貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
「たのもぉ~うッ!! タキオンさんからこちらのルームにそれはもうビックリでドッキリな面白いトレーナーさんがいらっしゃるので布教活動に是非とも勤しみたまえよと言われて呼ばれてなくともデジたん馳せ参じ候んほぉぉぉぉウマ娘ちゃんたちの夢の祭典ですかここはこんなの6月の雨にも負けないレベルのマイナスイオンで水瓶座の黄金聖闘士のパワーアップ間違いなしの清涼空間じゃないですかこんなの素敵しゅぎて恐れ多いを通り越して原子分解土下座が必要なんじゃないですかおいくら万円でここの空気は販売される予定ですかすいませんハイテンションでなんとか意識を保とうと小細工をしてみたもののさすがのデジたんもそろそろ限界が近いようでしてゲットバック尊みヨロシク勇気リアル有マ記念オールスター万歳ゲボハァ……ッ!!」
「やぁトレーナーくん、失礼するよ。──ふぅン? 私にとってはいつものことだが、“この状態”では初対面のわりにデジタル君の挙動に驚かないんだねぇ? うんうん、やはりキミは実に興味深いトレーナーだよ。ククク……ッ!」
アプリでは基本的に晴れているシーンが多いですが、当然ながら貴方が転生した世界には雨天の時期が普通に存在します。
ある程度の雨であれば悪天候でのレース運びの練習にもなるでしょう。しかし、視界にすら影響が出そうなほどの土砂降りではいくらなんでも怪我のリスクが高すぎます。
なので現在、雨具を着用しての練習もためらうほどの空模様のため貴方のルームは特に予定のない取引中のウマ娘たちが各々の手段で暇を潰している最中でした。先ほどまではまったりとした空気が流れていましたが、愉快な客人の突然の訪問により誰もが時が止まったかのように固まってしまいました。いまは黙々と数学の宿題をこなすハルウララのペンの音だけが響いている状況です。
「……なぁゴルシ、どうせあの子アンタの親戚かなんかやろ? 放置せんとちゃんと反応したれや」
「いや……いやー、あそこまでノリと勢いで押しきられると、さすがのアタシでも口挟む余裕ねーわ」
「とりあえずソファーに運んじゃおうか。さすがに地べたにそのまんまっていうのもアレだし。マヤノ、そっち持ってくれる?」
「マヤわかっちゃった。きっとこれからも同じようなことが何度も起きるんだろうなって」
◇◇◇
「一応言っておくが……私が彼女になにか吹き込んだワケではないよ? トレーナーくんのことを少しばかり話しただけさ。まぁ、聞き手が退屈しないよう私なりの解釈でアレンジして楽しめるようには配慮したがねぇ」
コスモを完全燃焼しつつも抱き締めた懐のDVDだけはしっかりと守護り通したアグネスデジタルの勇姿に貴方が感心していると、横から彼女のルームメイトがニヤニヤしながら補足説明をしてくれました。
アグネスタキオンの言葉を額面通り受け取るならば、ルームメイトを連れて遊びに来たと解釈する場面でしょう。もちろん貴方がそのようなカモフラージュに惑わされるような凡ミスなどするワケがありません。
これは、逆転の発想だ。
ほかのウマ娘たちは自分をトレセン学園から追放するために動いているが、アグネスタキオンはあえての逆張り……人材不足を解消するために、悪のトレーナーから善のトレーナーへと改心させるつもりなのだ。
だからアグネスデジタルをぶつけてきたのだろう。彼女ほどウマ娘に対する情熱を持つウマ娘はそうそういないだろうし、ウマ娘に対して極悪非道な振る舞いを続ける外道トレーナーがいると知れば、勇者と評されたウマソウルが黙っていられないのは自明の理。
しかし、わからないこともある。いくらアグネスデジタルが優秀な伝道師とはいえ、可能性が存在しない相手にぶつけるなど無意味でしかない。
ひとりでいるときならばともかく、これまでウマ娘の前では完全なる悪役の姿しか見せていないのに。いくら理系とはいえ、やはりチート能力者の前では計算が狂ってしまうということか。
さすがはチート能力を持って生まれた転生者! 貴方の視覚と記憶領域は千年パズルでも遠く及ばないほどの高次元な摩訶不思議で構成されているようですね!
貴方の脳内が常に自分のターンであることはいつものことですが、それはともかくこうして正面から挑まれたのですから、それ相応のもてなしで迎え撃たなければ無作法というものです。
さっそく貴方はパソコンとモニターを繋いでDVDを鑑賞するための用意を始めました。貴方の動きを見たウマ娘たちがテーブルの上を片付けたり飲み物やお菓子を並べたりしていますので、準備は滞りなく速やかに完了することでしょう。
次回はタキオン視点です。