貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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答え合わせの時間。


『Silent Line』

 語る程でもない事実として周知されているもの。

 

 それは例えば、メイクデビューのウマ娘はペース配分に失敗しやすいということ。特に逃げウマ娘は掛かりやすいという話は、レース関係者だけでなくウマ娘ファンの間でも当たり前の常識として知られているぐらいだ。

 

 その前提があるのだから仕方ない。序盤からハイペースで先頭を行くウマ娘を見て「あぁ、残念だけどあの子のメイクデビューはもう終わってしまったな」と判断してしまうのはおかしなことではないのだ。

 それはコースの上を走っているウマ娘たちも同様である。嫌な言い方になるが、他人が失敗している姿を見ることでいくらか心に余裕ができたのだろう。先頭を走るウマ娘の勢いが衰えるまでじっくり脚を温存しようと呼吸を整えることに成功していた。

 

 

 異変は中盤戦の始まりから。

 

 

 逃げウマ娘というのはその多くが“先行”や“差し”に対応できなかったがために()()()()逃げるという認識が強い。故に、徐々に失速するのを待って確実に追い抜くための判断基準というものがある。

 後ろを頻りに確認し出す、耳の動きや尻尾の動きが忙しなくなるなど、ペースが乱れる予兆を頼りに後続のウマ娘たちもスタミナの配分を考えギアを上げるタイミングを計るのだ。──本来ならば。

 

 なにも、起きないのだ。先頭をハイペースで走るウマ娘には垂れる気配が微塵も感じられない。ゆっくりと丁寧に、しかしじっくりと確実に加速を続けて差を広げていく。自分たちを、後続のウマ娘たちの様子を一瞥することもなく、一切の迷いなく前へ前へと走っている。

 その様子を見ていたウマ娘たちは動揺した。してしまったのだ。知識を持たないことに、経験がない出来事にいきなり対応できるほどの柔軟性をメイクデビューのウマ娘が持ち合わせているワケがないのだから当たり前だ。

 

 ペースを上げるかセオリーに従い様子を見るか。どちらを選ぶのが()()なのか迷っている間にもレースは進みゴールまでの道程は消耗されていく。その事実が更なる焦りをウマ娘たちに押し付ける。

 

 まるでターフの上で溺れているような感覚に陥るウマ娘たちだったが、しばらくしてそこに救いの手が差し伸べられた。最後方で様子見に徹していたミスターシービーが先頭を目指して上がってきたのだ。

 ミスターシービーに追い抜かれた瞬間ウマ娘たちが感じたのは『安堵』である。やっぱりか、彼女は違う。私たちとは違い彼女は天才なんだ。天才だから強くて当たり前で、簡単に前に行ってしまうのだ。ミスターシービーに勝てないのは仕方ないし、私たちが負けるのも仕方ない。()()()()()()()()()()()()()

 

 勝利を放棄したウマ娘たちは冷静さを取り戻し、再び走ることに集中する。だがそれはレースに勝つためなどではなく、如何にして怪我無く無事に走りきるかという1点のみ。

 もはや模擬レース感覚ですらない、体力作りのランニングと変わらない気分でミスターシービーの背中を眺めていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ここまでほぼ()()()()()()()()()()()()()()とか、むしろアタシが動揺するかと思ったわい。

 

 後ろの様子を確認する必要はなかった。その走りに、その自由な在り方に、憧れて、嫉妬して、恐怖した。彼女の気配は背中越しでも輪郭がハッキリと見えそうなほどよくわかる。

 ついでに、あの天才に追い抜かされることで身の程を知った凡才たちがどうなっているのかも容易く予想できた。なにせそれはトレセン学園では何も珍しい光景ではないのだから。

 

 認めよう、なんて偉そうなことを言うつもりはない。彼女が強いウマ娘であることはずっと前から知っていた。

 

 気まぐれのようで走ることに関してはいつでも真剣だったことは知っている。

 

 才能があることを自覚しても努力を怠らないことは知っている。

 

 実力差があろうとも侮ることなく本気で競い合うことも知っている。

 

 ファンも、トレーナーも、同じコースの上を走るウマ娘たちでさえもミスターシービーを主人公だと信じて疑っていないことは知っている。

 

