貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
「どう……ッ!? こ……こ、こ、これが……キングのッ! 走りよッ! で、も……あなたたちも……なか、なかやる……じゃないの……ッ! ……おっふ」
「……負けたのは悔しいデスけど、なんかこう、なんか……素直に悔しがるタイミングを逃した気分デース」
「まさに“死力を尽くす”という言葉の体現ですね~。ターフに倒れたままでも誇りは失わず、お見事です」
「えっと、どうしよう? スポーツドリンクとか持ってきてあげたほうがいいのかな? とりあえず3リットルくらい持ってくれば」
「うんそうだね、キングのはセイちゃんが用意するからスペちゃんは自分のぶんをちゃんと水分補給するといいんじゃないかな」
ウマ娘たちのやる気がオーバーフローしてトラブルが起きないようにと開催された模擬レースはなかなかの賑わいをみせています。ジュニア級でG1レースを勝利したミスターシービーとマルゼンスキーが日本ダービーで勝負するつもりであることは誰もが知っていますので、もしかしたらその影響もあるのかもしれません。
ちなみに、阪神ジュベナイルフィリーズを勝利したウマ娘はマイルを極めたいとのことで、クラシック路線はもちろんティアラ路線も桜花賞以外は興味無しとのこと。それはそれでスプリンターやマイラーのウマ娘たちは盛り上がっていますし、粗削りのマイル王が誕生するかと貴方も密かに楽しみにしているようです。
そんな事情もあって、先輩ウマ娘たちの活躍の影響を受けた後輩ウマ娘たちの模擬レースはなかなか見応えのある勝負となっています。
つい先ほど行われた距離2000のレースでもキングヘイローが見事な末脚を披露しています。最終直線で後の黄金世代を含む10人以上のウマ娘をまとめて撫で切った走りには、暴れん坊プリンセス(物理)や汎用ウマ型変態走者も感動して興奮している様子。
当の本人は勝利の余韻に浸っているらしく一流の器で大地を抱き締めターフの感触と薫りを評価するのに忙しいようですが、しっかりドヤ顔は崩れていないあたりまだまだ余裕はあるかもしれません。
そんなキングヘイローの走りを見た貴方は、彼女が着実に有マ記念に近付いていることを楽しみにしつつも少しばかり思うところがあるようです。
多少は脚質も改善し、出会った頃に比べれば短距離以外もそれなりに走れるようになったのは確かです。しかし、それでもまだまだミドルの適性を持つウマ娘と勝負できるレベルには達してはいません。
ですが、今回の模擬レースの結果はそれらを覆すものとなりました。貴方の知るウマ娘の物語に従うのであれば、精神性が一流のトレーナーのサポートでもない限り中距離での活躍は難しかったはずです。少なくともこの時点ではほかの4人に勝てる見込みはなかったでしょう。
何故これほどの成長を遂げることが出来たのか貴方には案の定皆目見当が付いていないようですが、大事なのは脚質の限界を精神で乗り越えたという事実にあります。
次の弥生賞ではミスターシービーとマルゼンスキーが対決することになりますが、普通に考えるのであれば中距離の適性が高いミスターシービーが勝つ確率が高いと貴方も予想していました。
しかし、距離の不利を心の強さで埋め合わせることが可能であるのならば話は違います。マルゼンスキーもあれでなかなか負けず嫌いなところがあるのを貴方は知っていますし、どういうワケかミスターシービーとの勝負にはそこそこ思い入れがあることにも気付いているからです。
これは想像よりもずっと面白いレースが見られるかもしれない。トレーナーとしての使命も名誉も必要としない貴方にはレースの格式など関係ありませんので、ほかの人々のように日本ダービーを待つまでもなくワクワクが止まりません。
弥生賞を観戦するときには、ひとりのウマ娘ファンとしては新品のジャージを用意し気合いを入れてレース場に向かわなければならない。模擬レースのデータをその場で簡易的にまとめたものを希望するウマ娘たちに配布しながら、貴方の頭の中の3割は弥生賞のことで一杯になっているのでした。
いま、アナタの頭の中に汗だくで息も絶え絶えでターフに倒れながらもドヤ顔を披露するキングヘイローのイメージが浮かびましたね?
これがメンタリズムです。