貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
「クリーク、砂糖多めミルク多め愛情特盛のココアをひとつお願いしてもいいかな?」
「ついでにあたしにも同じのを貰えるかしら? できれば氷とストローもよろしくね」
「ふふ、任せてください♪ ほかの皆さんも、なにか飲みたいものがあればご用意しますよ~?」
6月。1ヶ月後に夏合宿を控えたこのタイミングで、貴方にしては珍しく自身の行動について省みるという偉業を達成しています。
明日にでもビッグ・クランチが始まる可能性を産み出してまで貴方が考えているのは、この世界における史実やアプリとの差異についてです。
戯れにも死闘にも見える、ダービーの歴史でも最高のデッドヒートと称賛された日本ダービーは見事ミスターシービーが勝利しました。弥生賞ではギリギリのところで末脚が届かずマルゼンスキーにハナ差で負けていますが、日本ダービーではそのときの借りを返すぞと言わんばかりの気迫で叩き合いを征しています。
ちなみにそのときは7人のウマ娘が塊となってゴールするという大混戦になりました。その瞬間から電光掲示板に結果が表示されるまで東京レース場が静まり返ったあの光景は、さすがの貴方も興奮と緊張で冷や汗が止まらなかったことでしょう。
素晴らしいレースを見ることが出来たのは素直に喜ばしいことです。しかし、結果として『ミスターシービーの三冠達成』はまだ可能性が残っていますが『無敗のマルゼンスキー』という実績は崩れ去ってしまいました。
もちろん貴方はそれを承知で日本ダービーでの対決を止めなかったワケですが、前世の記憶を持つひとりのウマ娘ファンとしてはやはり惜しむ気持ちもあるようです。
そしてふたりを含め、日本ダービーの最終直線にて限界ギリギリの速度で鎬を削り合ったウマ娘たちが貴方の目の前でダウンしているという事実。それもまた悩ましさに追い討ちをかけているのでしょう。
青葉賞から連続出走をしたマルゼンスキーだけではなく、全員がしばらくレースを走れる状態ではありません。それは怪我というほど深刻なものではありませんが、少なくとも夏合宿が始まるまではトレーニングメニューも慎重に組まなければならない状況です。
そんな事情も関係しているのか、担当トレーナーから休みを言い渡されたウマ娘たちが貴方のルームでダラダラと過ごしている状態です。
何故わざわざ自分のルームにやってきたのか、何故当たり前のようにスーパークリークが彼女たちの世話をしているのかはわかりません。ただ、限られた時間とはいえ夜間練習でアドバイスをしたことがあるウマ娘たちということもあり、ここで追い出すのはさすがに無責任だろうと貴方も黙認することにしたのでしょう。
練習で怪我をしないようにとは配慮していましたが、レース中に全力で走ることによる身体への負担についてはまだまだ認識が甘かったかと反省することにしたようです。もちろんウマ娘たちの真剣勝負に横から口出しするという発想は貴方には皆無ですが、今後のアドバイスを工夫することで彼女たちの負担をどうにか減らすことが出来ないかと色々考えている様子。
とはいえ、それに関しては自分よりも先に解決策を見つけてくれそうな存在に貴方は心当たりがあります。
と、いうよりもまさに目の前で問題解決のために楽しそうに作業をしているウマ娘がいます。
「ふ~む。この蹄鉄の消耗の偏り具合……そして筋肉の状態は……なるほど、それであのコーナーでの見事な加速が可能だったワケか。ククク、実に素晴らしいッ! いやはや、先輩方の協力のおかげでますます研究が捗りそうだよ……ッ!」
脚に触れることを許可しつつも「この子大丈夫? イロイロと」とでも言いたげな視線をウマ娘が貴方に向けていることなどお構い無し。アプリユーザーの間では『アグネスのヤベーほう』でお馴染みのアグネスタキオンが先輩ウマ娘たちの脚を嬉々として触診していました。
ダービーは当然カットです。
なぜなら本作のメインはレースそのものではなく、レースが始まる前の転生者主人公による極悪非道なクソトレーナームーヴと、それに対する周囲の反応にあるからです。
まかり間違っても読者の脳裏に「シンデレラ……」とかいう謎の単語が横切るような話ではありません。
もちろん賢さG案件と日本ダービー挑戦が噛み合うような話が思いつけば別ですが。
例えば、候補としては……えー……候補はですね……まぁ……ダービーウマ娘多いなぁ……