貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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頭の中を空っぽにして読んでください。


◆オマケと頂き物の紹介☆

「トレーナーさん、たまには大自然の中で息抜きなんてどうですか? ちょうど鮎が時期なんですよ~。川の流れる音を聞きながら釣りを楽しんで、ついでに美味しい塩焼きなんかも楽しめちゃうお得なプランをご提供する用意があるのですよ! ……ついでにお車なんて出していただけますと、いまならセイちゃんポイントもご進呈いたしますよ?」

 

 このひと言から全ては始まった。

 

 夏合宿に参加しないウマ娘たちにとっても、トレーニング機材やコースの順番待ちが多少緩和されるこの時期は能力を大きく伸ばすチャンスである。

 だが、それはそれとして彼女たちも青春盛りの若者たちである。せっかくの夏をトレーニングだけで全て消費してしまうのも勿体ない。夏合宿組だって空いた時間でお祭りに参加したりと夏を満喫しているのだから、世間一般でいうところの“夏休み気分”を味わう権利ぐらいはあるだろう。

 

 セイウンスカイにとって幸運だったのは、遊びに理解のあるトレーナーと交流を持てていたことだ。ルームの中に様々な娯楽用品を置いているだけあって、この提案はあっさりと受け入れられることになる。

 

 

 そこまではよかった。

 

 

 トレーナーの協力も無事得ることができ、さっそく具体的な日程を決めようと話し合いを始めたのだが……しばらくして「どうせなら山と海、両方で遊びたい」という意見が出てくるようになったのだ。

 

 朝早くに出発して釣りを楽しみそのままキャンプで1泊、そのまま海まで突撃してしまおうという体力と気力に溢れた若者でなければ顔面蒼白となるだろう恐るべきプランである。

 夏の解放感で掛かってしまっていたウマ娘たちは冷静さを取り戻すことができず、保護者であるトレーナーが特に反対しなかったことも後押しとなったのかもしれない。ブレーキをかけるものが不在のまま、この無謀なサマーバケーションは本当に実行されてしまう。

 

 ウマ娘の体力はヒトよりも優れている。だが、それはあくまで“ヒトと比べれば”という話である。最大値が高くとも、ウマ娘がウマ娘の基準で遊び騒げば消耗の割合は変わらないワケで──当然の権利のように、参加者のうち半数のウマ娘は早々にスタミナ切れをおこしていた。

 そんな話が聞こえてきたとき、初めナリタブライアンはアホなことをしているなと呆れていた。貴重なトレーニング時間を削ってまで海にまで出かけたのに、肝心の体力が足りずに充分に楽しめなかったというのだから当然だろう。だが。

 

 

「自分で釣った鮎を焼いて食べるのも美味しかったですが、浜辺でやったバーベキューも楽しかったですねぇ。骨付きのステーキなんて初めて食べましたよ」

 

「Oh、フクキタルは()()()()()()()()をゴゾンジなかったデスか。ンー、そういえばトレーナーさんもニホンでは普通は販売してないといってマシタネ。エーセーメン? がネックだと。どうしてステーキのお肉を買うのにヌードルが関係してるのでショウ?」

 

「ヌードル?」

 

 

 その単語が聞こえてきたとき、彼女は己の耳を疑った。

 

 Tボーンステーキ。ヒレ肉とサーロインを同時に味わうことができるそれは、ステーキ界の2大グランプリ覇者といっても過言ではない。食肉のオーソリティーを自負するナリタブライアンも当然その存在はよく知っている。トゥインクル・シリーズにデビューして賞金を手にした暁には、是非とも専門店へ赴き存分に堪能してやると誓うほど渇望している1品である。

 だが、知識として知っていても実食に至る経験は未だ皆無であった。何故なら、タイキシャトルの言う通りTボーンステーキの骨は通常“危険部位”として焼却処分されるため、特A5ランクにんじん並みに厳重に管理されたものしか流通することはないからだ。

 

