貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

58 / 170
ちゅうもくカンシー。

 ウマ娘のアグネスタキオンが可能性を求める研究者として誕生したのは、モデルとなった競走馬が三冠馬を期待されながら、屈腱炎により皐月賞がラストランとなってしまったことも無関係ではないでしょう。

 

 トレーナー相手に担当契約の証として怪しいお薬を飲ませてゲーミング仕様にしてみたり、味覚が特定の食べ物の味しか感じなくなってしまうような発明品を思い付いてみたりと、なにかとマッドサイエンティストとしての側面を見せることも少なくありません。

 ですが、アグネスタキオンは努力する者の成功を願うウマ娘でもあります。自分自身の世話は壊滅的にズボラですが、手助けを必要としているウマ娘には“適度に”ヒントを与えるクールなお助けキャラのような一面も持っているのです。

 

 そして、彼女自身もまた、自分の限界に──本気の走りに脚が耐えられないという難題に立ち向かう挑戦者でもあります。

 

 

 

 

 故に、アグネスタキオンが脚質を改善し怪我のリスクを低下させることに成功したトウカイテイオーを追いかけ回すことになるのは時間の問題でした。

 

 

 

 

 どうやら彼女もトウカイテイオーの走り方が危険であることには気が付いていたらしく、自力で問題を克服したトウカイテイオーを是非とも研究対象にしたかったとのこと。

 その気持ちは理解できますが、取引相手に助けてくれと言われれば貴方としても黙って見ているワケにはいきません。トウカイテイオーを背中に庇い、前世の知識からチート能力で具現化させたジンギスカン味のキャラメルを相対するアグネスタキオンの口に放り込むことで見事撃退に成功しています。

 

 誤算があったとすれば、悶え終えたアグネスタキオンが「甘味に対する冒涜も甚だしいが、好奇心を放置せず形にする姿勢は評価できる」と貴方を気に入ってしまったことぐらいです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「相変わらずトレーナーくんの周囲には面白いウマ娘が集まってくるねぇ。いや、この表現は正しくないか。トレーナーくんのもとに集まったウマ娘が面白いことになっているのだからねぇ!」

 

 出会ったときの意趣返しなのでしょう、貴方のおやつボックスから最後までチョコたっぷりなスティック菓子を当然の権利のように取り出して食べながら楽しそうにしています。

 疲れていても適度な運動は必要です。カチャカチャと食器を洗っているスーパークリーク以外のウマ娘の姿はすでになく、ルームには貴方とアグネスタキオンとソファーでガチ熟睡しているセイウンスカイしか残っていません。

 

「こう言ってはなんだが……本来であれば、日本ダービーはミスターシービーとマルゼンスキーの一騎討ちになるはずだった。少なくとも彼女たちの選抜レースが開催された時点のデータであればそうなる可能性が高かったんだ。なにせ、誰からもスカウトされないような成績しか残せていなかったのだからねぇ」

 

 少しだけ寂しそうに語るアグネスタキオンですが、肝心の貴方は「あ、そんな感じだったんだ……」と小さな驚きに包まれていました。

 

 トレーナーとして働く意志が存在しない貴方にとって選抜レースはただの娯楽です。取引中のウマ娘たちの仕上がり具合を確認する以外では、ほかのウマ娘の走りを分析してはGⅠ勝利へのプランを練るという遊びを繰り返していただけなのです。

 さすがはアグネスタキオン、科学者を名乗るだけあって選抜レースに対する理解力も見事なものじゃないか。独特な視点からの感心を抱きつつも、空気の読める貴方はとりあえず真面目な表情をキープして続く言葉を大人しく待つことにしました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。