンダーは彼女に一度も勝てたことがない。走り方を確かめるための併走トレーニングでは何度でも差し切っているのに、大勢で競い合う模擬レースでは常に彼女の背中ばかり追い掛けていた記憶しかない。

 それも自分だけではなく、逃げのセイウンスカイも、先行のスペシャルウィークとエルコンドルパサーも、同じく差しを得意とするキングヘイローも。同期の皆も単純な数値上の能力は高いはずなのに、最終コーナーに入ってからは一度も前を許されたことがない。

 

 ターフの上での駆け引き、いわゆる勝負感が桁違いなのだ。なになにのトレーニングでこれだけの数値を出した、そんなモノは真剣勝負の世界では無意味、とまで言うつもりはない。

 しかし道場名人という言葉があるように、やはり実戦経験の差はアスリートにとって非常に大きな影響を与えるのだろう。そもそもチーム・ポラリスのウマ娘たちに机上の空論で勝てるなどと楽観している者など────まぁ、多分、ほとんどいない……はず。

 

 だからこそ、ワクワクする。

 

 だからこそ、勝ちたい。勝ちたかった。

 

 だけど先輩ウマ娘はコースの上から去ることを選んだ。まだまだ脚は残されているらしいが、彼女はもう満足してしまった。あのトレーナーとの取引は“完遂”されてしまったのだ。

 

 そのウマ娘のラストランは、有マ記念。結果は16人中16位。勝者が栄光を掴む裏側には敗者の存在がある、それは勝負の世界では不公平でも不平等でもない至極当然の、当たり前のことでしかない。

 そんなことは誰でも知っている。トレセン学園にてレースを走るのだと決意したウマ娘であれば誰もが覚悟している。それは先輩ウマ娘も同じであった。ならば、彼女が引退を決意したのはほかでもないトレーナーのひと言なのだろう。

 

 真剣な眼差しで、しかし心から楽しそうに。

 

 

「おめでとう。これでお前は今年1年、日本のレースに出走した大勢のウマ娘の中で……誰もが認めた、頂点から数えて16番目のウマ娘だ。この事実はもう消せねぇぞ?」

 

 

 ファンの心理は純粋であるが故に残酷だ。その目に留まるのは、その記憶に残るのは、勝者の姿と、せいぜいが入着したウマ娘ぐらいなもの。それこそ、ウマ娘の“レース”が好きというだけでは……よほど熱心な“ウマ娘”のファンでなければ。

 ここしばらくのレースではジャイアントキリングもまた楽しみのひとつとして浸透しているが、滅多に起こらない逆転劇だからこそ持て囃されるのだ。もちろん、若い世代のトレーナーたちと担当ウマ娘などは少しでも自分たちの血肉となるモノを得ようと必死に分析したりもしているようだが。

 

 ともかく。あのトレーナーがそれを口にして立ち去ったとき、先輩ウマ娘の中で【なにか】が切れたのをグラスワンダーを含めた周囲のウマ娘たちは察してしまったのだ。

 夏の嵐が過ぎ去ったあと、晴々とした青空の中を木々を揺らして駆け抜ける風を連想させるようなスッキリとした笑顔で言ったのだ。ようやく虹の麓に辿り着けた、ここで私は私の物語を終わりにするよ……と。

 

 どのような取り引きをしたのかは知らない。

 

 それはきっと、軽々しく聞くべきではない。

 

 だから、誰も彼女の決断を止めるものはいない。それが勝負の世界に生きる者としての礼節であるとグラスワンダーも心得ている。

 

 いや、その、正直めちゃくちゃ聞いてみたい気もするし、なんなら友人たちがソレを話題とするのを嗜めつつも興味津々だし、たぶん例の机に刻まれるのだろうがアレは取引完了の証なのでまた意味合いが違う言葉で彩られているので別だし。

 いやホント、もう。大和撫子にあるまじき野次ウマ根性であると自覚しているぶん余計に恥ずかしいのだが、そこは鋼の意志と平常心にて我慢するしかない。和の心を知るグラスワンダー、侘び寂びを学ぶ者として乙女の秘密を覗き見るような破廉恥な真似など言語道断。

 