 食べ終えて残った骨はトレーナーが回収して然るべき方法で処分したらしいがそんなことはどうでもいい。豪快に焼き上げた肉の塊を軍手と新聞紙を用いて骨を掴み行儀など無用と言わんばかりにヒレとサーロインを喰らうその行為。その行為こそが、レースを走る現代ウマ娘に平等に与えられた最高の癒しなのである。その機会を()()()()()()()()()()ことを知ったナリタブライアンは己の愚かさに対する恥と悔いと憤りでウマソウルが燃え尽きそうな気分であった。

 実は彼女もそのバカンスへ参加しないかと誘われていたのだ。ちなみに勧誘してきたのはマヤノトップガンである。ニコニコと笑いながら「きっとブライアンさんにとってもステキなことがまってるよ☆」と誘われたのだが、魚に興味のないナリタブライアンはトレーニングに集中したいからと断ってしまった。

 

 

 真実を知ったナリタブライアンは深い後悔に苛まれたのち────彼女は復讐を誓っていた。

 

 

 次なるお肉への復讐。今後もし同じような焼き肉が行われるのであれば、必ず参加してみせると。未だデビューどころか選抜レースに出走すら出来ぬ未熟者であるがそこは影をも恐れぬ怪物。未来の三冠ウマ娘が誓いし復讐に、ミスはありえない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あん? 次にTボーンステーキを焼く予定はいつだって? そんなん特に決まっちゃいねぇが……少なくとも夏が終わるころまではやんねーよ。いまァほかの学校も夏休み始まってるし、レジャー施設とか混んでんだろうし。そもそも肉だって知り合いから分けてもらったヤツだしな」

 

 日常会話で然り気無くカモフラージュしつつ巧妙に情報を引き出すことに成功したナリタブライアン。だが残念なことに望むお肉にありつける可能性はどうにも低いということがわかってしまった。

 なんでも、バーベキューで使用したTボーンステーキはトレーナー研修生時代に知り合った“ニシノーサ”なる人物から暑中見舞い品として送られてきた頂き物であったらしい。名前の響きからして、もしかしたら中等部に飛び級してきたニシノフラワーの親族か誰かかもしれない。ともかく関西方面でなにやら重要な役割を担っている人物……ウマ娘? どちらかはわからないが、上等な牛肉を手配できるあたりトップクラスの重鎮であるとナリタブライアンは判断することにした。ちなみに友人の名前は“ヒガシノウサ”といって関東に住んでいるらしい。

 

 

 無い袖は振れないことぐらいナリタブライアンも心得ている。ここは素直に引き下がる場面であると考え、調理中のホルモン焼きの味見役だけ引き受けてルームを立ち去った。

 ニンニクと味噌で濃いめに味付けされたそれをとりあえず2キロほど食べて安全性を確かめ「味に問題はない」と太鼓判を押してやったのだ、これでトレーナーも安心してウマ娘たちに振る舞うことができるだろう。もしかしたら返礼として次のバーベキューに呼ばれる可能性もある。うむ、善いことをしたあとは気分も清々しいものだ。

 

 あとはトレーナーが自分を誘いやすいようにこまめにルームに顔を出せば完璧である。とはいえ、季節の移ろいで簡単に味が変質してしまう野菜とは違い、お肉は通年如何なるタイミングで食べても美味しい無敵の食材だ。焦る必要はないし、あまり頻繁にルームに行ってはまるで催促しているかのように誤解されてしまうだろう。

 とりあえず3日に1度ぐらいのペースで肉とバーベキューの話をしておけば問題はないはず。時折顔を合わせるヒシアマゾンがまるで夕食のメニューを一生懸命リクエストする子どもを見守るかのような慈愛に満ちた視線を向けてくることだけがナリタブライアンには不思議であった。

 

 

 ナリタブライアンがその情報を得たのは夏の終わりである。日課となりつつあるルーム訪問、そして戸棚からのビーフジャーキー獲得を繰り返していたときに偶然に聞くことができた。

 

 バーベキューの話を聞いて、ミスターシービーやマルゼンスキーを始めとするウマ娘たちから「合宿から帰ったら話があるから逃げないように」とトレーナーにメッセージが届いたらしい。

 なるほど、やはりGⅠレースで勝利しているだけあって彼女たちもお肉に対する情熱は強いのだろう。やはりお肉、お肉こそがウマ娘に必要なのだ。まさに必須アミノ酸、ミートイズビューティフル。

