貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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くまがふっとんだ。

 競馬に絶対はないが、その馬には絶対がある。

 

 勝利よりも、たった三度の敗北を語りたくなる馬。

 

 ただただ純粋に“強い”という理由で人々を魅了した競走馬、それが『皇帝』シンボリルドルフです。前年の三冠馬であるミスターシービーに1度たりとも先着を許さなかったことからも、シンボリルドルフという馬がどれほど強かったのか想像できるでしょう。

 もっとも、ウマ娘のシンボリルドルフはその強さ故に周囲とのコミュニケーションに苦労している部分もあります。気軽な会話に混ざろうと試みたものの、結局お堅い話題に流れてしまったり、親しみやすさを演出するためにダジャレを学んでみたものの、ナイスネイチャ以外には評価はいまひとつであったりします。

 

 自分のダジャレを自分が一番楽しんでいる、そんなユーモラスな一面もある生徒会長シンボリルドルフですが、トレーナーたちに問い掛ける姿は真剣そのもの。その様子に圧倒されたのでしょう、それぞれが胸に抱く思いは千差万別ですが、我こそはと手を上げる者は現れませんでした。

 そしてそのまま貴方が予想していた通りの展開となります。後日、改めてスカウトに来てほしいと提案すると、シンボリルドルフはコースを去りました。

 

 条件は整いました。あとは数日後のイベントを楽しみに待っていればいい。そう考えた貴方は、シンボリルドルフの凄さを嬉しそうに話し続けるトウカイテイオーの相手をしながらルームへ戻るのでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「邪魔するぞ。アンタに聞きたいことがある」

 

 翌日。

 

 貴方が3枚重ねにしたビッグカツを背徳と悦楽を共にしながら味わっていると、これまで一切の交流がなかったナリタブライアンが何故か訪ねてきました。

 珍しいことも起きるものだ、一番自分とは無縁だろう彼女がいったいなんの用事だろうか? 貴方がそんな疑問を抱いていることなど知る由もないナリタブライアンは、一切の迷いのない動作でビッグカツを1枚手に取り食べながら貴方に問い掛けました。アンタはシンボリルドルフをスカウトしないのか? と。

 

 シンボリルドルフの実力ならばGⅠレースを荒らし回ることも可能であり、区切りと言われる3年間でも莫大な賞金が手に入る。金欲しさにトレーナーになったのであれば、これを見逃す理由はないだろう。

 

 ナリタブライアンの発言は実に真っ当な意見です。普通の悪役トレーナーであればその通りだなと同意してしまう場面でしょう。

 しかし、貴方は油断をしないことに定評のあるチート転生者です。並みの悪党とはひと味違いますので、言葉の裏側に隠された真意を見抜くことなど朝飯前なのです! 

 

 

 貴方が朝食を楽しむ権利を犠牲にすることで得た答えは『牽制』を目的として接触してきたというものでした。

 

 

 強敵との闘争に餓えているであろうナリタブライアンのことですから、シンボリルドルフが貴方のような信頼も実績も底辺のトレーナーと契約してしまい弱体化する可能性など残しておくワケにはいかないのでしょう。

 ならばなにも悩むことはありません。ナリタブライアンは貴方にシンボリルドルフをスカウトさせたくないと考えている。そして貴方はシンボリルドルフに限らずウマ娘をスカウトしたくないと考えている。誰も困らない素敵な空間が完成している状態です。

 

 しかし、言葉選びだけはしっかりと考える必要があるでしょう。あくまでスカウトの意思が無いと伝えることが目的ですから、シンボリルドルフというウマ娘そのものを否定するような発言は十万億土の悉くを叩き斬ることになったとしても赦すワケにはいきません。

 

 念のため、深刻な方向性で意味深に勘違いされないよう、貴方はなるべく気楽な雰囲気でナリタブライアンへ返答します。

 

 

 シンボリルドルフが強いウマ娘であるのは事実だし、全てのウマ娘の幸福という願いも確かに素晴らしいものだ。だが、トレーナーとしての自分はシンボリルドルフというウマ娘には一切の興味はない。──敵にまわすのであれば大歓迎だが。

 

 

 一瞬だけ驚いたように目を見開いたナリタブライアンですが、すぐに獰猛さを隠しきれない微笑みを返してきました。




ビッグカツ(おさかな)

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