 だから、そう。ノートを譲り受けるだけなら、アスリートの先輩後輩としても、学生の先輩後輩としてもセーフ。ここから取り引きの内容を探ろうなどとは欠片も考えていない。それは紛れもなくグラスワンダーの本音であった。というか、これで取り引きに関係する内容が書かれていたらさすがに気まずいし恥ずかしい。

 

 

「おやおや〜? センパイはまだまだトレーニングにはお付き合いしてくださるって話ですけど、わざわざマル秘ノートまで受け取っちゃったりしたんですね〜」

 

「えぇ。トレーナーさん直筆のファイルもとても参考になりますし、何度もお世話になってはいますが、こうした……ひとりのウマ娘の手で記された“生きている”データを拝読させていただくのは、また別の視点で勉強になりますから」

 

「そう。まぁ、あのファイルにも先輩方の書き込みがたくさんあるから、読むたびに新しい発見があって面白いのだけれど。グラスさん、もしよければ────いえ、なんでもないわ。気にしないでちょうだい」

 

「あら? 同じく差しを得意とするのですから、遠慮なさらずとも」

 

「ダメよ。それは信頼の証だもの。このキングが踏み込むべきではない境界線もわからない、だなんて……周囲に示しがつかないでしょう?」

 

「そう、ですね〜。危うく、せっかくのお気遣いを無駄にしてしまうところでした。ありがとうございます」

 

 

「それはそれとして……グラス! 早くトレーナーさんのところに行きマショウッ! 今日はどんな珍しい料理が食べられるのか、いまから楽しみデースッ!」

 

「……? お料理、ですか?」

 

「あれ? グラスちゃんにもメッセージ届いてない? ゴルシさんたちがまたトレーナーさんとの勝負に負けたからって、新しい料理の開発をお手伝いすることになったんだって」

 

 

 そういえば。何処かのタイミングでピロリと着信音が鳴っていたはずだが、先輩との約束があったので後回しにしてしまったことをグラスワンダーは思い出した。

 さっそく確認してみると……なるほど、ポラトレが滋養強壮に効果抜群の料理を開発したので、ウマ娘はもちろん担当トレーナーが疲れている様子であれば有無を言わさず連行するようにとフェノーメノの名前で第9グループにメッセージが届いている。

 

 

「エジプト遠征のお土産なんかも関係あるのかな? しかし、世の中にはセイちゃんたちには想像もつかない不思議があるものですねぇ〜。いやはや、貴重な体験ではありましたが……ああいうのは1度きりでもいいかな〜って」

 

「北海道では畑に野生動物が、なんてコトは普通にありましたけど。まさかあんなホラー映画みたいな体験をすることになるなんて……なまらたまげたべ〜」

 

「正直……あまり思い出したくないのだけれど……。それなりに奇妙な体験には慣れたつもりだったけど、さすがにアレは……。わかっているとは思うけど、大家さんからご近所付き合いもあるからってお願いされたこと、忘れてはダメだからね?」

 

 

 たまたま心得があるからと任された翡翠の風を纏う両刃の薙刀、アレは良いものだった。2度と手にする機会など無いように願うべきだと理解していても、ただ触れるだけであればもう一度ぐらいは……と思わずにはいられないグラスワンダーであった。

 

 

「トレーナーさんが使っていたセーレーシュ? というワザ、光るナックルがとってもカッコよかったデース! いつかエルも足で使えるようになれば、光る! 走る! 盛り上がる! ンン〜、そのまま一着になったら宙返りでアピールしても面白そうデース! ……ムムッ!? なんだかスパイシーな香りがッ!」

 

 

 知っているような、知らないような。刺激が強いような気もするし、何処か柔らかさを感じるような気もする。普段、料理に使うようなスパイスも、ポラトレの伝手で香道家を紹介してもらい香りを“聞く”という体験をしたが……さすがに、それだけでスパイスの調合について語れるはずもない。

 

 いまのグラスワンダーに理解できるのは、ただ、この香りが────とても美味しそう、ということだけであった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 中央トレセン学園の敷地内でありながら、まるでキャンプかピクニックのような光景に驚くようなウマ娘やトレーナーが現れるのは4月になってから。

