貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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なっとく。

 ウマ娘たちの反応は概ね貴方の期待していた通りのものです。

 全てのウマ娘たちの幸福を願い走る生徒会長を批判したのですから当然でしょう。

 

 一部のウマ娘は「どうせまたなんか別の意味あんだろ? 勿体ぶらなくていいから早く続き喋れや」とでも言いたげな表情をしていますが、常に前を向き希望だけを見つめて迷いなく歩みを進める貴方には見えていないので大丈夫です。問題はありません。

 追放されることが目的である貴方としては、ウマ娘たちからの懐疑的な視線はいくらでも浴びていたいところでしょう。ですがコースの使用許可には時間制限がありますので、とりあえずさっさと説明して一時停止しているウマ娘たちを再起動することにしました。

 

 

 貴方がシンボリルドルフの走りに惹かれなかった理由、それは彼女が“義務感”で走っていることを察してしまったからです。

 

 

 立場による責任、そして掲げた理想に見合う実績。そうしたものを求めることに異論などありません。しかし、生徒会長として、全てのウマ娘の幸福を願うという大義を抱きメイクデビューを走っていたシンボリルドルフからは、選抜レースのときのような熱量が失われていたのです。

 勝負における熱量とは勝利への渇望とも言えます。そして、餓えることを知らなければ満たされる喜びも理解できません。満たされることを知らないまま誰かに幸福を与えるのは難しいでしょう。

 

 故に、貴方は現在のシンボリルドルフに興味はありません。貴方が見たいのは、何処かの誰かを理由にした義務感で走る姿などではなく、自らの意志で勝利を求めて走る姿です。

 彼女自身が走ることの楽しさを、強敵と競い合うことの喜びを、自らの手で望むものを掴み取る尊さを知ったとき。輝きに満ちたシンボリルドルフの走りであれば、自然と見る者全てに希望を与えることができるようになる……というのが貴方の考えです。

 

 もっとも、これは前世の記憶があってこその期待であり貴方が勝手に“そうなったら面白いな”と思っているに過ぎません。

 この世界のシンボリルドルフがどのような答えにたどり着くのか、そして彼女を支えるトレーナーはどのようにして担当ウマ娘の輝きを引き出すのか。そうした将来性についてはしっかり興味津々です。

 

 

 ウマ娘たちはすっかり静まり返っていますが、貴方には彼女たちがどのようなことを考えているのかなど簡単に察することができます。

 未だに担当すらいないGランクトレーナーが何を知ったかぶって偉そうに語っているんだ……と、内心では相当呆れていることでしょう。デビュー前で合宿に参加していない取引中のウマ娘たちから向けられるジト目にも慣れたものです。

 

 これだけシンボリルドルフのことを悪し様に語ればヘイト稼ぎも充分だろうと判断した貴方は、あとは担当トレーナーに余計な飛び火がしないようにフォローだけはしておこうと考えたようです。

 もしもレースに負けたとき、我らが生徒会長殿を信奉する者はその責任をトレーナーに求めてしまう可能性があります。なので、ここはシンボリルドルフには支えとなるトレーナーが必要であることをしっかりと説明しておかなければなりません。

 

 

 どれだけ能力に優れていようともシンボリルドルフとて全知全能ではない。もしも道を間違えそうになったときに、対等な立場から引き戻してくれるトレーナーは絶対に必要だ。

 なに、心配などいらないだろう。すでにシンボリルドルフが完成しているなどという思い違いさえしなければ必ず良い方向に導いてくれる。そして、自分ですら気付くことが出来たのだからほかのトレーナーがその程度のことを見逃すワケがない。

 

 

 ウマ娘たちの納得具合は5割に届くかどうかといった様子です。それだけシンボリルドルフのことを尊敬しているのか、それだけ貴方の信用がマントルを貫くほど底辺なのかはわかりません。もっとも、どちらにせよ貴方にとっては好都合ですので、これ以上の問答は必要ないでしょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「忙しいところ連れ出しちまって悪いね。今後のために、どうしても会長と走ってみたいと思ってさ。アンタにとっては練習にもならないかもしれないけど、今日のところはひとつ、よろしく頼むよ」

 

「そんなに畏まる必要などないさ。ようやくメイクデビューを終えたばかりの私には、これからまだまだ学ぶべきことは多い。こうした併走でしか得られない経験もある。それに、生徒会長としては生徒の頼み事になるべく応じたいと思っているからね」

 

「……生徒会長として、ね」

 

「うん?」

 

「いや、なんでもない。……トレ公ッ! アタシの走り、ちゃんと見といておくれよッ! この間の模擬レースでは手も足も出ないで負けちまったからね。次までにガンガン鍛えて走りを改善しておかないと、タマ先輩たちに勝てないからねッ!!」

 

 

 どれだけ鍛えたところで、本格化が進まなければさすがにあのふたりには勝てないだろう。というかそこはブライアンじゃないのかよ。

 

 ヒシアマゾンからの「ちょっと練習を手伝ってほしい」という申し出を案の定息をするかのように安請け合いした貴方ですが、まさか過日に散々罵倒した相手と顔を合わせるとまでは想像していなかったようです。

 心の中でツッコミを入れることで現実逃避を試みましたが、すでにシンボリルドルフのトレーナーとも挨拶を済ませています。ここは開き直り、この状況を利用するのが吉かもしれません。

 

 併走トレーニングとはいえ、一緒に走ればシンボリルドルフとヒシアマゾンの差は明確に現れます。そして、この状況は第三者から見ればヒシアマゾンのサポーターである貴方は育成評価Gの先輩トレーナーとして、シンボリルドルフのトレーナーは育成評価『F』の後輩トレーナーとして見えるかもしれません。仮にも先にデビューしたミスターシービーやマルゼンスキーと関わりがありますので、貴方のことを後輩に容易く追い抜かされた情けない先輩として扱き下ろしてくれることでしょう。

 

 

 この調子であれば、夏が終わる頃には自分を追い出すための会議でも開かれるかもしれない。そんな儚い夢を抱きながら、貴方はストップウォッチを構えるのでした。




次回はヒシアマ姐さん視点です。


※先輩後輩という表現がややこしかったので修正しました。
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