 彼女に勝ちたいなんて言っておきながら、実はあのイロモノで物好きで世話焼きなトレーナーをちょっと困らせてやろうか、なんてイタズラ心だけで。本気でミスターシービーに勝とうなんて、勝ちたいなんて思っていないことは知っている……つもりだった。

 

 

 なるほど。うん、なるほどね。たしかにあのトレーナーは性格が悪いね。

 特に、勝つための手段を与えておきながら放置してくるところとかサイコーに悪辣だよ。いっそのこと、取り引きだからって、トレーナーだからって命令してくれたなら悩むこともなく済んだのに。

 

 前言撤回。認めてやるよミスターシービー、アンタは間違いなく主人公になれるウマ娘だ。それは認めよう。

 だけど、レースってのは残念ながら主人公サマひとりだけでは成立しないんだ。物語ってのはどんなシナリオだろうとも、主人公以外のキャストも活躍するから面白いんだ。

 

 1度くらい。1度くらいはアンタのことを──思いっきり、ビビらせてやるッ!! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 2番手の位置まで一気に上がってきたミスターシービーを見て、観客の大半はこれで勝者は決まったなと確信しているようだった。

 それは大多数のトレーナーやウマ娘たちも同様である。あえて後ろに付いたのはスリップストリームを利用しスタミナと脚を整えるためだろう。あとはミスターシービーが最後に追い抜いて終わり。そんな声が聞こえそうな雰囲気の中──。

 

 

「違う。まだ終わらない」

 

「え?」

 

「シービーは後ろに付いたんじゃない。()()()()()()()()()()()()()。なんども挑戦したボクにはわかるよ。あんなキュークツな走りはシービーの走りじゃない」

 

 憧れのシンボリルドルフとは違う──調子に乗って勝負を挑んで返り討ちにされたときに感じた“絶対”を予感させる強い走りとは異なる、あるがままの“自然体”を感じさせる走りこそがミスターシービーの走りなのだ。

 だから、あのようなセオリーに素直に従う姿はミスターシービーらしくない。そうしなければならない“何か”がコースの上で起きているのだとトウカイテイオーは断言した。

 

 

 

 

「……フェイントだ」

 

 

 

 

 ミスターシービーが苦戦する“何か”とはなんなのか、ウマ娘たちの疑問に対する答えはすぐに与えられた。しかし、その詳しい内容については誰も説明を求められずにいた。

 

 何故なら、そこに居たのは彼女たちのよく知るトレーナーではなかったから。

 

 普段の彼は唐突に挑発的な物言いをしてきたり、練習している目の前で美味しそうなモノを見せつけるように食べたりと、言動に多少……だいぶ難のある人物なのは皆が知っている。それでも、どれほど癖が強くとも彼は感情豊かで温かみのあるトレーナーだった。

 だが、いまの彼は違う。表情からは感情というモノが全く感じられず、極端な言い方をしてしまえばウマ娘を生物として認識しているかも疑わしいほど冷たい眼をしていた。箇条書きにされた報告書をただの作業として読んでいるかのような、例えるならまるで──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()恐ろしさすらあったのだ。

 

「クラシック級やシニア級を走っているウマ娘相手には簡単に無視されるような未熟なフェイントだが、シービーも所詮はルーキーだからな。経験不足のまま感覚だけが反応して混乱しているんだ」

 

 淡々と、独り言のように説明を続けるトレーナーの姿に戸惑いながらもウマ娘たちの視線がコースへと戻った。異変の正体を知った上で彼女たちの走りを見れば、たしかに前を走るウマ娘のリズムが一瞬だけ不自然にズレていた。その度に、前へ抜け出そうと試みるミスターシービーの走りもわずかに乱されているのがわかる。

 一歩間違えば、ほんの少しでもタイミングが狂えば進路妨害になる危険な賭け。そんな走り方をするウマ娘なんて見たことがない。一体どうやってそんな走りを──と、そこまで考えたウマ娘たちだが、ほかのトレーナーなら絶対にやらないことを平然と行う例外にひとりだけ心当たりがあることを思い出した。まさかと視線をそちらに向ければ。

