貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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おまたせ。

賢さGしかないけど、いいかな?


とりから。

 貴方はウマ娘が見た目と違って桁違いの健啖家であることを知っています。

 

 いまこそチート能力を悪用することで己のキャラクター性を強固にするとき。そう考えた貴方は母親に教えてもらった実家の唐揚げレシピを完璧に頭に叩き込み、最大まで強化した観察眼で下味を付けた鶏肉を無限の体力を用いて丁寧に揉み続けました。

 

 

「んん~♪ これはとっても美味しいですね~。トレーナーさんのお母さんはと~ってもお料理が上手だったんですね~。あの、もしよろしければレシピを教えていただいてもいいですか?」

 

 油で揚げる作業はアイネスフウジンが気を利かせてトレセン学園で一番おふくろの味が似合うウマ娘を助っ人に連れてきてくれたおかげで順調に進みました。

 貴方はとある芦毛のウマ娘が現れて唐揚げを食べ尽くしてしまうことを警戒しましたが、どうやらまだトレセン学園には在籍していないようです。

 

 そういえば地方からの転入だったかもしれないという情報を思い出し、キャベツの千切りを量産する作業に戻る貴方でしたが──サイレンススズカの隣でヨダレを垂らしている未来のけっぱり総大将の姿を確認し、とりあえず食べ残しの心配は不要だなと超高速でキャベツをシャカシャカするのでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 香ばしい香りに釣られてやってきたウマ娘が大勢いたために図らずも青空の下での食事会になってしまいましたが、唐揚げの味は好評でした。

 しかし、中には難しい顔をしたままモグモグしているウマ娘の姿も見えます。トウカイテイオーなど、何人かのウマ娘はとても真剣な表情で唐揚げを見つめています。ひと口食べる度に頬が緩んでいるので、味付けが気に入らないワケではないのでしょう。

 

「んー。テイオーちゃんもね、きっとイロイロ考えてるんだよ。……えっとね、うっかり隠し味のショウガをおもいっきり噛んじゃったりしたら、誰だってビックリするでしょ? それとおんなじ。だから、トレーナーちゃんはいつも通りで大丈夫☆」

 

 なるほど、すりおろしたショウガの塊が当たってしまうことを警戒しているのか。なら次の機会があれば、下拵えに使うニンニクとショウガは全て丁寧に裏ごしすることにしよう。貴方は密かに誓いを立て、ウマ娘のためにひたすら茶碗にご飯を盛り付ける作業に集中します。

 

 

 用意した唐揚げのカラコルム山脈が半分ほど採掘され、比較的食の細いウマ娘たちが練習に向かい始めたとき。

 

「こんにちは。貴方が噂の新人君ね。私の担当の子たちにもその美味しそうな唐揚げ、分けてもらってもいいかしら?」

 

 育成評価『A』のトレーナーバッジを身に付けた女性トレーナーが現れました。その後ろには貴方もよく知るふたりのウマ娘“サクラバクシンオー”と“ミホノブルボン”が並んで──食卓のほうをチラチラ見ています。

 

 貴方としては、本音では断りたいところです。育成評価はもちろんですが、このふたりが担当として認めたトレーナーであれば人格面も相当優秀に決まっている。そんなトレーナーに万が一でも、ほんのわずかでもプラス評価をされようものなら追放計画に遅れが出てしまうかもしれない。

 油断も慢心もしないチート転生者という自己評価を信じて疑わない貴方はどうしたものかと悩みますが、ここでとある大事なことを思い出しました。そう、信頼や評価というものは、獲得するのには苦労するが失うときは一瞬であると。

 

 貴方は女性トレーナーとサクラバクシンオー、ミホノブルボンを受け入れます。ここで多少評価されたところで計画に支障は出ないでしょうし、唐揚げが美味しかったとして、それがトレーナーとしてのなんの評価に繋がるものか。全ては1度の悪役ムーヴで簡単に帳消しにできるのでなにも問題はないと判断したようです。

 

 

「ありがとう、ごちそうになるわね。それと、私もトレーニングのことで貴方と話してみたいと思っていたの。ただ、その前に──その、どうして両方の頬っぺたに湿布薬をはってるのかしら?」

 

 貴方は渾身のドヤ顔で「日頃の行いと努力が実った証だ」と答えます。それを聞いたミスターシービーほか何人ものウマ娘が勢いよくキャベツを噴出してむせるほど笑っていますが、貴方はなにも気にすることなくウーロン茶をコップに注ぐ作業を続けていました。




season2ではウマ娘以外の視点も増やす予定。

理事長とか漢字の書かれた扇子持ってる子とか頭の上でネコを飼ってるお嬢さんとか正体がノーザングランブレードかもしれないキャラクターとか気になっている読者の方もいそうなので。

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