貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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激マブいめーじ。

「おっ、今日はたこ焼きかぁ! うんうん、ソースの味って男の子って感じするもんなぁ。こっちのソースかかってないトコ柚子ポンかけていい?」

 

「ほーん、なかなか悪くないなぁ。タコの歯応えもええし、紅しょうがの割合も絶妙やな。今度ウチも買いに行ってみよか」

 

 

 貴方は今日もウマ娘たちの練習する姿を眺めながら食事を楽しんでいます。参加しているウマ娘の人数が増えている気がしますが、メイクデビューが近いしそんなものかと貴方は気楽に考えています。

 実はこの中には、アルバイトの時間を日中の放課後に切り替えてまでこの夜間練習にリソースを全て注ぎ込んでいるウマ娘もいるのですが、もちろん貴方はそんな事情など知る由もありません。

 

 貴方が知っていることといえば、エアグルーヴから「購買部から生徒会に、突然特定の商品が売り切れるから在庫の整理が大変だと意見書が来てる」と聞かされたぐらいなものです。真夜中に食欲に負けず翌日まで我慢できているところは、やはり学生でもアスリートとしての矜持がなんとか勝利したのでしょう。

 購買部のスタッフには申し訳ないと思いつつ、これが野望のために他者に不利益を強いる悪の美学、追放目的のための致し方ない犠牲“コラテラルダメージ”なのかと貴方は自分の外道ぶりに酔いしれています。売店のおば様方とカフェテリアのスタッフが協力して屋台グルメの販売を本気で検討していますが因果関係は不明ということにしておきましょう。

 

 さて、貴方の把握していない部分でトレセン学園に地味な変化が発生していますが、目の前では実に分かりやすい変化が発生しています。ミスターシービーとマルゼンスキーが静かに芝のコースを周回しているのです。

 

 一人暮らしを理由に早めに帰宅していたはずのふたりですが、最近はギリギリまで練習に参加するようになりました。やはりあのふたりでもメイクデビューは特別なのでしょう。ゆったりとしたペースで走行フォームを丁寧に丁寧に確認しながら走るふたりの姿に、さすが本物の天才は地道な努力も惜しまないものなのだなと貴方は感心しています。

 

 何故かほかのウマ娘たちは話しかけるどころか近寄ろうとさえしません。貴方の抱えたお皿からたこ焼きを失敬しながらもゴールドシップやタマモクロスが真剣な表情でアレはヤベェ、なんちゅう威圧感や、と呟いています。

 当然ですがふたりの練習の様子をのんびり観察しながら、明日はなにを食べようかと考えている貴方にはそれらの情報は伝わりません。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ねぇトレーナー君。ひとつ聞きたいことがあるんだけれど、キミは逃げで走るウマ娘についてどう思っているのかしら? えーと、ほら、あたしには自由に走ったほうがいいって言ってくれたけど、ほかの子とかならどう思うのかなって、ちょっと気になっちゃって」

 

 ある日のこと。貴方がいつものようにルーム付近の廊下を掃除していると、マルゼンスキーからそんな質問をされました。

 

 どう思うか、つまりは自分の主観で感想を述べればいいのかと判断した貴方は、別に深く考えることはない、逃げが性分にあっているのならひたすら逃げればいいだろうと答えます。

 圧倒的な速度で先頭を駆け抜けてもいいし、後ろにプレッシャーを与えて封じ込めを狙ってもいい。あるいは、ほかのウマ娘たちの癖を分析してレース全体をコントロールするような走り方をするのも面白いだろう。

 

 貴方がイメージする逃げが得意なウマ娘たちの走り方をそのまま伝えると、マルゼンスキーは一瞬だけ呆気にとられたような表情を浮かべ──嬉しそうに大笑いし始めました。

 

「うんうん! さすがはトレーナー君ね! ウルトラ花丸大満足、とってもチョベリグな答えを聞かせてくれたわ! ふふ、いきなり変な質問してゴメンなさいね? お詫びに今度、とっておきのスイーツを差し入れするわ♪」

 

 

 後日。貴方は大量に持ち込まれたナタデココを賞味期限内に食べきるために、しばらくの間それだけを監督業務中の夜食に選びました。

 その数日の間に購買部からナタデココが売り切れることはなく、何故か夜間練習に参加しているウマ娘たちから貴方へカップラーメンの差し入れが届けられたようです。




次回はマルゼン視点です。

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