 

 新たなバカンス計画は8月の終わりに決行される。夏合宿の疲れを癒すという名目で、かつ前回の反省を活かし目的地はひとつに絞られた。海は当分見なくてもいいということで、トレセン学園からほどほどに離れたビギナー向けのキャンプ場でのんびりしようという流れだ。

 宿泊は無し、バーベキューがメインの日帰り。実に良い、理想的なスケジュールであるとナリタブライアンも大満足である。野菜を食べさせるために姉ビワハヤヒデも参加することだけが懸念材料ではあるが、その程度でお肉への情熱を妨げることなどできぬのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 当日。念願のTボーンステーキとの邂逅こそ叶わなかったものの、トレーナーがクーラーボックスから取り出したモノを認識した瞬間ナリタブライアンは──否、バーベキューに参加した全てのウマ娘が言葉を失った。

 

 

 それは肉と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさしく肉塊であった。

 

 

 車の荷台からクーラーボックスを運搬していたウマ娘たちも、己が抱えて運んでいる物の正体を知り唖然としている。てっきりほかの食材やジュース類なども含めての大量のクーラーボックスだと思い込んでいたが、そのひとつひとつに同様の肉塊が納められているのだから当然だろう。

 スーパークリークに財布を渡して野菜や飲み物を購入してくるようにと指示を済ませると、トレーナーは肉塊を豪快に切り分け始める。それは決してステーキなどという可愛らしい表現で納得できるようなものでなく、まるで辞書のように存在感を残したままだった。

 

 

 誰もが『まさか』と考えたそのとき。トレーナーは迷いも躊躇いも全く感じさせない素直な動きで“ソレ”を金網の上に乗せた。乗せてしまったのだ。

 

 

 期待以上だと喜びに浸るナリタブライアンであったが、金網近くの椅子を確保しているウマ娘たちの姿を見て、ようやく己が出遅れたことに気が付いた。お肉の素晴らしさを誰よりも知る自分が、よりにもよってお肉を食べる場面で出遅れるという醜態。

 これがトレセン学園、これがデビューしたウマ娘たちの本気なのかと背筋に冷たいものが流れる。ひとつめの焼き肉争いにて早々に敗北という非情な現実を突き付けられたが、その程度で怯むほど諦めの良い性格などしていない。むしろ強敵との競り合いなど望むところだ。

 

 ナリタブライアンは冷静に別の金網付近へ位置取りを完了させた。木炭の熱気を充分に蓄えた金網がお肉の塊を丁寧に受け止め、真剣勝負の始まりを告げる福音を奏でる。

 

 

 

 まずはお肉の旨味を逃がさないために全面を軽く炙る作業から始めるらしい。巨大な肉の塊をトングひとつで危なげなく操るトレーナーの技術は見事なもので、それぞれのグループを淀みない動線で巡回してお肉を踊らせている。

 

 そしてある程度表面が焼けたところで、事前に用意していたのであろう下味となるタレを塗り始めた。お肉の下拵えなど塩コショウだけでも充分美味であり、なんなら市販の焼肉のタレでも美味しくパクパクできるだろう。

 だが、あえてナリタブライアンは大人しく待つことを選んだ。なにせ相手はミスターシービーとマルゼンスキーの担当トレーナー、GⅠウマ娘を育てた実力者がお肉の扱いを間違えるなどあり得ないし、あってはならない。故に、このまま任せていれば必ず納得の仕上がりにしてくれると信頼しているのだ。

 

 

 華麗なスタートダッシュで鼻腔を刺激してくるのは醤油の香りである。日本に住む者にとってこれ以上ないほど馴染み深いものだが、極上のお肉を前に五感が薄氷の刃の如く研ぎ澄まされたウマ娘たちはそれがただの醤油ではないことに気付いてしまう。

 香ばしさの中にグラデーションを感じたのだ。おそらくは複数の醤油を組み合わせている。そこに味噌の優しい塩味、ニンニクの力強さ、生姜の清涼感が輪郭を与えているようだが……。

 

