貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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 答え合わせの時間。



『Rising Star』

 興行という視点から見て、ほかのスポーツ競技とウマ娘のレースを比較したときの決定的な差異はやはりウィニングライブの存在だろう。身体能力だけでなく容姿の面でも優れているウマ娘たちのアイドル性をアピールすることで得られる利益は無視できるモノではない。

 あるいはそれを俗物的と批判する者もいるのだろう。だが、現実的な問題としてスポーツ競技というものは費用面で大変大食らいなのである。そんなことはアスリートたちはもちろん彼ら彼女らをサポートするスタッフ一同、競技場を含めた環境管理に従事する各種事業者にとってみれば常識云々どころではない大前提の話である。

 

 しかし悲しいかな、こうしたアイドル的な人気が高まればそれを妬んでアレコレと足を引っ張ってやろうとする者は必ず出てくる。他人を扱き下ろしたところで自身の価値は変わらず、費やした時間のぶんだけ可能性を破棄していることにも気付かず熱心に。

 

 当然、トレセン学園とて指を咥えて黙っているようなことはしない。問題が問題だけに絶対的な正解など無いが、無いなら無いなりに最善を尽くさなければならないと様々な形でウマ娘たちを護るため動いている。

 第三者からの誹謗中傷に対する心構えを教えることについても賛否両論ある。子どもには綺麗な世界だけを見せたいと願う気持ちも理解できないことはないが、努力する者が必ずしも肯定されるとは限らないのが現実なのだ。

 

 

 中央トレセン学園にとって幸運だったのは、こうした倫理観に関わる部分を授業で取り扱うときに便利なトレーナーがひとり在籍していることだった。世間の風評など欠片も意に介さず、ただただ担当……もとい、取り引きしているウマ娘たちの走りを支え続ける姿勢は指導者としての理想を体現していると言えなくもない。

 その上で彼の行動はURAや中央トレセン学園の規定にギリギリ抵触しないグレーゾーンであること、だからこそ学園としては担当契約をしない取り引きという形での指導について黙認していること。そして、万が一のことがあれば彼は全ての責任を果たすためトレーナーバッジを返却することも辞さないだろう……ということを教職員たちは大変都合良くアレコレこねくり回して教材としている。

 

 中には巧い言葉回しが思い付かなくて「彼と同じようには出来ませんが、最大限皆さんを護るため努力します」とストレートな表現をする者もいた。

 それに対するウマ娘たちの反応は微妙に冷ややかであった。概ね「怪奇現象をプロレス技で解決するようなトレーナーが何人もいてたまるか」といった具合に。

 

 将来ウマ娘たちは“きっと中央トレセン学園に入学しなければ除霊ボムやらギロチン除霊などという単語を聞くことはなかっただろう”と語るものの、それを創作の笑い話として受け止められることで普通の学校はそんな怪奇現象が当たり前ではないと思い知ることになる。

 

 

 地球規模で考慮してもだいぶ特殊で個性的なセキュリティ案件の講義が行われていることへの是非はともかく、同世代の子どもたちと比べて中央トレセン学園に通うウマ娘たちのメンタル強度はかなり高い。本人たちは無自覚でも常に危険人物の奇行を見せつけられていたのだから鍛えられないワケがない。

 特に非公式チーム・ポラリスに所属、あるいは協力しているウマ娘たちの精神力は自覚無自覚問わず上澄みも上澄みであった。本来ならば仲良しのクラスメイトやルームメイトと同じレースでぶつかることに悩むこともあるだろうに、全力で相手の夢を喰い潰すことが前提にある彼女たちは迷うヒマがあればトレーニングなり休息なりに時間を使うほうが有意義だとして立ち止まるようなことはしない。

 

 当然、日本一のウマ娘を目指すスペシャルウィークなど標的にされないワケがない。臆することなく世界最強を名乗るエルコンドルパサーともども、同期のウマ娘たちからは背中を狙われ「アイツらにだけはダービー獲らせねぇ」と完璧にマークされている。

