貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
誰にとっても作業着というものがそうであるように、貴方にとってもジャージは消耗品です。
チート能力の存在に気付き、自分本意な悪党として人生を謳歌しようと決めたその日から、貴方は己の心身を常に鍛え続けています。
能力に振り回されるようでは三流ですし、能力を使いこなすだけではまだ二流です。真の悪を目指すのであれば、能力を支配して従える程度の器を持ち合わせる必要があると考えました。
そして、基準となるものがチート能力という自然の摂理に反したものですから、安全と効率が考えられた科学的なトレーニングでは不十分であると貴方は判断したのでしょう。時間を作っては日本各地の雰囲気がそれっぽい場所に赴いて様々な方法で肉体と精神を鍛えています。
険しい崖を必要最低限に切り詰めた装備で何度も往復してみたり、荒れ狂う嵐の海岸にて天地上下の構えを一晩中キープしてみたり、とある地方の山奥で何処と無く漢気溢れた犬たちと協力し理性を失した熊らしき生物が正気に戻るまで数日間にわたる死闘を繰り広げたりと、あらゆる手段で己の限界に挑み続けています。帰りの電車の中から眺めた、貴方を見送るために線路沿いに並んでいた二百を超える“戦友”たちの姿は生涯忘れることはないでしょう。
そのような生活を続けているものですから、貴方のジャージ消耗率は常人とは比べ物になりません。故に、業者さんが発注数を間違えて大量に生産してしまっても心配は無用です。頭を下げて謝罪する相手に対し、貴方は特に迷うこともなく「じゃあ全部買い取りで」と返答しています。そこまではよかったのですが──。
◇◇◇
「ほ~ん。皐月の前哨戦だけあって、出店のほうもえらい盛り上がっとるなぁ。ここでご当地グルメ食っとけば、わざわざ高い金出して旅行せんでもええんちゃうか?」
「じゃがバター、は……自分でも作れるかな。チキン南蛮、は……甘酢ソースさえ再現できればイケるの。ケバブ、は……トレーナーから道具を借りれば炭火で焼けるし。う~ん、どれにしようか迷っちゃうの!」
「あ、いちご大福の屋台が……中に入っているタイプと、上に乗っているタイプがあるのね……1パックで4つ入り、さすがに両方は食べられないし……。トレーナーさん、どっちがいいと思いますか?」
悩めるサイレンススズカに片方は自分が購入するので食べ比べてみればいいと提案しつつ、貴方は周囲のウマ娘たちの服装について少々頭を悩ませています。
百歩譲ってジャージ姿なのは良しとしましょう。レース場にウマ娘がジャージ姿でいたところで気にする者はいませんし、それがトレセン学園の指定のものとあれば応援に来たのだと一目瞭然です。
しかし、その上に貴方の特注品である漆黒のジャージを羽織っているのはあまり褒められたものではありません。手違いとはいえ沢山ありますし、練習にも使えるだろうとウマ娘たちが利用することも許可していましたが、まさかトレセン学園の外でもそのまま着用するとまでは想定していませんでした。
もちろん、貴方の洞察力は巌流島にてレアチーズケーキと互角の決闘を繰り広げることが可能なほどの鋭さを有していますので、ウマ娘たちの真なる狙いを見抜くことなど幻想種の燕を斬るように容易いことです。
ウマ娘たちの目的。それは──いわゆる『当て付け』というものだと貴方は判断しました。
アイドルとしても通用するウマ娘たちと、没個性でモブにしか見えない自分が同じジャージを着ていれば周囲の人々にはどのように見えるのか。
同じ服でも誰が着るかで印象はかなり違って見えるもの。間違いなく誰もが自分のことを『なんかダサいヤツが歩いている』と認識するだろう。
なかなかテクニカルな反骨精神の表現ですが、オシャレでカワイイものを好むマヤノトップガンや品行方正なメジロライアンまでもが着用しているという事実も、貴方の推察を後押ししているのかもしれません。
周囲から微かに聞こえてくるヒソヒソ声といちご大福の美味しさをしっかりと堪能しながら、貴方はミスターシービーとマルゼンスキーの控え室を目指すのでした。
私はいちごが中に入っているヤツのほうが食べやすくて好きですね。