貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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そんでもって。

 クラシック三冠ウマ娘。

 

 貴方の前世である日本では何頭か存在した、それでも名誉ある称号の三冠馬の価値は語るまでもないでしょう。まして、ウマ娘の世界では現在ふたりしか成し得なかった偉業なのですからなおさらです。

 

 

 ですが残念! 貴方には三冠ウマ娘の正しい価値が理解できていません! 

 

 

 何故なら、ウマ娘というアプリをそこそこ楽しんでいた貴方にとっては“三冠ウマ娘”というものは称号のひとつでしかなく、距離適性という問題さえ解決できればどんなウマ娘でも到達できる頂点だからです。

 しかし、この場合においては貴方の頭が長年放置されたチリビーンズの缶詰めのようにご機嫌な味わいになっていることが良い方向に働くでしょう。名誉を理解できないということは、三冠ウマ娘の称号に金銭的価値のみを求めているという説得力を与えてくれるからです。

 

 もちろん貴方にそんなことを考えるような余裕はありません。対戦形式のパズルゲームでミスターシービーに手玉に取られているのを挽回するのに必死だからです。

 CPU相手に勝ち続け自分を強者と思い込んでいた哀れな子羊が、本物の狼に一方的に狩られている状況に陥り冷静さを欠いている状態です。

 

 

 そんな貴方の返答は「獲るんじゃない?」という実に適当で浅いモノでした。

 

 

 三冠ウマ娘という響きがもはや記号のひとつ程度にしか感じていない貴方にとっては当然の選択なのでしょう。ミスターシービーはもちろん、シンボリルドルフやナリタブライアンについても三冠馬がモデルなので三冠ウマ娘として扱われて当たり前なのです。

 この態度には是非とも称賛の言葉を送らなければなりません。愛すべきおバカとしてプレイヤーたちに認知されていたサクラバクシンオーでも三冠ウマ娘の偉大さは彼女なりに理解していましたが、貴方の認識は間違いなくそのレベルに届いていないのですから。

 

 

 エクセレント! 

 

 貴方は模範的なただのバカです! 

 

 

 これには自由人の代名詞たるミスターシービーも言葉を失ったようです。ここにきてようやく悪役トレーナーらしい行動ができました。この調子でどんどんウマ娘たちから不信を得られるよう頑張りましょう! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ねぇトレーナー、私と取り引きしないかな?」

 

 翌日、なにやらイタズラを思い付いたような含みのある笑顔のミスターシービーがルームにやってきました。

 

 どうやら貴方を虫除けスプレーの代替品として利用するつもりのようです。まともなトレーナーたちのスカウトの熱心さを疎ましく思っている彼女にとっては、どれだけ美辞麗句を並べたところでトレーニングの邪魔でしかないのでしょう。

 貴方はこの提案を受け入れることにしました。トレーナー契約であれば即座に拒否したところですが、取り引きの内容はミスターシービーのトレーニングを近くで見ているだけ。あとは、彼女ひとりではできない事──タイムを計測したり、なにか走りを見て気が付いたことがあればアドバイスをするだけの簡単なお仕事です。その程度であれば断る理由もありません。

 

 そして、何よりも周囲からのヘイトをより効率的に稼げる可能性は悪役トレーナーとして見逃せません。ミスターシービーがルームに遊びに来るようになり、すれ違いざまにほかのトレーナーから舌打ちをされた回数が3桁に届くのも時間の問題となったからです。

 

 貴方は自分自身の追放計画が順調にスタートしていることを確信しながら、未来の三冠ウマ娘と握手を交わしました。




次回はシービー視点です。

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