 

 

 

 

「さぁてどうするミスターシービー? 真剣勝負の世界で“知らなかったから負けました”なんて言い訳は通用しねェ、状況に対応できないヤツがマヌケ扱いされんのが当たり前だ。ま、メイクデビューの黒星から三冠ウマ娘を目指すってのも……常識破りって感じで面白ェかもしれないがなァ~」

 

 

 

 

 コイツ、()()()()()()

 

 

 扱いこそ単独出走でも、ミスターシービーのトレーニングを誰がしていたかなどトレセン学園で知らない者はいない。つまり、今回のレースの結果はそのまま彼の評価につながることになる。

 

 悪意のあるトレーナーであれば、彼のせいでミスターシービーは負けてしまったのだと嬉々として言いふらすだろう。いや、普段のトレーニング風景がイロモノなぶん、正義感の強いトレーナーもまともなトレーニングをさせて貰えなかったからだと怒る者も現れるかもしれない。

 目の前の男は、その程度のことが予測できないような惚けたトレーナーではないだろう。なにせ、普段も自分に向けられた悪意を鼻で笑って煽り返しているぐらいなのだから。

 

 

 全てを承知の上で、このトレーナーはミスターシービーのライバルとなるであろうウマ娘にさえ本気で勝つためのプランを与えたのだ。

 

 

 ウマ娘を金儲けの道具と発言したことで、いまでも彼のことを守銭奴として警戒している、あるいは侮蔑している者もいるが──冗談じゃない、守銭奴なんかよりもずっと性質(タチ)が悪い。

 きっとこの男は、このトレーナーはウマ娘の能力を伸ばすこと以外には興味がないのだ。自分が指導したウマ娘同士が潰し合うことなど全く気にしていない、そんなものはレースを走る当人同士の問題で自分には関係ないと完全に割り切っているに違いない。

 

 そしてそれは、レース関係者の間にある暗黙の了解を無視した行為でもある。普通のトレーナーは自分が担当したウマ娘同士を同じレースに出したりはしないのだ。

 当たり前だ、ウマ娘の戦績はそのままトレーナーの育成評価につながるのだから、わざわざ評価が下がる可能性を増やしてまで出走させるワケがない。チームに所属するウマ娘たちだってその辺りの事情を承知の上でレースを選んでいるぐらいには、誰もが()()()()()()()と受け入れているのだ。

 

 

 それを、このトレーナーは。明確なルールとしては存在しないとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「お、シービーが仕掛けるぞ。さて、ここからが本番ってヤツだな」

 

 

 こちらの気も知らず普段の調子に戻り楽しそうにレースを見守るトレーナーの姿に多少の苛立ちを感じつつも、そんなことより()()()()()()の結末を見逃してはならないとウマ娘たちが再びレースに集中する。

 

 彼女たちにとってこれは、目の前で繰り広げられているレースは、既にただのメイクデビューではなくなっていた。 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 好奇心の赴くままに様々な判断を直感に頼ってきた()()を、まさかメイクデビューで支払うことになるとは。

 

 今後はもう少しだけロジカルな考え方とやらも身に付けるべきか。前を走るウマ娘のフェイントに翻弄されながらも、そんなことを考えられる程度にはミスターシービーは落ち着いていた。

 

 だが、冷静さを取り戻したからといって状況が悪いことには変わらない。不自然なリズムの乱れ、ターフを駆ける蹄鉄の軋み、風に流れて聞こえてくる息づかい。全てに反応できてしまうが故に、ミスターシービーの脳裏には幾つもの可能性が見えてしまうのだ。

 だからといって、全てを無視して大きく外へ動こうものなら勝ち目は無くなる。トレーナーの組んでくれた持久力と加速力を重視したメニューのお陰で随分タフさには磨きがかかったが、フェイントに踊らされたおかげで余計な消耗が大きいのだ。

 違和感の正体に気付くまでの間に繰り返された急加速と急ブレーキが思いの外負担となってしまった。あの性格の悪いトレーナーのことだ、そこまで含めてレースプランを組んだに違いない。

 

 

