貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
“国内でも最高レベルのコンセントレーション”
朝日杯フューチュリティステークスにてお披露目となった赤い勝負服でなくとも、そのウマ娘の鮮やかなスタートダッシュは観客席から大歓声を引き出してみせた。
彼女が得意とする距離ではないが、脚質の不利をまったく感じさせない軽やかな走りは見るもの全てに『もしかしたら』と期待を抱かせるには充分だった。
どれだけ早くとも桜花賞。
そうでなければ東京優駿。
これまでにないタイミングで実現したGⅠウマ娘同士の直接対決は、まずはマルゼンスキーの先駆けにより火蓋が切られるのであった。
◇◇◇
(マルっちの加速がいつもとかわらない? 緊張で掛かり気味……は、ないか。となれば──うへぇ、本気でヤる気ときましたか。トレちゃんが予測してた通りになったか~。……ま、
いくらGⅠウマ娘とはいえ、勝利したのはマイルのレース。中距離となれば勝手が違うし、まずは冷静にスタミナ管理をしながら身体を慣らしていくだろう。それが大方の有識者が予想していたマルゼンスキーの走りである。弥生賞に出走しているウマ娘とそのトレーナーの半数はソレを前提に作戦を組み立てていた。
だが、残りの半数はそうではない。たしかに常識に従うのであればその予想は正しいのだろう。だが、常識に従うのであればマイルでGⅠ勝利という確かな実績を手にしたウマ娘をわざわざ中距離に送り込む必要はない。もうひとりのGⅠウマ娘のようにマイル路線をひたすら突き進むか、せめてティアラ路線を走らせるほうが確実だしリスクも少ないのだから。
(これで確定。マルっち、弥生賞の距離を
レースに自分の走り方を合わせるのではなく、得意な走り方でレースを塗り替える。説明していたトレーナー自身もワケのわからないことを言っている自覚があったようだが、ほかに表現のしようがなかったのだろう。
ナメた真似を、とは思わない。
マルゼンスキーは本気で弥生賞を勝つつもりだ。だからこそ自分の得意な走り方で勝負に出たのだ。ライバルがどんな作戦を立てようとお構い無し、とことん好き勝手に加速して自分のペースでゴールを目指すだけ。
こうなっては仕方ない。こちらも事前の打ち合わせ通り、マルゼンスキーを基準にした位置取りを意識して走るしかないだろう。下手に加減しながら追走していては、終盤に充分なスピードを得た彼女を追い抜くことはまず不可能だ。
(楽しそうに走ってるところ悪いけど、コッチもミドルのウマ娘としてなけなしのプライドってもんがあるワケなんですよ。簡単に勝てると思ってもらっちゃ──困るってなモンなんですよッ!!)
◇◇◇
「……しまったな。こんなことならアイツに命令しとけばよかったぜ。GⅠウマ娘ふたりも抱えてんだから、もっと油断しとけってな」
「油断はしていないかもしれませんが、緊張もしていないんじゃないですか? 完全に雰囲気が一般のお客さんと変わりませんよ」
「フツーに屋台グルメ食い歩いてたからねぇ。黒ジャージの集団、目立ってたよね~。ありゃいったい何者なんだッ!? ってな感じでさ」
レース展開が徐々にハイペースとなっているのを確認しつつ、数人のトレーナーたちが厄介極まりないライバルが率いるウマ娘集団のほうに視線を向ける。
ミスターシービーはまだいい。ホープフルステークスを勝利したことで中距離のレースでは優先的に枠を得られる権利がある。仮にここで勝利を逃すことになったとしても、それなりの成績を残せば皐月賞はもちろん日本ダービーもほぼ確実に出走できるだろう。
だがマルゼンスキーは違う。朝日杯フューチュリティステークスで勝利してしまったがために、世論は彼女を“マイルからの挑戦者”というイメージだけで評価しているのだ。この弥生賞での走り方次第では、やはりマイルのウマ娘が中距離に挑戦するのは難しいと判断されることになる。そうなればURAはマルゼンスキーの日本ダービー挑戦を“彼女の未来を考慮して”出走枠から弾く可能性もある。
故に、もしも自分たちがマルゼンスキーのトレーナーであれば安全策を選んでいたはずだ。中距離でも問題なく走れることを証明するために、ペース配分に気を付け安定した走り方をするようにと指示していただろう。
「よほど自分の育成に自信があるのか、それともウマ娘の能力をとことん信頼しているか、あるいは難しいことはなにも考えていないバカなのか。どれだと思う?」
「案外、全部かもしれませんよ? 仮にボクが彼の立場なら、ミスターシービーは出さずにマルゼンスキーだけを出走させていますからね。わざわざこんなところでぶつける意味がない」