 この場に集まった者たちにとってはただの日常。なんかデカい鍋がいくつも用意され石で組まれた天然のかまどで煮炊きされていても誰も疑問に思ったりはしない。

 

 アチコチに用意されたテーブル代わりの木箱やコンテナ、よく見るとウマ娘よりトレーナーたちのほうが夢中になって食べているように見える。ウマ娘も、ヒトも、身体が欲するモノが美味しく感じるようにできていると聞いたこともあるが……。

 

 

「おや、いらっしゃい。申し訳ありません、なにぶん、いつものトレーナーさんの急な思い付きでして……調理に使用するのを優先してしまったので、テーブルの数が不足してしまったのですよ。まぁ、コレはコレで楽しいものですが……フフッ」

 

 

「おぉッ! ジャーニー先輩、なんだかとてもエキゾチックな雰囲気デース! ミステリアスでアダルトな雰囲気がとても似合ってマース!」

 

「ありがとうございます。エプロンの代わりに、そして気分転換にもなるだろうと、エジプト遠征のお土産で頂いた生地をトレーナーさんが片手間で仕立てたモノでして……向こうで着付けをしていますので、ご興味があるようでしたら、是非」

 

 

 その格好はどう見てもインドの民族衣装なのでは? という疑問はひとまず置いておく。エルコンドルパサーが言っていたようにドリームジャーニーに似合っているのは事実であるし、トーセンジョーダンが仕切る着付け班のウマ娘たちの着こなしとアクセサリーの合わせ方も興味深い。

 その隣のテントで寸胴鍋をかき回しているのは、まさかのオルフェーヴル。まず間違いなくゴールドシップに巻き込まれてなんらかの勝負に参加させられ敗北してしまったのだろう。賭けを反故にするなど王としてのプライドが許さなかったのか、ハルウララやツインターボなど“小さき家臣”たちと一緒に、やはり民族衣装を身に纏い調理を担当しているようだ。

 

 そしてナカヤマフェスタと……手伝いを申し出たと思われるスーパークリーク、ヒシアマゾンはメインディッシュに合わせるおにぎりを担当していた。スパイシーな香りからしてカレーの類のように思えるので、それならポラトレはナンなどを焼きそうなものだが。

 どうやら飲み物も用意しているらしく、タニノギムレットがなにかヨーグルトのような……いや、取り合わせから推察するにラッシーの可能性が高いか? を手際良く準備して、それをゴールドシップ、ステイゴールド、シリウスシンボリなどの先輩ウマ娘たちが配っているようだ。

 

 さて、料理は気になるものの民族衣装もまた気になってしまうもので。せっかくの機会を無下にするのも勿体ないとサクッと着付けをしてもらえば、ちょうど5人が着替え終えたところにドリームジャーニーが料理を運んでくれた。それも含めて賭けだったのだろうが、先輩に配膳をさせるのは少し申し訳なかったりもする。

 

 

「お待たせしました。これがトレーナー奥義料理、羊肉五目煮【パーヤンカン】です」

 

 

 耳慣れぬ言葉、パーヤンカン。

 

 その料理の正体とは。

 

 

「……スープ餃子?」

「4色の餃子が浮いてるね〜」

「スープカレー、というものでしょうか?」

「見た目は美味しそうだけれど」

「オニギリ5人分もらってきマシタ!」

 

「試食の段階では名称の通り羊肉……内臓も含めた可食部全てを使っていたのですが、トレーナーさんが」

 

 

 曰く。

 

 最初に味見としてお出しされた段階ではあまり食欲を刺激するような見た目ではなかったらしい。内臓部分も含めた煮込み料理として想像すれば、確かに華やかさとは逆方向の仕上がりになるイメージになってしまうだろう。

 しかし、そこは信頼と安心と実績のポラリストレーナー。栄養バランスは大事だが口にするモノが美味しくないのは論外だとプロテインの吟味すら容赦しないだけあって、罰ゲーム組だけではなく居合わせたウマ娘たちにも好評だった。

 

 お肉の下拵えさえ済ませてしまえば、あとは特別な技術は必要ない。それでは準備を始めようというところでトレーナーが「見た目は微妙なのに食べてみたら美味しかった、なんていまどきなにも珍しくねぇ」と言い出した。

