貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
貴方の手元にはいま、4つのトレーニングプランがあります。
ひとつは、ミホノブルボンのための“クラシック三冠ウマ娘を目指す”脚質改善プランです。実績をもとに脚質のステータスが割り振られたであろうゲームとは違い、かなりマイルに偏った適性でしたが、可能性としては充分に三冠ウマ娘は狙えます。
デビューまでに脚質がどの程度強化できるかは結局のところ女性トレーナー次第ではありますが、夏の合宿を挟むことができるので上手く噛み合えば菊花賞も全力で逃げきれるような仕上がりが期待できるでしょう。
問題はサクラバクシンオー向けに制作したふたつのプランのほうです。モデルの馬が『短距離では勝つべきレースが無くなったから引退した』と言われただけあって、適性通りスプリンターとして鍛えれば最強と呼ぶに相応しいウマ娘になれるでしょう。
ですが、彼女が目標を達成できるようにと考えた場合『芝の適性があるだけハルウララよりはマシ』というレベルなのが貴方の頭を悩ませたようです。結果、完成した脚質改善プランは“中距離と長距離のどちらかひとつに的を絞ったもの”と“リスクは高いがクラシック三冠路線を走るもの”と対照的な物になりました。
追放だけを考えるのであれば三冠路線が確実でしょう。トリプルティアラならばまだしも、長距離を含むクラシック三冠ウマ娘を目指すトレーニングをスプリンターにさせるのですから、少なくともサクラバクシンオー以外からは大きなヘイトを稼げます。ハルウララの有マ記念チャレンジと合わせて、学園のほぼ全てのトレーナーを敵に回せると貴方は計算しているようです。
しかし、その代償として本来の彼女の持ち味が活かせなくなる可能性が出てきてしまったのです。前世から続くウマ娘ファンの貴方としては、サクラバクシンオーには是非とも二大スプリント覇者を、可能であれば二大マイルも制覇するところを見たい。そう思っているのですっかり困ってしまいました。
そんな悩む貴方の頭にとある紳士の言葉が舞い降りました。そう“逆に考えるんだ、両方渡しちゃえばいいさ”と。
依頼主はサクラバクシンオー本人ではなく育成評価『A』のトレーナー。GⅠウマ娘を育てた実績の持ち主なのだから、自分よりもずっと上手にウマ娘を育てられるだろう。
なにより、依頼内容はあくまで脚質改善の手伝いであるのだから、担当ウマ娘のレースプランまで口出しするのは女性トレーナーの仕事を侮辱する行為に等しい。追放のために自分が扱き下ろされるのは望むところだが、ほかのトレーナーの面子を潰すようなマネは慎まなければならない。
サクラバクシンオーとミホノブルボンとの付き合いがどの程度の長さなのかは不明だが、育成も人間性も最低評価の自分に助言を求めに来るぐらいなのだ。かなりの強い信頼関係が成立しているはず。
ウマ娘の能力を最大に引き出すものはトレーナーとの絆である……といった情報をどこかで聞いた覚えのある貴方は、心配するだけ時間の無駄であると手早く書類をまとめました。
スッキリした表情の貴方の手元に最後に残ったのは、とあるウマ娘のために組んだ特別なトレーニングプランがひとつ。
取り引きとは無関係ですが、ウマ娘を知るものであればある意味重要なトレーニングプランです。貴方はそれを手にして目的地へと移動を始めました。
「あら、トレーナーじゃない。あなたがわざわざルームから出てくるなんて、どんな気まぐれなのかしら? それで、このキングにいったいなんの用事があって……へ? スペシャルウィークさんにその特別トレーニングメニューを渡してほしい? あら、いつの間にそんな取り引きを──はぁ? ……あぁ、うん。そうね、うん……。確かにその、だいぶ下半身というか、お腹周りが……ね。重心が安定し過ぎているシルエットに……。ま、まぁ、それだけあなたの唐揚げが美味しかったということよね! …………。えぇ、任せてちょうだい。協力してくれるウマ娘には心当たりがあるわ。必ずこのダイエッん゛ん゛ッ 特別トレーニングメニューを実行させるから安心なさい……」
次回は一部トレーナーたちの視点です。