(微かな甘味……? 砂糖のように素直ではない、みりんほど広がりは感じない。ハチミツ……いや、それにしては深みを感じない。なんだ、この正体は……)

 

 姉ビワハヤヒデと違い料理をする習慣のないナリタブライアンはここで躓いてしまう。普段であれば旨ければそれで良しと気にしない場面だが、最高のお肉を前にして思考を停止させるなどお肉に対する侮辱でしかない。

 

(肉に合わせる甘い食べ物……フルーツか? だがイチゴやメロンのようにわかりやすいものではないし、バナナを喜ぶのは姉貴ぐらいなものだ。肉……フルーツ……例えばハンバーグに乗せるパイナップルのように──フッ、そういうことか。やってくれたなトレーナー……ッ!! いいだろう、オマエの挑戦を受けてやるッ!!)

 

 

 お肉との対話は完了した。あとは食べ頃になる瞬間を見逃さず差し切るのみ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 お肉たちがタレを纏い炎と戯れることしばらく。ついにトレーナーがナイフを取り出してお肉の塊を切り分ける神聖な儀式に取り掛かる。

 

 その様子は“斬る”というよりも“隙間を通す”と表現するほうが正しいのかもしれない。まるで初めからそこだけ切れていたかのように静かにお肉が剥がれていくのだ。

 音も無く淀み無く動く銀の軌跡。その度に金網の上に横たわる鮮紅の()()()()はあまりにも妖艶であり、はたしてあの誘惑に耐えられる生物などいるのだろうかと思わせるほど魂を逆撫でしてくる。

 

 ごくり、と。誰かの喉が鳴る。ちなみにこの争奪戦に参加するのは危険と判断されたウマ娘たちはちゃんと避難して別のグループで焼き肉を楽しんでいた。

 アイネスフウジンなど面倒見のよいウマ娘たちがお肉と野菜をバランスよく配置して焼いてくれているので栄養バランスもいい。残念ながらピーマンや玉ねぎよりもさつまいもやカボチャ、とうもろこしなどが人気なのは予定調和というものだろう。

 

 

 切り分けられたお肉が金網の上に並び、それを見たウマ娘たち全員がここからが真の弱肉強食の世界なのだと覚悟を決めた。

 お肉の焼き加減について俗世では多種多様な情報が溢れているが、そんなものはこの場において無意味な雑音でしかない。何処かの誰かが100万人の群衆に向けて語った言葉に心を動かされるほど、トレセン学園のウマ娘たちは自分を見失ってはいないのだ。

 

 

 ぽたり、と。

 

 封じられていた旨味が滴り、灼熱の炭の上でバチリと弾けた。

 

 

 ウマ娘が集う戦場、ここは食卓。

 

 彼女たちに課せられた交戦規定はただひとつ。

 

 

 ──喰い尽くせ。

 

 

 

 

「うんうん! 美味しいお肉が嬉しくて、みんなとってもマーベラスだね☆ あ、ネイチャ。そっちのタン塩もマーベラスだよ」

 

「ほいほい、んじゃお先に失礼しますよ~と。……しっかしまぁ、皆さんそろってギラギラしちゃって。ネイチャさんには無縁の世界ってヤツですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 とってもマーベラスなイラストを読者さんから頂きました。

 ニヤニヤして眺めていたらカーテンを登っていた子ネコが鳩尾にダイブしてきて口からヒトソウルが飛び出すかと思いましたが作者は元気です。

 

【挿絵表示】

 

 作者としてはシービーのジュースの飲み方にグッときました。やはり小ネタを拾って貰えると嬉しいものですね。




これにてseason2は完了です。

マスコミ関係とのいざこざは掘り下げるつもりはありません。アレもコレもと欲張って盛り込むと管理できなくなる可能性が特大なので。
とはいえ、全く書かないのも勿体ないというもの。なので、お行儀の悪い記者さんたちには賢さGくんから素敵な体験がプレゼントされることが確定しました。ヨカッタネ!


続きは秋の味覚が本格化したら、次は年末を舞台に……ちょっとルドルフとFトレーナーの話も書きたい欲求に負けそうになっています。
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