 なにやら妙なこだわりがあるのか、はたまた罰ゲームという名目であるが故に美味しいだけでは面白くないとでも考えたのか。ひとりで腕を組んで難しい顔をしていたトレーナーは数秒ほどで復活し「逆に考えるんだ。美味そうなビジュアルで食べたら普通に美味かった。これは新しいッ!」と言い出した。

 

 

「……それって、つまり普通に食べて美味しい料理が出てくるだけですよね?」

 

 

 さすがは中等部でもトップクラスの食よk素直さの持ち主スペシャルウィーク。きっと誰もがそっとしておこうと目を逸らしていた真実をいとも容易く口にする。これが大いなる北の大地により育まれた観察力なのだろう、きっと。

 

 

「どんなときも愉快な考え方をするヒトです。可愛らしいと思いませんか? ですが、スパイスの調合に関しては知識・技術共に信用して問題ありません。疲労回復効果も充分に期待できますよ」

 

「各種スパイスの扱いについては、用量用法を間違えるとかえって体調不良を招く可能性があるとして本官がボスより厳重な管理を指示されているであります。本官でも美味しく食べられる程度の辛味ですので、どうぞ、ご安心してお召し上がりください」

 

 

 先輩たちに促されるまま、改めて料理と対面する。

 

 食器よりはインテリアらしさを感じる可愛らしくもシンプルなデザインの壺のような器に満たされたカレー色のスープ。そこに浮かぶのは緑、赤、オレンジ、そしてプレーンの餃子のような具材。

 普通のカレーと呼ぶにはサラサラとしているし、スープと呼ぶにはトロトロとしている絶妙な感触。用意されたおにぎりは海苔の巻かれていない、具材もないシンプルなもの。飲み物はブルーベリーのラッシーで、サイコロ状にカットされたイチゴがトッピングされている。

 

 スパイス。刺激のある食事。なら、最初は乳製品で胃の調子を整えてからのほうが美味しく食べられるかもしれない。

 

 ブルーベリーソースが均等に撹拌されているらしく全体が薄紫色のラッシーと、それに蓋をするように薄く積まれたブルーベリージャム。イチゴを食べやすいようにと選んだのか、縁日のかき氷などで使われる先の広がったストロー。

 いただきます、と呟きながらふと横を見れば。スペシャルウィークとエルコンドルパサーはおにぎりを片手にスープをもっしもっし口に運んでいる。キングヘイローは割り箸を併用して羊肉の餃子をじっくり味わい、セイウンスカイは赤と白のグラデーションを楽しみつつサイコロイチゴとラッシーを軽く混ぜてひと口ぱくり。

 

 みなそれぞれのスタートダッシュの仕方。もちろんグラスワンダーが惑わされることなどない。差しを得意とするウマ娘が周囲の選択に釣られてしまってはお話にならないのだから。

 

 まず舌の上に広がるのはミルクと砂糖の優しい甘み。それも普通の砂糖ではなく、恐らくはきび糖を使用しているのだろう。クセが少なくミネラルも豊富であり、多少の色付きもブルーベリーソースと混ぜるラッシーであれば気にならない。

 そこから鼻に抜ける程よい酸味と香り。スッキリとした輪郭のある風味は、食事に合わせる前提ということで果実の存在感がいつまでもベタつくようなこともなく、むしろ食欲の軸をカレー特有のスパイス感に合わせてくれるようにも感じる。

 

 高まる期待感。スープか、具材か、それともあえてのおにぎりから始めるか。ここは……まずは、羊肉五目煮とやらが変化したという餃子らしきモノから食べてみるのがいいかもしれない。

 美味しそうではあるが、カレーの味はある程度想像できる。羊肉を使用したマトンカレーも何度か食べたこともある。だが、ポラトレが考案したオリジナルの羊肉料理となれば彼の料理の腕前を知るウマ娘として期待は膨らんでしまうもの。

 

 餃子……いや、包子? アレは蒸した肉まんのような料理だからまた別なのだろうが……ともかく、プレーンらしき白い具材をスプーンに乗せてスープと一緒にひと口かじってみた。

