貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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パイセンいめーじ。

 マルゼンスキーという馬の走りはとても素晴らしく、そしてとても異質なものかもしれません。

 

 ウマ娘ではミスターシービーと並び最強格の存在として扱われることも多く、アプリでもバグで鬼のように強化され登場したときですら「まぁこの2頭がモデルだしな……」とユーザーが納得するほどです。

 8戦8勝、生涯無敗。モデルとなったマルゼンスキー号のレースは、関係者の皆さんがマルゼンスキーこそが最強だと自信をもって語るほど圧倒的な強さでした。それこそ、その強さ故に生じた歪みは勝った負けたという単純な話では終わってくれなかったほどにです。

 

 ウマ娘のマルゼンスキーが「楽しく走れればそれでいい」と名誉にそれほど興味がなく、後輩たちはもちろん周囲のウマ娘たちを気遣うことが多いのも、その強さ故に良くも悪くも特別扱いされたマルゼンスキー号の影響なのかもしれません。

 

 

 さて、そんな特別扱いされるほど慕われているウマ娘が自分のようなトレーナーに何用なのかと聞いてみれば、なんとマルゼンスキーもメイクデビューに単独出走するのでアドバイスが欲しいとのこと。

 

 追放を夢見て過ごしている貴方ですが、実のところマルゼンスキーのトレーナーになる人物には興味津々でした。名誉に一切の興味を示さない世捨て人候補か、そうでなければ人生2回目かと言われたアプリトレーナーが現れるなら見てみたい、と。

 やはりそんな規格外のトレーナーなど存在しなかったらしい。少々残念に思いながらも、そういう事情であればアドバイスぐらいは引き受けてもいいかとトレーニング計画表を受け取りました。

 

 計画そのものは悪くないのですが、マルゼンスキーには必要なさそうなメニューがいくつか含まれています。貴方が手早くそれらを削除し始めると、横からストップの声がかかりました。

 どうやらマルゼンスキーなりに考えて、逃げ以外にも先行などの作戦も視野に入れてメニューを組んだようです。たしかに全てがプログラムで制御されるゲームとは違い、臨機応変に作戦を切り替えることを要求される場面もあるでしょう。

 

 

 貴方は少しだけ悩みましたが、やはり逃げ以外のトレーニングは不要であるとサクサクと消していきます。もちろんマルゼンスキーからは本当にそれでいいのかと疑問を投げ掛けられますが、貴方は特になにも考えることなく「それでいい」とあっさり答えました。

 

 トレーナー不在でレースを走るのであれば、臨機応変に走り方を変えるよりも得意な走りを徹底的に鍛え上げたほうが悩まなくて済む。

 なによりも、周囲のペースに合わせた窮屈な走り方はマルゼンスキーには向いていない。それなら最初から先頭で好き勝手にペースを作り、ラストスパートをフルスロットルで駆け抜けたほうが勝ちやすい。そのほうがマルゼンスキーらしくて好みに合うだろう。

 

 貴方の説明を聞いたマルゼンスキーは数秒ほど考え込んだようですが、それはナイスアイディアだと提案を受け入れました。

 とはいえ、貴方が提案しているのはあくまでトレーニングの計画でありレースプランではありません。実際の勝負でどこまで通用するかは未知数でしょう。1度コースに立てばそこはウマ娘のための舞台。いつものように余計なことさえ思いつかなければ干渉するつもりはありません。余計なことさえ、思いつかなければ。

 

 

 ちなみに貴方とマルゼンスキーの会話を聞いてソワソワしながらチラチラ視線を向けている異次元の逃亡者がいましたが、もちろん貴方は放置しています。

 ここで迂闊に自由に走れと、あるいはそれに近しい形で背中を押せば確実に面倒なことになると考えたからです。これほど冷静で的確な判断ができるということは、もしかしたら連日連夜の監督業務は貴方の心身に相当な負担を強いているのかもしれません。

 

 

 まずはアドバイスに従いトレーニングをして、それで迷うことがあればまたアドバイスを頼みたい。そう言い残してマルゼンスキーは立ち去りました。

 その前に取り引きの報酬としてレースの賞金で車を購入したら最初に助手席に乗せてくれるとの申し出がありましたが、車は自分で運転したい貴方は普通に断ったようです。ナイス判断、やはり休息が必要でしょう。


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