貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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雑煮で。

 レースを“勝利する”ではなく、レースを“支配する”と表現されるところに、エアグルーヴがどれほど強い牝馬であったのかが読み取れます。

 

 女王・ダイナカールとの母娘二代のオークス制覇はもちろんのこと、牡馬と同じレースでも勝てるという評価。レースを、そして勝利と敗北を理解しており、ときには相手を睨み付けたとも言われているほどの負けん気は、グルーヴの名の通りファンをワクワクさせたことでしょう。

 

 

 そして現在。その強さから“女帝”と称された名馬と同じ名を持つウマ娘は、貴方を正面から睨み付けています。

 

 

 基本的に貴方はウマ娘側からのアクションがなければ放置して見ているだけです。それはつまり場合によっては個別に対応してしまっているということであり充分大問題ですが今更なのでひとまず置いておきましょう。

 基本ではなく例外的に貴方のほうから積極的に関わるとき、それはウマ娘たちに怪我のリスクが発生したときです。視覚的な情報として疲労の蓄積が見えている貴方は、確実にオーバーワークとなり明日以降に影響が出そうなウマ娘の練習は認めていません。走っている間はいつでも絶好調な異次元の逃亡者などは完全放置ですが。

 

 つまり貴方が声をかけたエアグルーヴは現在、体調不良を気力で補って立っている状態なのです。

 

 とはいえそこはさすが未来の女帝。皆の手本であろうとする姿勢から、素直に引き下がろうとはしません。

 これがアプリのトレーナーであれば上手に誘導できるのかもしれませんが、貴方の場合はそもそも相手に嫌われるのが目的ですので遠慮や配慮など考えてはいないのです。渋るエアグルーヴを相手に、貴方は容赦なく周囲を巻き込みつつ批判をしました。

 

 

 自惚れるな、自分の体調管理もできないようなヤツに世話してもらわなければならないほど、ここにいるウマ娘たちは弱くない。お前の背中を追いかける後輩が無茶をして怪我をしたとき、お前はなんて声をかけるつもりだ? その程度で情けないとでも言うつもりなのか? 

 

 

 自分に向けられた批判には耐えられても、自分が理由でほかのウマ娘たちまで悪し様に言われることは我慢できなかったのでしょう。貴方は見事、エアグルーヴを帰らせることに成功しました。

 貴方の悪役ぶりにコースの管理スタッフが「もう少し優しい言い方があるんじゃないか?」と口出しをしてきました。ウマ娘だけでなく学園スタッフにもマイナスアピールをする絶好のチャンス、貴方はさらに強気で言葉を続けます。

 

 

 それで怪我をされたら意味がない。彼女が目標とするレースに勝てるのならば、どれだけ恨まれようが知ったことではない。

 

 

 堂々と言い切った貴方の態度に諦めたのか、スタッフはそれ以上はなにも言わずに立ち去りました。またもや勝利してしまった、きっと明日にはスタッフ同士で自分の悪口で盛り上がるに違いないと貴方は内心ウキウキです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 今日()満点の悪人ムーヴができたとご満悦で帰り支度を済ませた貴方ですが、いざ駐車場へ向かおうかというタイミングで正面から数人のトレーナーたちがやって来ることに気が付きました。

 胸元のトレーナーバッジを見れば、育成評価が『A』以上の──GⅠウマ娘を育てた経験のあるトレーナーたちであることがわかります。トレーナー同士の交流に欠片も興味のない貴方には誰が誰だかサッパリですが、偉そうな立場の相手ということさえ理解できれば充分です。

 

 トレーナーたちが貴方の前で立ち止まりました。どうやら偶然こちらの方向へ歩いてきたワケではなく、貴方に用事がある様子。

 本来であれば後輩である自分が頭を下げて挨拶をするべきであることは理解しています。理解しているからこそ貴方は相手が先に用件を切り出すのを待つことにしました。

 

 沈黙のまま10秒ほど時間が流れ、ついに向こう側が折れて頼んでもいない自己紹介を始めました。どうやら彼ら彼女らはいわゆる“名門”と呼ばれるトレーナーたちのようです。

 それを知った貴方は、表面上は冷静を装っていますがテンションが急上昇しています。これはもしかしなくとも、自分の悪行ぶりに対して正義感のあるトレーナーたちがついに行動を起こしたのだと大喜びです。しかし──。

 

 

「エアグルーヴに関わるのを止めろ。彼女はGⅠウマ娘になる才能を持った貴重なウマ娘なんだ。なんの実績もない寒門トレーナーの出る幕じゃない、身の程を弁えろ」

 

 

 そういうセリフはもっと早くに、それこそミスターシービーとの取り引きが始まった時点で聞きたかったのに。

 

 学園から立ち去れと言われることを期待していた貴方はガッカリしてしまいましたが、これはこれで努力が実を結んだ形だなと妥協することにしたようです。それに、これは追放のヒントを得るチャンスです。ここはしっかりと先輩方のお話に耳を傾けるとしましょう!


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