 お前の夢は私たちが全力で否定して踏み潰してエサにしてやる、それはそうとしてネットで美味しいケーキ屋さん見つけたから放課後いっしょに食べに行こうよ! なんて生活を続けていれば田舎から上京してきた素直っ子だって自然と清濁併せ呑むだけの器になるのだ。

 

 

 なので。

 

 

(はぇ〜。授業で聞いてたときはそんなヒトもいるんだ、ぐらいに思ってたけど……本当にこういう、メディア関係者の人でもこういう感じだったりするんだなー。やっぱり────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 日本一のウマ娘になりたい、という夢を笑われたとは思っていない。ポラリスルームにて栄養過多からの重量過多による基準違反バ体のメンテナンスをキングヘイローの仲介でちょくちょくお世話になる程度には交流のあるスペシャルウィークにしてみれば、夢とは自分自身に問い掛け続けるモノであって誰かに訴え掛けるモノではないのだ。

 聞かれたから答えた。ただそれだけのこと。メディア関係者が子どもの無謀な夢を嗤うことで“リアリストの有識者”を気取って得意気になっている、など欠片も想像していない。なのでスペシャルウィーク本人にしてみれば、メイクデビューすらしていないウマ娘が堂々と先輩ウマ娘たちに挑戦状を叩きつける発言を笑われたところで「大人視点ならそういう反応にもなるか〜」ぐらいにしか感じていない。

 

 それはそれとして雰囲気と態度から本音を察したグラスワンダーから攻撃的なコスモが溢れそうになってエルコンドルパサーがゆっくり距離を取り始めたり、セイウンスカイは今後のためにメディア関係者が首から下げている身分証明書をチェックしたりはしているのだが。

 

 当然、ほかにも……周囲の教職員たちやウマ娘たちとて彼ら彼女らの態度を不快に感じているが、少なくとも正規の手続きを済ませて取材許可を獲得しているのは事実なので咎めるのも難しい。

 今回の件を理由に次からは学園側も相応の対処ができる。だが現段階ではまだ動けない。腹立たしいことに相手側も()()()()()理解しているらしく、言葉を選びギリギリまでマウントを取り続けるつもりなのだろう。

 

 

「ちょっと、さすがに見過ごせないねぇ。ひと声かけてくるよ」

 

「まぁまぁ、落ち着きなよヒシアマ」

 

「止めないでくれよフジ。後輩が迷惑してるんだ、ここは先輩として黙ってるワケには」

 

「私だって気持ちは同じだよ。でも大丈夫じゃないかな? あまりにも場違いな道化は舞台から追い出される、トレーナーさんもそう言ってるからね」

 

「トレ公が? ……あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────おもしれぇレースが見てぇッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、だった。

 

 仁王立ち……とは違うが、両腕を組んで堂々とした立ち方で、天を仰ぐようにして放たれた言葉はどこまでも力強く、わかりやすいほどシンプルで、その場に居合わせた者全ての意識を根こそぎ惹きつける。

 

 

「顔も名前も知らねぇどっかの誰かが考えたタイトルなんて関係ねぇッ!! 百億人に向けた格付けなんざクソほど興味ねぇッ!! 世界中のどこにもふたつと無い、生涯で1度きりの、最高におもしれぇレースを見せてみろッ!! 何度でも、何度でもなァッ!!!!」

 

 

 心の底から楽しそうに、もはや中央トレセン学園のウマ娘であればすっかり見慣れたいつもの────迷いや揺らぎなど砂の一粒ほども感じない挑発的で得意気で少しイラッとするが頼もしい笑い方で。

 

 

「2度と来ない、今日がいつだって最高の日であるようにッ!!」

 

「後輩ちゃんたちが迷うヒマなんて無いぐらいまっすぐにかっ飛ばすわよッ!!」

 

 

