貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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おおしおへいはちろう。

 ターフの上へ体操着にゼッケンを着けたウマ娘が現れ、いよいよメイクデビューが始まろうとしています。

 

 誰も彼もが緊張した面持ちの中、ミスターシービーはこれから始まるレースを楽しみにしているのか気力に満ち満ちた笑顔を浮かべています。

 ほかのメンバーはほぼ全員が緊張しているのが観客席まで伝わりそうなほど張りつめた表情です。ただひとり、例のウマ娘だけは様子が違います。よほど集中しているのでしょう、ミスターシービーのほうを全く見ることなく正面だけを見つめています。

 

 なかなか良い気合いの乗り方をしている、これは面白いことになりそうだ。

 

 今後のレース人生に関わる大事な一戦であることは承知しているのですが、それでも貴方は期待が膨らむのを抑えきれそうにないようです。心境はどうしようもないとして、せめて表情ぐらいは引き締めておこうと貴方も気合いを入れ直しています。

 追放されるまでは半人前とはいえ書類上はトレーナーなのだから、勝負時ぐらいは真剣にならなければバッジの輝きを侮辱することになる。自分はあくまでダラダラと生きるスローライフのために追放を狙っているだけであり、トレーナーという職業を否定するつもりはないのだ。貴方は改めてレースに集中し始めました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 いよいよゲートが開放され、ウマ娘たちが飛び出します。追い込みウマ娘のミスターシービーは当然最後方からのスタートとなりました。

 そして先頭を勢いよく駆けるのは例のウマ娘。高い集中力からの鋭いスタートは見事としか言いようがありません。そのまま加速する姿に、関係者席のトレーナーたちも驚いているようです。あれだけの見事な立ち上がりを見せたのですから、騒ぎたくなるのも納得でしょう。

 

 どうやら勢い任せにぐんぐんリードを稼ぐ作戦のようです。アプリではとにもかくにも最終コーナーでの加速に祈りを捧げることになりがちですが、本来の逃げは序盤のリードを切り崩しながら粘り勝ちを狙うものであると貴方は知る機会がありました。おそらく意識が飛び飛びながらもその辺りをプランに盛り込んでいたのかもしれません。

 

 自分の走り方がすでに完成しつつあるミスターシービーは先頭の速度に釣られることもなく、むしろ想定外の展開なのか楽しそうに口元が歪んでいるくらいです。

 しかし、ほかのウマ娘たちは走りに迷いが生まれているようです。差しきれない可能性を考えて追うべきか、スタミナ切れを見越して脚を温存するべきか、決断できないままペースが乱れています。

 

 

 全体の流れはほぼそのまま、例のウマ娘が後続と10バ身近い大きなリードをキープしたままレースはついに終盤戦を迎えようとしています。

 そうなると当然、追い込みのミスターシービーは見事な加速で一気に駆け上がります。どっち付かずで余計にスタミナを消耗していたほかのウマ娘たちは、一瞬で──それこそ切り捨てられるかのように追い抜かれてしまいました。

 

 そのまま先頭のウマ娘の背後まで上がってきたミスターシービーですが、そこで勢いが鈍りました。そのまま追い越すこともできたはずだが、いったい何故だと貴方は前のウマ娘に注目しました。

 するとどうでしょう、前を走るウマ娘の脚さばきにわずかながらブレが生じています。雰囲気からして迷いや焦りではありません。怪我などのトラブルというワケでもなさそうです。

 

 

 ──ああ、そうだ。フェイントだ。

 

 

 1秒にも満たない、言うなれば刹那の瞬間。それでも走りにおいて天賦の才を持つミスターシービーは()()()()()()()()。相手が天才であることを利用した、ミスターシービーに勝ってレースに勝利するための走り方。

 メイクデビューにしてはずいぶんと奇策を選んだ……いや、選ばせてしまったな。そんなことを貴方は思いましたが、それをこうして使いこなせるまで練習したあのウマ娘の執念には素直に感心しています。ついでに、渡したプランは役に立っているのだなと安心もしているようです。

 

 疑問が消えてしまえば、あとは純粋にレースを楽しむだけでしょう。

 

 貴方はミスターシービーの三冠ウマ娘の獲得を応援していますが、それはほかのウマ娘が負けることを願っているワケではありません。

 自分の知らない名馬のウマソウルを宿したウマ娘たちも大勢いるのだから、それこそ出鼻を挫かれたところで不思議ではないと考えています。

 

 このまま相手の走りに対応できなければ、ミスターシービーの挑戦はメイクデビューの敗北からスタートすることになるでしょう。

 ですが、ミスターシービーはこのまま敗北を受け入れるようなウマ娘ではないと貴方は知っています。自ら気ままに流れることはあっても、誰かの起こした風に巻き込まれて流されるほどひ弱ではありません。なにより、楽しむことを重視する彼女が乗りたい風に乗り遅れるような間抜けであるとは思えません。

 

 残された少ない時間で活路を見出だすのか。あるいは一か八かの勝負に出るか。ミスターシービーがいったいどちらを選んだのかはわかりませんが、いよいよふたりの追い比べが始まりました。




次回はウマ娘たちの視点で決着です。
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