 いやはや。まさかメイクデビューでいきなり()()()()を引くとは。

 

 

 トレーナーと取り引きをしているウマ娘との対決は楽しみにしていた。担当契約をしていないのだから育成評価など気にしないだろうと期待していたが、早々に彼の教えを受けたウマ娘と走れるとはなんて幸運だろうか。

 

 さて、こうなったからには覚悟を決めるしかない。なにせこの状況は自分の怠慢が招いた結果だ。彼女が私に勝つためのトレーニングをしている間、私は彼女のことなど考えずに自分を鍛えることしかしていなかった。

 彼女のことを卑怯などと言うつもりはない。出走するウマ娘が誰なのか事前に発表されていたのに、情報を活用しなかったのだから自業自得というヤツだろう。

 

 

 勇気を出して……は、ちょっとミスターシービーらしくないかな? そうだね、ここはあえてのいつも通り、好奇心の赴くままに──未知なる道へと踏み込んでしまえッ!! 

 

 

 スリップストリームから抜け出す瞬間の風圧などなにするものか。徹底的に鍛えてきたパワーで大気の壁を抉じ開けて、ひと息でミスターシービーが前に出る。

 観客席は差しウマ娘や追い込みウマ娘が先頭を奪う光景ならではの高揚感に喜んでいるが……当の本人はそれどころではない。まだだ、まだ終わっていない。この勝負には続きがある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 期待と不安を同時に抱いたまま、ゴールまで残り200メートル。このまま押し切れるかと考えたその瞬間。ミスターシービーの背中に、いままで味わったことの無い熱量が叩き付けられた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 レースの最中に祈るウマ娘は大勢いる。勝者は常にひとりであり、自分の努力が必ずしも報われるワケではないと知っているが故に。目には見えない誰かに、無条件で信じられるような何かに祈りたくなってしまう。

 

 お願いだから、どうか勝たせて……と。

 

 あるいは、なぜ勝たせてくれないの……と。

 

 それは祈りを捧げるウマ娘の心が特別弱いことを証明しているのではない。どれだけトレーニングを重ねても、どれほどコンディションに気を付けても、レースの最中に自分の隣を誰かが追い抜いていったその瞬間に。自分よりも速いウマ娘がいると思い知らされて尚、勝利を信じて心を強く保てるウマ娘のほうが珍しいだろう。

 

 だから、祈りたくなってもおかしくはない。ミスターシービーに追い抜かれたその瞬間に、自分とは違う、彼女は天才なのだと。やはり努力だけでは勝てないのかと、何処かの誰かに助けを求めて祈ったとしてもおかしくはないのだ。しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝てたらいいな、なんてのは論外だ。勝ちたい、でもまだ足りねェ。オマエの言葉でハッキリと聞かせろ、ミスターシービーに勝ってみせると。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~ッ!!!!」

 

 レースが始まる前の、トレーナーとの取り引きが。彼の言葉によって引き出された勝利への渇望が、そのウマ娘が祈ること(諦めること)を許さなかった。

 

 そうだ、これは取り引きだ。あのトレーナーはちゃんとミスターシービーに勝つためのトレーニングを組み、ミスターシービーに勝つためのレースプランを組んでくれたのだ。

 

 それを受け取ったのは誰だ?

 

 それを実行したのは誰だ?

 

 アタシだ。アタシが選んだんだ。ミスターシービーに勝ちたくて、天才に勝ちたくて、レースに勝ちたくて、全部アタシがそうしたいと思ったからトレーナーに声をかけたんだ。

 ここでアタシが諦めるのは反則だ。トレーナーはしっかりとトレーナーとしての仕事を果たしたのに、ウマ娘のアタシがウマ娘としての仕事を途中で投げ出すのは反則なのだ。

 

 そもそも、どうして諦める必要がある。

 

 

 ゴールまで()()()()()()()()()()()()()()()

 

 先頭との差は()()()()()()()()()()()

 

 前を走るのはひとりだけ。ミスターシービーより()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 これだけ勝つための好条件が揃っているのに、どうしてレースを諦めなければならないんだ。ここで諦めたらきっと、アタシは2度と勝つために走れない。メイクデビューで、ウマ娘としての始まりで勝つことを諦めるなんて絶対にイヤだ。それじゃあなんのために苦労して、頑張ってトレセン学園に入学したのかわからないじゃないか。