 心の底から楽しそうに、もはや中央トレセン学園のウマ娘であればすっかり馴染んだいつもの────躊躇いも恥じらいも芝の一欠片ほども必要ない愉快で痛快で少しだけ呆れるけれど心地良い空気が。

 

 

「ほかの誰かと比べる必要なんてない、ボクだけの伝説を作り上げるぞーッ!!」

 

「探しに行くだけじゃない、たっくさんのキラキラをみんなに届けちゃうよ☆」

 

「誰かを理由にしなくても、自分自身がそうありたいから全身全霊全力マッスルで駆け抜けるッ!!」

 

「自分の心に正直に、レースもアルバイトもなんでもやりたいことやっちゃうのッ!!」

 

「銀河の果てなんてケチ臭ェことは言わねぇ、ゴルゴル星を越えて無限の彼方へブッ飛ばすぜアタシのボイジャー120号ッ!!」

 

「世界中のレース場に白い稲妻を轟かしたるわッ!!」

 

 

 悪質な記者に絡まれて困っているスペシャルウィークを助けよう、という気持ちも当然あるのだろう。

 

 だが、それ以上に。

 

 

「全てのウマ娘が秘める、あらゆる可能性を導こうじゃないかッ!! ……ほら、せっかくなんだからキミたちも参加したまえよ」

 

「いえ、遠慮しておきます」

 

「キャラじゃねぇンだよ、どう考えても」

 

「ギリギリじゃあ物足りねぇ、限界なんてブッ壊したその先まで、魂が焼け付くほどおもしれぇ勝負がしてぇッ!!」

 

「一攫千金? 一国一城? ハッハァ! そんな誰でも思いつくような栄光なんて必要ない、もっと、どこまでも強欲にならなきゃなァッ!!」

 

「ターフが焦げるほどの熱いタイマンだァッ!!」

 

「最高の奇跡を信じてくれているみんなへ、最高の舞台を届けるよッ!!」

 

 

 言いたい放題に誰も彼もが夢を叫ぶ。

 

 やがてバカ騒ぎが落ち着けば。黒ジャージのトレーナーが、最強にして最恐であり最狂の非公式チーム・ポラリスのトレーナーがゆっくりとメディア関係者へ向けて歩き出す。

 

 そして。

 

 

「キング」

 

「お〜ほっほっほっほッ!! 世代のキングに相応しい走りを見せてあげるわッ!!」

 

「エル」

 

「残念デスが、エルに夢はありまセーン。なぜなら……世界最強はッ!! そう、エルコンドルパサーだとッ!! これからレースで証明してしまうからデースッ!!」

 

「スカイ」

 

「いやぁ〜、別に人様の前でどうこう語るようなことなんて持ち合わせちゃございませんが……ま、前評判の想定内のレースばっかりじゃ、応援してくれる皆さんも退屈しちゃうだろうからね〜」

 

「グラス」

 

「あら、どうしましょう? 不退転の決意は井の中の蛙だったことを知ってしまいましたし……そうですね、せっかく空の青さを知ったのですから今後は翔ぶが如くを目指しましょうか」

 

「スペ」

 

「はいッ!」

 

「前にも聞いたような気もするが……つい、うっかり忘れちまってナ? せっかくなんでもっペン聞かせてくれよ。────ウマ娘、スペシャルウィークはどんな夢を描いてターフの上に立つ?」

 

「私の夢は」

 

 

 最初は憧れだった。

 

 画面の向こう側から始まって、頑張って勉強して、中央トレセン学園の門を潜り抜けて。

 それでもまだ、先輩たちの走る姿にただ憧れるだけだった。ふたりの母に誓った夢を忘れたワケではなかったが、どこか……まるで、別世界の出来事のようで。

 

 だけど、いまのスペシャルウィークは知っている。否、思い出して、そして、忘れずに今日までメイクデビューを待ち望み進み続けてきた。

 

 そうだ、最初は憧れだったその世界に、自らの脚で中央トレセン学園にやってきたのは。

 

