貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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だから。

「……それであたしに声をかけてくれた、と。可愛い後輩ちゃんたちのために走るのは全然いいんだけど、長距離が目標ならマヤちゃんのほうが適任じゃないかしら?」

 

 

 貴方は現在、サクラバクシンオーとミホノブルボンの走りを見るためにターフにいます。併走の相手としてマルゼンスキーを『取り引きの報酬』という形で呼び出し、これからマイルの距離で競わせるようです。

 ちなみに場所はウマ娘たちの間では貴方のホームとして認識されつつある第9レース場。早めに使いたいとスタッフに相談したときに「なにか特別な練習でもするんですか?」という質問に対し、貴方は迂闊にも「ウマ娘がふたりほど、夢のために限界に挑むだけですよ」と答えてしまったため、ターフもダートも輝かんばかりに手入れがされています。

 

 

「あの~、トレーナーさん。私やブルボンさんの目標は日本ダービーや有マ記念でして、その。マルゼン先輩が得意となされている距離はマイル……ですよね?」

 

「プランの変更を希望します。マルゼンスキーさんに不満があるワケではありませんが、併走トレーニングを実行するのであれば中・長距離の適性を持つウマ娘と行うのが適切であると判断します」

 

 脚質改善のためのトレーニングと言われたにも関わらず マイルの距離を走らされる。当然サクラバクシンオーとミホノブルボンは不満を貴方にぶつけます。

 

 もちろんこの展開は貴方も想定済みです。彼女たちの主張を受け止めた上で貴方は「得意とする距離ですら腑抜けた走りをするようではアドバイスをしても意味がない」とふたりを煽りました。

 当然、貴方の言葉は効果抜群です。そこまで言うなら見せてやろうじゃないかとふたりはやる気に──サクラバクシンオーに比べてミホノブルボンのほうは少しわかりにくいですが、とにかく気合いは充分といったところ。

 

 挑戦者ふたりの用意は整いました。次はマルゼンスキーを本気で走らせるための準備をしなくてはなりません。

 

 走ることが好きなマルゼンスキーも、今回ばかりは今一つ乗り気ではないようです。本格化が進行してぐんぐん能力が伸びている自分と違い、ふたりはまだまだこれから成長が始まる段階なのですから仕方のないことでしょう。

 後輩思いのマルゼンスキーならば、おそらく今回の併走でふたりが“折れる”可能性も考えているはず。もしかしたらわざと手抜きをするかもしれない。

 

 ですが貴方には、取り引きという強力な手札があるので問題ありません。困り顔のマルゼンスキーに向かって「手を抜こうなどと考えるな」と釘を刺すようです。貴方のほうへ振り向いたマルゼンスキーが驚いた表情をしているのを見て、やはり後輩へ手心を加えるつもりだったかと確信を得た貴方は、さらに強い言葉を選んで静かに語り始めました。

 

 

 ──あのふたりの挑戦を憐れむことは許さない。彼女たちは覚悟と共にターフの上にいるのだから手加減など許されない。本気の走りで、本気のマルゼンスキーで完膚なきまでに勝て。これは命令だ。

 

 

 無言のまま、マルゼンスキーはスタート位置へと向かいました。それを見送る貴方は心の中で思う存分一着のポーズで盛り上がっています。

 

 マルゼンスキーの性格からして約束ごとを蔑ろにする可能性などゼロである。感情がどうであろうと本気で走るだろう。それだけでも評価は大暴落するところに、命令という単語をあえて使うことにより、自由を好む彼女はさらに自分を軽蔑するのは確実だ。

 なによりも素晴らしいのは、トレーナーからの命令という事実があることで、なにかトラブルが起こったとしてもマルゼンスキーには責任が全く発生しないことだ。何故ならば命令とは実行者ではなく与えた側が責任を取るものだからだ。

 

 サクラバクシンオーとミホノブルボンには無謀極まりない勝負の強要を、マルゼンスキーには高圧的な命令を。ククク、周囲のウマ娘と依頼人である女性トレーナーから緊張感のある視線が突き刺さるのを感じる。追放狙いの自分にとっては森のノクターンのように心地好い……ッ! 

 

 

 可能であれば周囲の反応を確認しつつ、さらなる煽りで好感度をマイナス方向に稼ぎたいところです。しかし、これからふたりの走りを見てトレーニングプランを組み立てなければならない貴方にはそんな余裕などありません。

 

 キングヘイローとハルウララは貴方と直接取り引きをしていますので、追放されるまでは臨機応変にトレーニングを切り替えることが可能です。

 しかし、サクラバクシンオーとミホノブルボンはあくまで女性トレーナーの担当なので、真の意味で高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変なプランを提案しなければなりません。育成評価『G』トレーナーの貴方とは違い、女性トレーナーは学園の施設利用でも多くの権限を与えられているので選択肢も膨大であり、チート能力の補助を最大稼働しても苦戦は必至でしょう。

 

 あのふたりであれば、マルゼンスキー相手でも折れたり諦めたりすることは無いと貴方は信じています。ですが、どれだけメンタルが強靭でもスタミナにはどうしても限界が存在しますので、彼女たちが倒れてしまう前に情報収集を完遂しなければなりません。

 普段の貴方もアップルパイとハッブル宇宙望遠鏡の違いを瞬時に4ヶ所は指摘できる素晴らしい洞察力をもっていますが、今回はタイムリミットもあるのでチート能力に素直に頼るようです。筋繊維の動きひとつまで完璧に記憶に刻み込み、夢に挑むふたりのウマ娘が存分に走れるよう背中を押してあげましょう!




十時間程度のズレなんて、天の川銀河の歴史から見れば誤差だよ誤差。
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