 

 

 

 

 戦いは、まだ終わっていない。

 

 

 

 

「勝負だシィィビィィィィッ!!!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「……ッ!? そうきたかッ! いや、()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

 マルゼンスキーの好意的なモノとは違う、トウカイテイオーの挑戦的なモノとも違う、もっと明確な敵意。お前の未来を踏み潰してでも私が勝つのだという強い意志が込められた雄叫びは、完全に立場が逆転したことをミスターシービーに確信させた。

 追い抜かれてパフォーマンスが低下するウマ娘は何人も見てきたが、追い抜かれてパフォーマンスが爆発的に高まるウマ娘の相手をするのは初めてかもしれない。しかも、それが逃げウマ娘だというのだから驚くしかないだろう。

 

 いまの自分はすでに限界速度で走っている。なのに後ろからジリジリと気配が詰め寄ってきているのがよくわかる。こちらの100パーセントを向こうは確実に超えているのだ。

 

 つまり、ここからが正念場というヤツだろう。

 

 

 ゴールまで()()()()()()()()()()()()()()()

 

 後続との差は()()()()()()()()()()()

 

 ゴール板を通過するその瞬間。相手のウマ娘に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 勝てるかどうかわからない、最高に緊張感のあるレース。これほどの勝負をメイクデビューで味わうことができるなんて、自分は本当に幸運なウマ娘だ。この場を整えてくれたトレーナーにも、自分に勝つために挑んでくれているライバルにも、心の底から感謝したいぐらいだ。

 

 

 まぁ、それはそれとして。なんとなく気に入らないからレースが終わったら記念に蹄鉄をトレーナーに叩き付けておこう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ターフの上に立つ勝者。

 

 ターフの上に倒れた敗者。

 

 決着は、決着だけを見れば大方の予想通り。天才と呼ばれたウマ娘が勝利し、挑戦者は善戦惜しくも敗北してメイクデビューは終了した。もっとも、勝者であるミスターシービーも相当な疲労のせいで息が絶え絶えなのだが。

 

 

「楽しかったよ、本当に。また、最高の勝負をしよう」

 

 

 百科事典の“瀕死”のページに見本として掲載できそうなほどグッタリとしたウマ娘にミスターシービーが手を差し伸べる。最初は素直に助けを受け入れようとしたウマ娘だが、なにを思ったのかそれを拒み、情けない掛け声をあげながら無理やり立ち上がった。

 

 

「次は……アタシが、勝つ……ッ!」

 

 

 それは残された最後の意地であった。まだ早い、これから何度も挑むことになるのだから、その手を握り返すのは後回しでいい。ついでに、負けたのに清々しい気分なのが腹立たしいので八つ当たりの意味合いも含めての勝利宣言である。

 

 新たなスターウマ娘と、そのライバルの誕生に観客席が拍手で賑わっていた。少なくとも、今日のレースを見たファンたちは彼女のことを決して“脇役”などとは思わないだろう。

 

 

 ただ。

 

 

 そんなふたりを眩しそうに、羨ましそうに眺めるウマ娘たちのことがファンたちの記憶に残されているのかは……定かではない。




ぶっちゃけますと、感想でシービーやモブウマ娘が気になるというコメントがなければ、今回の話は全部まとめて500文字ぐらいでサラッと流す予定でした。


続きを投稿する前に、ここまでの本作の世界観についてサクッと説明する予定です。
説明のための文章をストーリーに盛り込むのが面倒で読み手の想像力に全力でブン投げるという二次創作にあるまじきスタイルで書いていますが、どうしても気になる人向けにせっかくなので書いてみることにしました。

ただ、設定のベースはだいたいアプリ版のイベントを自分なりに解釈したもので構成していますので、もしかしたらアプリのネタバレが含まれるかもしれません。
読まずに飛ばすか、諦めて閲覧するか、投稿までに全ての育成キャラとサポカのガチャを回すかの判断は読者の皆様にお任せします。
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