貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
貴方はチート能力を持つ転生者ですが、その心身は普通の人間です。なので、チート能力を使えば当然負担がかかります。
苦労をした甲斐があって勝利のパターンはなんとか見つかりましたが、計画書を書き上げた貴方は体力の限界を迎えていました。そのため、内容が具体的にどのようなプランなのかをあまり把握できていません。
もちろんその疲労もチートを使えば簡単に解消できます。ですが貴方はクーラーに慣れすぎて外を歩けなくなり季節を楽しめなくなるような無粋を嫌うタイプなので、どうせ日中はルームでゴロゴロするだけだからと自然回復に身を任せることにしました。
プランの全てを取り引き相手のウマ娘にぶん投げた貴方ですが、ちゃっかりとメイクデビューそのものは楽しみな様子。何故なら彼女は普通の逃げではなく、差しウマ娘のような強力な加速が期待できるからです。
いわゆる“逃げて差す”と言われたサイレンススズカのような走りが見れるかもしれない。もちろん先頭の景色にこだわるサイレンススズカとはタイプが違います。勝利を目的とした荒々しい走りになるのか、本人の飄々とした態度のような伸び伸びとした加速をするのかはわかりません。あるいは、最後の最後で粘り強く速度を保つような走り方かもしれません。様々な可能性を秘めているだけに、メイクデビューが楽しみで仕方がないのでしょう。
唯一の懸念材料は貴方が計画したトレーニングやレース運びにどこまで対応できるのか、という部分にあります。
ミスターシービーの同期ということもあり、すでに本格化が完了している彼女が走り方を変えるのはかなりの賭けになるからです。キングヘイローやハルウララのように、これから本格化が始まるのであれば大幅な脚質の改善にも対応できますが、あのウマ娘の脚質にどれほどの柔軟性と発展性が残されているかは未知数というのが貴方の見立てです。
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メイクデビュー当日、貴方は快適空間に改造してあるルームのテレビでのんびり楽しむ予定でしたが、ウマ娘たちに連れ出されて直接レース場に向かうことになりました。
夜間練習に参加しているウマ娘も含めて、取り引き相手が多数出走するということもあり、それぐらいの手間は惜しむこともないかと貴方は妥協したようです。決して笑顔のメジロライアンとアイネスフウジンの放つ圧力に負けて「これ断った瞬間に顔面に
レース場の観客席はそれなりといった人数です。やはり熱心なファンでもなければ、まだまだ無名のウマ娘を応援するために会場へ……とまではならないのでしょう。
対照的にトレーナーなどのために設けられた関係者席はなかなか賑やかなことになっています。やはり立場的にこれから誕生するスターウマ娘が誰なのか気になるのかもしれません。
控え室のミスターシービーはいつものように余裕のある態度──ではなく、ソワソワと落ち着かない様子です。なんでも「根拠はないが、今日のレースはとても素敵なことが待っている予感がする」とのこと。
天才の感性は貴方には理解できなかったようですが、特にトラブルもなくゲートインできそうならば長居しても仕方がない。少し雉を撃ちに行ってくると伝え控え室から出ることにしました。本来は山で使う言葉ですが、ウマ娘たちは察してくれたようで素直に見送ってくれるようです。ハルウララだけは理解できていないようですが、キングヘイローがなんとかしてくれるでしょう。
もちろん貴方の目的はお手洗いとは別にあります。せっかくレース場に来たのだからと、ミスターシービーと同じレースに出走する取り引き相手のウマ娘の様子を確認するつもりのようです。
目的の控え室の中では、取り引き相手のウマ娘がそこそこリラックスした様子でタブレットを操作しています。やぁやぁトレーナーさんいらっしゃいませ~、と余裕のある態度で出迎えてくれました。
ヒラヒラと手を振るウマ娘ですが、今日までの悪人ロールプレイを支えてきた貴方の洞察力は彼女の手がわずかに震えていることを見逃しません。
そうか、これが“武者震い”というものか。
どこぞのタンポポグルメなウマ娘も大和撫子を目指す
そういうことならば、少しイジワルをしてからかってみようか。都合よく手頃な話題はないものか。一瞬だけ貴方は悩みましたが、そういえばこのウマ娘には取り引きの報酬の話をしていないことを思い出しました。
チート能力を持つ貴方は、ウマ娘たちに叶えて欲しい願いはありません。本気で走る姿を見ているだけで満足できるからです。なので、ほとんどのウマ娘には要求を保留している状態です。
唯一ハルウララにだけは『朝になったらがんばって自分で起きること』を要求しています。二度寝の時間が5分も短くなったと嬉しそうに語る一流ウマ娘の姿は当分忘れられないでしょう。
さっそく貴方は「取り引きの報酬について話をしに来た」と伝えます。まだレースも始まってないのに気が早いとケラケラ笑うウマ娘の姿に、これだけ自信に満ちているなら問題ないなとニヤリと笑いました。
どうやら貴方は目の前のウマ娘に“勝利宣言”を要求するようです。からかうことが目的ですので、もちろん「勝てたらいい」や「勝ちたい」などという中途半端な逃げ道は許しません。ハッキリと「自分の力でミスターシービーに勝つ」と、堂々と宣言することをウマ娘に求めました。