貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
貴方は現在、阪神レース場で開催されるレースを見るために学園のルームでダラダラ過ごしながら待機しています。
時刻は朝の9時。第1レースの未勝利戦からしっかり楽しむために、早めに朝食も済ませ頭もバッチリ目覚めた状態でテレビをつけてコーヒーを飲んでいるところです。
朝日杯フューチュリティステークスに挑戦するマルゼンスキーをはじめ、顔見知りのウマ娘たちが何人か出走しているので直接見に行き仕上がり具合を確かめたいという気持ちはもちろんあります。
しかし、夜間練習の疲れで集中力が落ちたままでの長距離移動は事故のもとです。公共の交通機関よりも自分の運転で遊びに出たい貴方は安全を優先し、素直に画面越しに応援することにしました。
寛ぐための物資も事前に用意してありますので、すべてのレースが終わるまではお手洗い以外でルームの外に出る必要はありません。
普段ルームに入り浸っているミスターシービーたちは、マルゼンスキーを応援するために現地に向かうと事前に知らされていたので、貴方は悠々とソファーに寝転んでレースを観戦することができる──はずでした。
「こ、これは……ッ! お昼寝マイスターであるセイちゃんもびっくり仰天のふかふか具合……ッ! くっ、部屋に置きたいけど置くスペースがないのが悔やまれる……ッ!」
「ちょっとスカイさん、ひとりでソファーを使わないでくれるかしら? ……まぁ、気持ちはわかるけれど」
「冷蔵庫ん中はフライドポテトに~チキン南蛮と~? おっ、コイツはなんだぁ……って、おいおいトレーナーよ~。なんで焼きうどんなんだよ、焼きそばも用意しとけよ。気遣いのできないトレピッピはモテねーぞー? 仕方ねぇ、アタシがミックスベジタブルを足しといてやるぜ」
「トレーナー、はちみーはないの~? まったく、ボクが来るってわかってるんだから、はちみつぐらい用意してくれなぁ~くてもいいや、うん。ナンデモナイヨー。こっちのこれは……お茶? このラベルどこかで見たこと──。やっぱりにんじんジュースにしよっと!」
「男の人の冷蔵庫って、もっとジャンクでお肉って感じだと思ってたの。相変わらず栄養バランスもいい感じのラインナップがそろってるの。んー、でもトレーナーの場合は例外って気もするかな~、いろいろと」
メイクデビューを果たし使えるお金に余裕があるウマ娘は阪神レース場へ向かいましたが、そうでないウマ娘は快適空間を求めて貴方のルームにやってきました。
「マヤわかっちゃった! トレーナーちゃん、これからソファーの数がもっと足りなくなっちゃうよ。だからね~、ゴロゴロできるおっきいのもいいけど、今度はカワイイのがいいと思うな☆」
天才による不吉な予言に頭を抱えそうになる貴方ですが、マヤノトップガンの“わかっちゃった”の的中率の高さは知っています。
むしろ、諦めて開き直ることができるぶん気楽かもしれないと前向きに考えましょう。
せめてもの意趣返しとして、ソファー選びを手伝うように伝えると「アイ・コピー♪」と元気の良い返事がきました。いい覚悟だ、散々連れ回してやるからせいぜい後悔するんだな。そんなことを考えながらテレビを見ていると、見覚えのある商店街が映っています。どうやら先日のインタビューの様子が放送されているようです。
内容は実に“無難”といった編集といえるでしょう。ウマ娘たちの覚悟表明はしっかりノーカットで流れていますが、貴方の凡庸なセリフ回しはほぼ全てが無かったことにされています。
概ね想定通りだと貴方は納得していますが、どういうワケかウマ娘たちはこの上なく胡散臭いという雰囲気の視線をこちらに向けているではありませんか。
まるで「絶対ウソだ、この男がこんな普通なコメントして終わらせてるはずない。間違いなく余計なこと言って編集されたに決まっている。余所行きのまま平和に終わってるワケがない。だって一緒にいるウマ娘たちものごっつニヤニヤしてるし」とでも言いたげです。
普段接点がないセイウンスカイだけが「これはいったい何事なんだ?」と不思議そうにおやつをつまんでいますが、彼女がそちら側のウマ娘になる日もそう遠くはないのかもしれません。
次回は朝日杯と取材スタッフ視点です。