 つるり、ぷるりとした歯ざわり。そして広がる牛や豚にはない羊肉特有のクセ。しかし臭みなどはなく、シンプルに羊肉らしい旨味をしっかりと楽しめる。ざくり、と解ける歯ごたえはタケノコ、そこに玉ねぎの甘みが加わって────いや、それだけでは。

 

 

「これは……ココナッツミルク、でしょうか?」

 

「へぇ〜、面白いことするねぇ。うん、ちょっと変わってるけどちゃんと美味しい。香りが混ざってエスニックな感じだけど、あんまり海の向こう側っぽい味じゃなくて────うん、ごはんにも合う合う」

 

「カレーライスとも違う、スープ料理とも違う。こうした国境を越えた懐の広い味の組み合わせ、これもまた日本らしさなのかもしれませんね〜。五目煮、の定義が少しだけ迷子になっているような気もしますが」

 

 

 半分残した、ココナッツミルクが練り込まれた羊肉餃子をとぷりとスープに浸す。隙間にスープが染み込んでいくのと同時にお肉の脂身がゆっくり染み出すところを、広がりすぎないうちに再びすくい上げてぱくり。スパイスの刺激的な香りがお肉とココナッツミルク、2種類の異なる油分で緩和された風味がグラスワンダーを満たす。

 

 こうなると、食べ進めるより先にほかの3色も試してみなければ気が済まない。

 

 次は緑。これは見た目から想像した通りホウレンソウが使われているようだ。中身は羊肉と玉ねぎに、控えめにピリッと主張してくる黒胡椒。これはスプーンの上でお醤油などをポタポタと垂らして食べても美味しいかもしれない。と、いうか密封ボトルタイプのお醤油でそれを実行しているウマ娘が何人もいる。どうやら小皿に移して味変ができるよう予め用意されていたらしい。

 

 あとで自分も試してみよう、そんなことを考えながら次にグラスワンダーが選んだのは赤。カレー味に合わせるならトマトだろうか? という予想は外れてのニンジン味。ほんのりと香るフルーティーな甘みの正体はリンゴかもしれない。

 カレーにリンゴ、それもまた定番の隠し味。それでも日本ではお肉に果物を合わせる習慣は馴染みが薄いはずだが、今回の企画は“普通”や“常識”といった類に喧嘩を売るのを得意とするトレーナー。完璧に調和するバランス感覚はお見事である。

 

 努力に無駄はなく、才能の無駄遣いという言葉をあまり好ましく思っていないグラスワンダーでも、時と場合と相手によっては否定できないかもしれない……などと考えつつ口に運んだオレンジ色の正体はカボチャ。

 ココナッツミルクよりも甘みが強く、お肉の脂身にバターが絡んだかなり濃厚で食べ応えのある味。これもまたお醤油による味変と相性抜群だろう。醤油とバター、このふたつを最初に組み合わせた人物は天才だと確信している。カレーそのものにもお醤油を隠し味にすることもあるのだから一石二鳥かもしれない。

 

 

「ちょっと。それはさすがに、お行儀が悪いんじゃないかしら?」

 

「えぇ〜? お姉ちゃん知らないの〜? カレーうどんなんかも、こうやってご飯と一緒にスープを最後まで食べるのが美味しいんだよ! 前に、お店の人もそう言ってたもん」

 

「僕も最初はちょっと、その、さすがに人前でやるのは……って思ったけれど。まぁ、お店の人がお勧めしてくれるならって……。姉さんも、試してみなよ。美味しい、よ……?」

 

「そ、そうなの? じゃ、じゃあ、せっかくふたりが勧めてくれたのだし」

 

 

 何処からか聞こえてくる声。

 

 横目で友人たちをチラリ。

 

 

 スペシャルウィーク。

 

 すでに空になった壺がふたつ重なり追加のおかわり。

 

 エルコンドルパサー。

 

 対抗意識なのか2杯目を完食して追い掛けるように追加のおかわり。

 

 キングヘイロー。

 

 おにぎりを箸で崩しながら丁寧に食べ進めている。

 

 セイウンスカイ。

 