日本ダービーを目指すウマ娘同士を、言い方は悪いがGⅡの舞台などで喰い合わせる。まともな神経をしたトレーナーであれば、意図的に片方の夢を潰しかねないような出走など絶対に選ばない。
だが現実にソレが目の前で起きている。ウマ娘同士の友情と勝負は別物だというのは理解しているつもりだが、ここまで露骨に無下に出来るものかと彼に反感を抱く者も少なくない。
しかし、それでもミスターシービーとマルゼンスキーは彼を選んだ。ほかのウマ娘たちもそうだ、あのトレーナーが身内同士で1着を奪い合うことを是とするイカれた考えの持ち主であることを認めた上で、彼のもとで走ることを選んだのだ。
「まぁ……だからこそ挑む甲斐があるというものです。安全を考慮する指針そのものに不満はありませんが、ウマ娘たちの闘争心を引き出すには多少の無茶も必要でしょう。いやはや、秋川理事長の慧眼には感謝しかありませんね」
ついでに言うならば、周囲の評価などお構い無しに好き勝手な振る舞いを続けるあのトレーナーにも感謝の言葉を送りたいぐらいである。
おかげでウマ娘たちの新しい可能性に気が付くことが出来たし、自分たちがトレーナーとして停滞……いや、衰退していたことを思い知ることが出来たのだから。
◇◇◇
(はーやだやだ。まさか本当にかっ飛ばすとは思わなかったわー。せっかくのプランがおじゃんになっちゃったじゃん。これだから天才ってヤツはメンドクセーんですわ)
マルゼンスキーが大人しい走りを選ぶとは最初から思っていなかった。だからそれを利用してもうひとりの天才であるミスターシービーを封じるつもりでいた。
レース展開が徐々に加速するのに合わせ、周囲のウマ娘を釣り上げペースを乱し、後半戦で垂れウマの壁として後続の頭を抑える。どれだけミスターシービーが規格外だとしても、壁を避けるため余計な距離を走れば加速は削がれスタミナにも影響が出るはず。それだけで勝てるとは思わないが、勝つための可能性が1パーセントでも増えるならあらゆる手段を使うべき。そう考えて備えていたが、もはや小細工を仕掛ける余裕などないほどにレース展開は加速していた。
(こーなりゃウチも覚悟キメてやるっきゃないか。シービーはご執心のライバルがマークしてるだろうし、ウチのターゲットはマルゼン一択──だわッ!!)
これでも天才肌の逃げウマ相手に走るのには慣れている。なにせ同期の化け物はもちろんのこと、後輩にもアイネスフウジンやサイレンススズカのようなとんでもない脚の持ち主がいるからだ。
彼女たちがレースに出走できるほど本格化したときのことを想像するだけで口の中が苦くなる気がするウマ娘は大勢いるだろう。
まぁ、最近ではトウカイテイオーを追い掛けてきた元気いっぱいのアホの子が時々夜の練習に参加しているおかげで多少はマシになったのだが。
彼女には申し訳ないが、こちとら普通のトレーナーにスカウトされるまで、日頃から頭のイカれたトレーナーが手掛ける天才どもの遊び相手をしていた身である。キラリと光るものはあれど常識の範囲内の後輩というのは可愛くて仕方ない。あの絶妙なおバカ加減は癒し効果も抜群である。
レースはまだ中盤。それでも自分を含めた半数のウマ娘が、まるで最終直線に挑むかのように加速を始めている。
ほかのウマ娘たちは、そんな自分たちの様子を見て呆れている者ばかりだった。こんな早い段階で速度を上げるなどという理屈に合わない走り方をしているのだ、マルゼンスキーに釣られて冷静さを失ったと思われても当然だろう。
冷静に展開を見守る走り方も大いに結構。だが天才を相手に走ることの意味を知って、彼女たちはこのレースが終わったあとにどうなるのだろうか。担当が心優しいトレーナーであればあるいは、安全のために
それならそれで構わない。なにせいまのトレセン学園は相手が天才という程度では怯まないウマ娘がいくらでも育っているような状況で、枠はどれだけ空きがあっても足りないぐらいだ。主に、目標が定まらず燻っていた者ですらサクッと挑戦者に仕立て上げる無法者で勝負好きなトレーナーがいるせいで。
◇◇◇
レースはいよいよ終盤を迎える。
スタートから変わらず先頭をフルスロットルで駆けるマルゼンスキーと、
G1ウマ娘の豪快なラストスパートはもちろんだが、そのふたりに負けず劣らずの走りでゴールを目指すウマ娘たちの姿もまた、ファンの心を昂らせるには充分な効果があったらしい。
期待通りの結果になるのか、それとも期待を裏切る番狂わせが起きるのか。もはやクラシックロードのステップレースという視点ではなく、人々は挑戦者たちの火花を散らす走りをただただ純粋に楽しんでいた。
くそッ!
なんで弥生賞は3月に開催されるんだッ!
3月が弥生だからだなッ!
ヨシッ!!
続きはなつのおもいでが高値(25万G)で売れたら、次の登場ウマ娘はアグネスタキオンになります。