貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
高い人気と確かな実力。新馬戦から始まって、ジャパンカップや凱旋門賞など名馬の揃う重賞レースを含めても揺るぐことのない強さを見せつけた優駿。エルコンドルパサーという競走馬の能力を疑う競馬関係者などいないといっても過言ではないかもしれません。
自信に満ちた言動はそうした実績の裏付けによるものと思えば、いつ如何なるときも臆することなく世界最強と口にする彼女の性格にも納得できることでしょう。マスクをしなければ少しだけ勢いが落ち込んでしまうこと、ときどきイタズラの度が過ぎてグラスワンダーなどほかのウマ娘たちを巻き込んでしまうこともまた愛嬌というものです。
そんな超実力派ウマ娘は現在。
「ふ、フフ、フフフ……ッ! ぶ、ブライアン先輩、ムリをする必要はありまセーン……ッ! お肉以外は食べない、という……先輩の話はエルも知ってマース……ッ! 言い訳だなんて、そんな、コト、言い触らしたりしまセンから、遠慮なくギブアップしても……ッ!」
「く、クク……ッ! ずいぶんと、安い、挑発だな……? お、オマエのほうこそ、余裕が、ないんだろう……? な、に、余計な……気遣いなど、不要……だ……ッ! 上等な、肉は、多少の……辛味、程度では、その、旨味は……決して、負けたりはしないのだからな……ッ!」
「はふっ、はふっ……。うん、しっかり辛いけどトレーナーさんが用意してくれた料理、やっぱり美味しい。唐辛子は代謝が良くなる食材だっていうことはおれも知ってたけど、まさか唐辛子をメインの食材として食べる料理なんて珍しいよね」
「はひ、ふひぃ〜……ッ! 汗すっごい……ッ! そうですね、私もトレーナーさんにはオリジナルスムージー作りからイロイロとお世話になってますけど、いろんなお料理をご馳走になってるうちに体質もずいぶんとイイ感じに整ってますッ! まぁ、そのことをお世話になってる先生に話したら複雑な顔してましたけど。なんかこう、またアイツは医学にケンカ売ってんのかみたいなこと呟いてました!」
「あ〜はっはっはッ!! 滝のように流れる汗すらも美しく輝いてしまうなんて、舌がしびれるような激辛料理さえもボクの溢れ出る覇王オーラの前では精彩を欠いてしまうようだねぇッ!! それはそれとして、ボクはこれからはきな粉豆乳オレに対して常に敬意を示すと誓うよッ!!」
「すごく、美味しい、ですけど……ッ!! すごくすごい辛いです……ッ!!」
「この俺が、唐辛子如きに……ッ!! 如き、にぃ……くぁああやっぱ辛ぇぇぇぇッ!? クソッ、それでちゃんとウメェのが逆に腹立たしい……ッ! だが、皿に取っちまったぶんを残すなんて、自分の道を曲げるようなマネしてたまるかよ……ッ! フジさん、俺に力をッ!! 肉ッ!! 美味ぇッ!! ……俺にもきな粉豆乳くれ、ジョッキで」
「バトルロワイヤルって言ったって、好きな辛さのヤツ食べていいんだからムリしなきゃいいのに。どーせトレーナーがまた思い付きでタイトル考えただけなんだからさ。あ、マックイーン。このチーズ味のスープのヤツ、しっかり辛いけどオイシイよ。この赤いご飯にかけて食べるんだって」
「これも、その、トウガラシの原型そのままですわね……? いえ、ですがこちらの干し肉と大根と一緒に調理された煮物も常識的な辛さで美味しかったですし、カプサイシン効果で代謝が改善され発汗作用もこれだけ活性化しているということはつまり……えぇ、そうですね。せっかくテイオーさんがお勧めしてくださったのですから」
「イクノ、イクノッ! 見て見てッ! このシャーベットにも、緑色のトウガラシ入ってるッ! デザートにまでトウガラシ使っちゃうなんて、トレーナーは激辛料理もエンジン全開だなッ!」
「真っ白なレモン味のシャーベットに青唐辛子の色合いが良いコントラストになっていますね。ですが、以前ご馳走になった胡椒とチョコレートのソーセージ料理も美味しかったことですし、きっとコレもちゃんと美味しく作ってあるのでしょう。しかし、この見た目のインパクトは……ロイスさんもお誘いするべきでしたか」
レースとはまた違う熱気の中、慣れたウマ娘であれば大量の発汗を前提に水着に着替えている者も少なくない激辛料理バトルロワイヤル。もちろんバトル要素などなにもありませんので勝利者が決定されることもありません。
これは貴方のオールトの雲から飛来する長周期彗星並みに冴え渡る頭脳プレーによる作戦に過ぎないのです。脚の故障率がチラチラ見えているウマ娘たちにわざわざ声をかけて注意喚起を実行するなど悪役トレーナーの風上にも置けないと考えた貴方は、闘争心を煽ることでウマ娘たちのほうから参加したくなるよう取り計らったというワケです。
さすがに参加するウマ娘全員が狙い通り脚に不安があるウマ娘ばかりではありません。レジャーシートを敷いた休憩スペースでアグネスタキオンとタニノギムレットに団扇でパタパタされている脱落二人組なども一応ステータスを確認しましたが、特に問題は無く大変健康そのものでした。
もちろん最強のチート能力を持つ貴方が用意した料理になんの仕掛けも施されていないなどあり得ません。
そのウマ娘が必要とする量を摂取した時点でギブアップしたくなるように小細工がバッチリと仕込んであるのです。
つまり、逆の言い方をするのであれば。マイペースに唐辛子料理を楽しんでいるウマ娘たちはともかく、エルコンドルパサーを含めチャレンジ精神に後押しされ食べ進めているウマ娘たちは本人も気付かないうちに疲労が蓄積しているという証拠でもあります。
学園全体が活気付くのは面白いレースが見たい貴方にとっても喜ばしいことです。しかし、若いアスリートたちが成長する姿に目が眩んで安全管理を疎かにしてしまうようでは教育機関として本末転倒であり言語道断というもの。
模範的悪役トレーナーとしては不本意ではありますが……さすがの善良なる超一流トレーナーたちでも疲労や故障率を数値で認識することが不可能である以上、チート能力者である自分が秘密裏にウマ娘たちの健康管理を手助けしなければならないと貴方も割り切っています。
幸いにして貴方がウマ娘たちのことを心配しているという事実をカモフラージュするための手段は豊富に揃っています。
ちょうどエルコンドルパサーが選抜レースのために蹄鉄シューズを新調するということで相談を受けた貴方が手配した物が届いていますので、微調整のためにコンディションを確認すると偽るだけの簡単なお仕事でしかありません。
こうも全てが順調だと逆に感覚が鈍ってしまうかもしれない、我ながら悪役として優秀過ぎるのも考えものだ。完璧な自己評価を終えた貴方はエルコンドルパサーに蹄鉄シューズが届いたこと、風邪などひかないようシャワーと着替えをキチンと済ませてから来ることを伝えて部屋を出ることにしました。もちろん優秀過ぎる貴方は何人かのウマ娘が半端に髪が濡れた状態でやってくることもお見通しなのでドライヤーとブラシの準備も怠りません。
香辛料の食べ過ぎは普通に体調を崩す原因になるので安易にマネをしないように。
スパイスの薬効も過ぎれば頭がスッキリどころかズキズキすることを私はカレー屋さんで学びました。やはり中辛こそ原点にして頂点の王道でごわす。