貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ひっぱれ。

 日本各地の学生たちは春休みの予定をウキウキ気分で計画している時期だとしても、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘たちにとっては次のレースに備える大事な準備期間です。

 クラシック級の目玉である皐月賞と桜花賞が始まる4月までじっくりと、などと言ってはいられません。それらのレースに挑めるのは一生に1度だと思えば、トレーニングに使いたい時間などいくらあっても足りないと感じることでしょう。

 

 だからといってシニア級のウマ娘たちが油断して腑抜けているようなこともありません。それがアスリートの姿として正しいのかどうか、真剣勝負を無関係の立ち場から眺めるのは好きでも責任と共に立ち会う気はサラサラ無い貴方には良し悪しが判別ができませんが、安定した入着よりも勝利か敗北かといった雰囲気でバチバチに競り合うウマ娘たちの意気地は今日も衰え知らずといったところ。

 

 よほど環境に恵まれたのか、この世界ではミスターシービーもマルゼンスキーもシンボリルドルフも強者故の孤独とは無縁と言えます。

 勝負の世界に慈悲は無く、才能の差により脚を使い切ったウマ娘たちはそれぞれの道へ枝分かれして歩き出しましたが、今度は自分たちの番だと言わんばかりにまた新たなライバルたちが挑戦状を叩き付けているからです。

 

 さすがにボタンひとつで能力継承! とはなりません。ですが脚を使い切りレースを走ることはできなくても、知識や技術を次の世代に託すことぐらいはできるから……と。先輩から後輩へ、あるいはこれからメイクデビューに挑むことになる中等部のウマ娘たちへ、天才たちの澄ました横顔を一発引っ叩いてやるという心意気は受け継がれているのでしょう。澄まし顔というより作画担当がプリティー要素を忘れてしまったような顔をしていることは気にしてはいけません。

 

 

 もちろん、そうしてトレーニングに一所懸命なウマ娘たちのことなど悪役トレーナーである貴方には無関係。レースを楽しみにしているファンとしての立ち場から積極的に邪魔をしようとまでは考えていないようですが、少なくとも彼女たちのため積極的にチート能力を使いフォローするのは追放計画とは相容れないことぐらいは理解しています。

 

 ですが、ここで大人しく引き下がるようではチート能力を持つ転生者として三流以下! 自分のことを膝の上にネコを乗せているタイプのインテリ系黒幕キャラとして位置付けしている貴方に座して待つという選択肢など残されているワケがないのです!

 因果関係をロジカルに紐解くべく貴方の脳内会議では“どうすれば自分がフォローしていることをトレーニング中のウマ娘に悟らせずにアドバイスできるだろうか”という難題に対して、わずか数秒で“トレーニング中ではないウマ娘を利用して本人に伝えれば自分がフォローしたことにはならないぞ”という革命的名案に辿り着きました! 

 

 幸いにして手駒として使えそうなウマ娘にはいくらでも心当たりがあります。都合の良いタイミングで適切なウマ娘を捕まえることができなかったとしてもご安心ください、どうせ貴方の周囲には常に誰かしらのウマ娘がいるので適当に呟いただけでも本人の耳に届くことには変わりません。

 仮に本当に周囲にウマ娘が誰もいないタイミングでアドバイスを思い付いてしまったとしても大丈夫、貴方が趣味で執筆しているウマ娘別育成計画ノートの存在を知っている学生たちが定期的に更新をチェックしているので問題ありません。貴方が知らなくても今日だけでゼンノロブロイが30人ほど対応して貸し出しているので、書き込まれたアドバイスはしっかりと活かされることでしょう。

 

 画期的なアイディアが産まれたと心の中で思ったとき、既に行動は完了していた。さすがは理想の追放劇のため油断も慢心もせず丁寧な準備を怠らない悪役トレーナー、その行動が最終目標に向けるベクトルとして正しいか否かという部分さえ無視すれば中央トレセン学園でウマ娘たちのトレーニングを面倒見ながら過ごした数年間はちゃんと貴方が成長するための糧となっているようですね! 

 

 

 さて、貴方の知らないところで起きている出来事を貴方が知らないということは、今回の思い付きもまた滞りなく実行に移されるということでもあります。偶然にも貴方が愛用しているメーカーと同じデザインのノートを抱えたウマ娘たちが暇そうにしていたので、トレーナー業務には無関心ですアピールのためレースには一切関係の無い雑談で移動のため時間稼ぎをしていると。

 

 

「ふふ、ははは……ッ! ああ、失礼しました。あまりにも身の程を、いや壮大で中等部の学生らしい素晴らしい目標を聞くことができたのでつい愉快になってしまって。いや、本当に……まだメイクデビューも済んでいないだけあって、実に素敵な夢だと思いますよ、えぇ」

 

 

 偶然にもスペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイロー、エルコンドルパサー、グラスワンダーというメイクデビュー前の選抜レースを控えたメンバーがメディア関係者らしきグループから取材を受けている場面に遭遇しました。

 それぞれの立ち位置から、どうやらスペシャルウィークの目標である“日本一のウマ娘になる”という言葉を聞いて感極まり笑顔になっているという場面なのだろうと焼いたマシュマロの如き鋭い洞察力を誇る貴方は判断したようです。

 

 夢を語るウマ娘、それを応援する大人。この場面でのヘイト稼ぎは効果抜群であり追放計画に活かせるかもしれない。ガードマンとお揃いのジャケットを着こなす野良犬たちが訓練されたエージェントのように無機質な敵意でメディア関係者たちを静かに睨みつけていることなどお構い無しに、貴方は理想的な介入のタイミングを逃さないよう様子見から始めることにしました。




 見て! ウマ娘の夢を聞いた記者さんが笑っているよ! カワイイね♤
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