 スプーンにひと口だけご飯を乗せてスープに浸しながら。

 

 

 なるほど、みんなそれぞれの食べ方があってなにも参考にならない。つまり己の心に正直に動くのが吉である。

 

 

 大和撫子グラスワンダー、残りのおにぎりを躊躇なくカレースープに沈める。大丈夫、戦国時代の名将・織田信長だって愛バが出走するレースを観戦するときは立ったまま湯漬けを食べていたという文献がある。つまりご飯と汁物を合わせるのは日本という国において歴史がその正統性を証明している確かな文化なのだ。なので大和撫子的にもまったく問題ない。

 スプーンを使い慌てず騒がずさく……さく……とおにぎりを砕く。日本の伝統食である汁かけ飯の存在を知りながらも、麺を食べ終えたインスタントラーメンにご飯を入れるウマ娘たちの姿を複雑な想いで眺めていた日々に別れを告げる。グラスワンダーは確かにいま、未知なる道への一歩を踏み出したのだ。ひとりぐらい、場の空気に流されてご飯を汁浸しにするウマ娘がいてもいい。自由とはそういうものだ。

 

 言ってしまえば、これはタダのカレーライス。小麦粉が溶け出してとろみが増したことで、ごはんに絡むルゥの舌触りはグラスワンダーにとっても馴染みのあるモノに近くなっている。

 だが、ベースとなる味付けの違い、普段は触れることのない器の違い、異国の文化を肌で感じる衣装の違い、それらが重なり合うことでトレセン学園の日常ではきっと体験できない時間の中にいる。

 

 邂逅。時代や国境、文化の垣根すら越えて歩み寄ることは、ときに争いの火種となるほど困難なのも事実。しかし、互いに譲れぬモノを理解し尊重することができれば、共に歩む道の先には必ず明るい未来が待っていることだろう。人、それを【調和】という。

 

 つまり。

 

 ポラリストレーナーさんの特製マトンカレーは、とても美味しいということです。……羊肉、なん、でしたっけ? パー、えぇと……とにかく、とっても美味しいです。はい。

 

 そう。とても美味しいということは、とても美味しいということなのであっという間に食べ終わってしまうということでもある。

 そもそも器がウマ娘の使用を目的としているサイズではないので、アスリートが食べるのであればおかわりが前提のような気もする。

 

 さて、どうしようかと悩んでいると。

 

 

「ダメ……私の中の、もうひとりの私……ッ! 衝動が、抑えられない……ッ! そんな、はしたないこと……ダメなのに、もう……ッ! あぁ、私の内なる紅が……ッ!! あの、ラーメン4玉ください」

 

「いや知らナいケド? お前それオマエ、全部ワタシとは関係なイ自己セキニンだかラな? そレでオマえデブりやガッタらトレーナーさんだけじゃナク絹代ちゃんニモちくルからナ? ア、ワタシはつけ麺にシて食べルノで魚介系ノ割りスープくだサイ」

 

 

 麺類、そういうのもあるのか! 

 

 改めて周囲を観察してみれば────タマモクロスがうどんを、イナリワンが蕎麦を用意している。というか派閥争いのようなものが勃発している。

 カレーうどんVSカレー南蛮蕎麦。異国情緒の中でも競い合うことを忘れない、常在戦場の心得こそウマ娘の本懐。ならばグラスワンダーが勝負から逃げるなどあり得ない。

 

 強くなるために、喰らう。

 

 そこに躊躇いはない。だって美味しいから。

 

 メイクデビューの日は近い。ライバルたちとトゥインクル・シリーズで竜攘虎搏のレースが始まる予感に心躍らせながら、グラスワンダーは口直し用のバナナヨーグルトサラダの列に並ぶのであった。




 本当は年末らへんにのんびり更新するはずだったんですけどね?

 それはそれとして、面白いご縁に恵まれたので来年は全ての作品の更新が滞ると思います。執筆活動そのものはバリバリ続けるので、気長にお待ちいただければ幸いです。
 などと言いつつも、作者は頭の中でネタがグルグルすると執筆して吐き出さないとダメなタイプなので短編だったりなんだりの投稿はあると思いますが。
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