貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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生姜が!
ないなんてぇッ!


生姜がないなんて。

 普段の貴方は与えられたルームの中で仕事をサボりながらダラダラと過ごしています。レースの分析をしてデータにまとめたり、ウマ娘たちの走りを元にトレーニングプランを構築して脳内レースでシミュレーションを楽しんだりと、趣味の時間をたっぷりと満喫しています。

 ですが、いまの貴方は違います。シンボリルドルフが正式に担当契約を結んだという報せを聞き、上機嫌でダラダラと過ごしています。レースの映像からウマ娘の脚質を解析したり、それぞれ得意とする距離でGⅠレースを勝利するまでに必要な条件を組み立てて楽しんだりと、やはり趣味の時間をたっぷりと満喫しています。

 

 少しだけですが、担当が決まる瞬間を見てみたかったという気持ちもあります。しかし、担当契約はトレーナーとウマ娘との神聖な儀式です。

 それを野次馬根性で覗き見するなど、破廉恥な男として生涯後ろ指を指されることになっても文句は言えない行為でしょう。そのような輩はアグネスデジタル殿にウマ娘ちゃんファンとしての心得を魂に刻んでもらわねばなりません。

 

 もっとも、大凡の流れはアプリのストーリーに近いものであると想像できます。おそらくですが、男性トレーナーがカメラを所持していたのは広報に使う写真撮影を一緒に行っていたからでしょう。

 マルゼンスキーとグラスワンダーが会話する様子を微笑ましく見守るシンボリルドルフ、そんな彼女の満足そうな姿を写真に収める。そして、その写真をシンボリルドルフに見せて「これが望む未来だ」と語り、同じ視座に立つ覚悟を示す。ウマ娘との出会いの中でも屈指のイケメンムーヴですから、担当に選んでしまうのも納得です。

 

 とはいえ、あくまで貴方の想像であり可能性のひとつでしかありません。それに、1度は大喜びしたものの、あの男性トレーナーに勝手にアプリトレーナーの姿を重ね合わせるのは侮辱以外の何ものでもありません。

 

 ただちに反省した貴方は雑念を頭から排除し、気を引き締めなおしました。シンボリルドルフの心を射止めたほどのトレーナーですから、トレセン学園の汚点である自分のことを決して許せないのは確実でしょう。しかし、その事実にだけ甘えて悪役としての立ち振舞いに手を抜くようなことになってしまえば本末転倒です。

 大きなチャンスが見えたからこそあえて立ち止まり、ここは林の如く陰の如く慎重かつ冷静に準備を進める必要があります。まずは彼の情報を集めることから始めるのが適当でしょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ってなカンジでよ、わりと注目されてたトレーナーだな。S級のじいちゃんの世話になってるってこともあって、会長と担当契約したってのもアリよりのアリって考えてるヤツのほうが多いぜ。つーかよ、なんで同期のトレーナーのことアタシに聞いてんだよオメーは。トレーナー同士で話したりとかよ、友だちとか──。あ、いえ。なんでもありません……。そんなの、個人の自由ですもんね……」

 

 ゴールドシップから得られた情報を整理する貴方の表情は、男性トレーナーが優秀であることを知れた喜びと、彼の立場が嫉妬の対象になる可能性による悩ましさで複雑なモノになっていました。

 特に、彼が今日まで評価『S』のトレーナーから指導を受けていたことは良くも悪くも目立つ項目です。新人がS級トレーナーに贔屓にされて、能力の高いウマ娘の担当になった、という流れは邪推を好む者にとっては狙いやすい条件でしょう。

 

 彼には理想のために邁進するシンボリルドルフを支え、ついでに自分を追放してもらうという大事な使命があります。となれば、ここはこれまで培ってきた抜群のヘイトコントロールを存分に発揮する場面でしょう。

 わりと本気で心配そうにこちらを見ているゴールドシップの視線などなんのその。貴方はより極悪なトレーナーとして、平和なトレセン学園をさらに荒らし回る決意を固めるのでした。




次回は夜間練習組のウマ娘をスカウトしたとある中堅層トレーナーの視点になります。

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