 

 

 

「────私の夢は、日本一のウマ娘になることですッ!!!!」

 

 

 

 

 もう1度聴きたいと言うのであればもう一度。

 

 何度でも見たいと言うのであれば何度でも。

 

 最高に面白いレースが見たいというのなら、自分もその舞台の主役になってみせる。それぐらいのことを成せずして、日本一のウマ娘など名乗れるものか。

 

 

「笑えよ」

 

「……へ? は、はい?」

 

「遠慮することはねぇ。笑えよ。面白かっただろ? ホラ、好きなだけ笑え。誰も止めやしねぇ」

 

「い、いや、我々は……その……」

 

「……フゥ」

 

「はひ……ッ?!」

 

 

((((うわぁ……))))

 

 

 笑えと言っている張本人の目が誰よりも笑っていない。

 

 ポラリスに所属するウマ娘たちや、ポラリスと交流のあるウマ娘たちはトレーナーが怒っていないことに気づいている。夢を笑う者がいたとしても、彼は有無を言わせぬ結果を出して黙らせればいいと考えるタイプだと知っているからだ。

 良くも悪くも感情の在り方を最優先とするロマンチストの部分が大半だが、レースに関しては驚くほどのリアリストという不思議な人物。謎のトレーニングに最初こそ戸惑うが、トレーナーが手書きで記したノートを読めば“そのウマ娘に必要なモノ”をどこまでも現実的な課題としてクリアすることを考えているとわかる。

 

 だから、彼は怒っているワケではない。ただ、愉快なオモチャが現れたから面白可笑しく弄って楽しんでいるだけ。

 ……ある意味、余計にたちが悪いとも言える。もちろん助け舟を出すようなウマ娘などいるはずもないが。

 

 

「笑わないのか? それとも────笑えねぇのか」

 

 

 そりゃ笑えないだろ。取材手続きという名のルールを盾に子ども相手にちっぽけな自尊心を満たそうとしたらルールなんて関係の無いヤベェのが出てきたんだから。

 脱兎の如く、とはまさにこのこと。わざわざ面倒な手続きをしてまで取材許可を取り付けただろうに、わざわざトラブルを起こして仕事のチャンスを潰し逃げ帰った彼ら彼女らは本当になにがしたかったのだろうか? 

 

 

「……なんだったんだ? アイツらは。まぁいい」

 

 

 ウマ娘に危害が加えられる心配さえ無ければ、ポラリストレーナーの興味が消える速度は短距離得意の逃げウマ娘よりも早い。5分後にはすっかりメディア関係者たちのことなど忘れ、またいつも通りウマ娘たちのためトレーニングを始めるのだろう。

 

 

「ん」

 

「ふぇ?」

 

 

 背中を向けたまま、人差し指をクイッと。ついてこい? ということ……で、いいのだろうか? 

 

 

「今日は東京レース場だ」

 

「東京レース場? ……あッ!」

 

 

 なるほど。日本一のウマ娘を目指すなら、絶対に避けては通れないレースがある。友人たちも、ライバルたちもきっと同じ勝負の舞台を目指すはず。だったら自分もまた挑まないワケにはいかないだろう。一生に1度しかないレースのために、いつだって本気で走るために。

 

 

 誰かに憧れて走り始めた少女は、いつか必ず誰かが憧れる走りまで辿り着く。




 何故かこの世界のスペシャルウィークはメンタル面がタフですね。ジャパンカップの例の名ゼリフも大変なことになりそうな予感がします。
 世界連合が誰かを標的にして乗り込んでくることを多分メガネとスーツとチャカの似合うウマ娘に教えて貰うことになるので。いやぁ、スペシャルウィークの担当になるトレーナーさんは大変なことになっちゃうなぁ凄いなぁ!


 続きは雪解けで天然物の自転車が芽吹いてきたら、次の登場ウマ娘はエルコンドルパサーになります。
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