貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ウマ娘は操作ミスで育成に失敗しても、サポカがロストしないところが素晴らしいですね。


三月のウマ娘たち。

 アプリでは条件であるファン人数さえ満たしていればどんなウマ娘でも、それこそ適性が合わなくても好きなレースに自由に出走することができました。

 しかし、いま貴方が暮らしている世界はアプリと同じルールで成り立っているワケではありません。ですので、クラシック三冠路線の始まりである皐月賞を走るためには、ウマ娘たちにもそれなりの実績が必要となります。

 

 

 そのような事情がありますので、三月に開催される弥生賞を前にトレセン学園の雰囲気は良くも悪くもピリピリとしています。

 普段は穏やかな性格のウマ娘でさえも、この時期になると緊張から、あるいはレースに対して入れ込みすぎとなり気性が荒くなることも珍しくありません。教員や教官などトレセン学園のスタッフはもちろん、出入りの業者の皆さんも先輩や上司から口が酸っぱくなるほど注意するようにと指示されていることでしょう。

 

 当然ですが教育者としての自覚も倫理も責任もまとめて投げ捨てている貴方には全く関係のない話です。取り引き中であるミスターシービーやマルゼンスキーのトレーニングについてはちょっとしたアドバイスを提供していますが、基本的には気楽なファンの立場でしかありません。

 

 ですからほかのトレーナーたちのように神経質になる必要はなく、出番といえばせいぜいトラブルが起こったときにタイマンレースの見届け人としてウマ娘たちに連れていかれる程度です。些細な出来事も追放のチャンスであることを見逃さない貴方は「全ての責任は自分がトレーナーバッジに賭けて引き受ける。だから本気で走り、そして結果から目を背けるな。それがたとえ他人から見てどれほど下らないことであっても」と安請け合いしています。

 貴方が立ち去ったあと険悪な様子だったウマ娘たちがタイマンレース後にお互いに一発ビンタを交換して仲良く焼きにんじんを食べに行ったり、その様子を見ていた教官やトレーナーたちがここにトラブルを起こしたウマ娘などひとりもいなかったと示し合わせていますが、貴方の考える追放計画の高度な柔軟性においてならば誤差の範囲です。これから罪のない人々を護るために孤独な決戦に向かう兄のように慕っていた青年から「必ず帰ってくる。約束だ」とメッセージが込められたビデオレターを受け取った少年のように心安らかに過ごしましょう! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「お前、担当契約してるウマ娘いないんだからヒマだろ? ちょっと模擬レースのセッティング手伝えや。あ、これ先輩命令だから。拒否権なんてねーからな? んじゃ、コレとコレと、それからコッチのヤツよろしく。それからあとでホルモン焼きの冷凍のヤツ50キロぐらい持ってくから冷凍庫に空き作っとけよ。これも先輩命令な」

 

 責任の大安売りをしていた貴方ですが、普段ほとんど交流のない先輩トレーナーが突然ルームにやってきて一方的に用件を告げられることになる事態までは想定していなかったのでしょう。場の勢いにおされてあれよあれよと流されて模擬レースの監督役を引き受けることになってしまいました。

 とはいえ、完全に知らない相手というワケではありませんので貴方もさほど気にしてはいないようです。夜間練習組のウマ娘をスカウトしてくれたトレーナーのひとりであり、小柄な体格を活かしてスリップストリームを利用した走り方をしていたウマ娘を「なんか面白そう」と熱心に口説いていたのを貴方は覚えています。

 

 ともかく、これもまた貴方にとっては追い風になり得るイベントでしょう。これまでは限られた範囲でしかヘイトを稼げていませんでしたが、これを機により広範囲でコツコツと評判を落とすための下地作りを始めましょう!




頂いた感想を読んでいて不安になったので一応お伝えしておきますが……。

シービーの菊花賞は、これからです。これの次の次か、そのまた次あたりに書く予定です。

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