貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
貴方はウマ娘たちと担当契約を結ぶつもりは断固としてありませんが、取り引きという形で協力することについてはやぶさかではありません。
なぜなら貴方は『取り引き』という言葉の響きに悪の組織の幹部のようなダークな格好よさを抱いているからです。前世の仕事で当たり前のように使っていたはずですが、おそらく転生のショックで忘却してしまったのでしょう。
貴方が水面下で取り引きという単語のネガティブキャンペーンを楽しんでいるところに、とあるウマ娘がやってきました。夜間練習に参加しているウマ娘で、なんで担当がいないのか不思議に思えるレベルの優秀な逃げ脚の持ち主です。
「やーやー、トレーナーさん。アタシとも取り引きをお願いできますかね? 契約はナシでも取り引きならトレーニングのアドバイス、もらえるんでしたよね? ここはひとつ、ひろーい心でご教授願えませんかねぇ~。──ミスターシービーに勝つ方法、ってヤツをちょこっとね」
いままでにないタイプの取り引きに、珍しく貴方は即答することなく思考を巡らせ始めました。
貴方はこれまで潜在能力を引き出すためのキッカケとしてチート能力を混ぜつつトレーニングプランを提案してきました。あくまでトレーニングの方法であり、どの程度結果に反映されるかは本人の努力次第です。
しかし、勝つためのアドバイスとなれば少々事情が異なります。ましてや目の前のウマ娘が望んでいるのは天才・ミスターシービーに勝利すること。トレーニングだけでなくレースプランもしっかり組み立てなければ勝ち目は薄いでしょう。
貴方はチート転生者である自分が、そこまでレースの世界に深入りしていいのか迷っています。もちろんレースプランの組み立てに協力したとしても実際に努力するのはウマ娘ですから、それで勝利したのであればウマ娘自身が最初から持っていた力であると貴方は断言するつもりです。
ちなみにミスターシービーへの遠慮は貴方の頭の中には存在しません。なぜなら担当ウマ娘ではないからです。
どうしたものかと脳に涙ぐましい労働を強いていると、唐突に天啓が舞い降りてきました。むしろ、これは追放への更なる一手として利用できるのではないか? と。
目の前のウマ娘が勝利した場合。
①取り引き中であるにも拘わらずほかのウマ娘を強化したことにミスターシービーが不満を持つ。
②なんてトレーナーだ、あんなヤツは信用できない!
③ウマ娘との協力関係を蔑ろにするとはトレーナーの風上にも置けない!
④トレセン学園を追放される。
目の前のウマ娘が敗北した場合。
①勝たせてやると引き受けたにも拘わらずレースに勝てなかったことにウマ娘が不満を持つ。
②なんてトレーナーだ、あんなヤツは信用できない!
③ウマ娘に悪意のあるウソをつくなんてトレーナーの風上にも置けない!
④トレセン学園を追放される。
どう足掻いても勝利しか得られない、なるほどこういうときに私は敗北を望んでいると言えばいいのか。
某エレガントな閣下に大変失礼な発想ですが、メジロライアンを貴方の主観で侮辱したときにはひとつのパターンしか考え付かなかったことを思えば、ずいぶん成長したと褒めるべきでしょう。
例えばこれが考古学の世界であれば、失われた空白が酷すぎてアクティブで有名な学者先生もキレて帽子を地面に叩き付けるレベルの進化です。
答えを得た貴方は当然ウマ娘の申し出を快く引き受けます。ウマ娘はそのことに何故か驚きましたが、すぐに飄々とした態度に戻り「そんじゃ、よろしくお願いしま~っす」と言い残して立ち去りました。
夜間練習に参加しているということもあり、貴方は取り引き相手のウマ娘の走り方やクセについてはそれなりに把握しています。
ほかに同じレースに出走するウマ娘が誰なのかは公開されていますので、あとはチート能力を併用しつつ頭の中でメイクデビューのシミュレーションを行い、勝てるパターンが見つかるまで試行錯誤を繰り返すだけの単純作業です。
一生に1度のメイクデビューとはいえ、さすがにGⅠレースの大舞台ほどウマ娘側も心血を注いではいないだろう。ほんの数百パターンぐらい試せば充分か。
本来であればそれでも充分な作業量ですが、いまの貴方は飲むヨーグルトに突き刺したポッキーに匹敵するほどの強固な追放フラグを得たことにより気力が充実しています。明日の朝にはあのウマ娘に完璧なトレーニングとレースのプランを提案できるでしょう。
今回はメイクデビューが題材の話なので、6月中には終わらせたいところ。