貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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やるき。

 名門シンボリ家のウマ娘であり中央トレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフのネームバリューは大きいらしく、中山レース場の賑わいは昨年よりも明らかに盛り上がっているようです。

 もちろんレース場グルメもファンの入り具合に相応しく気合いも充分といった様子で、貴方が支払う前提でウマ娘たちが容赦なく買い漁る姿はまさしく悪役トレーナーとしての日々の努力が実を結んでいる証拠なのでしょう。少なくとも貴方の中ではそれが真実なので問題はありません。

 

 当然ながらホープフルステークスも大歓声と共に始まり、新たなジュニア王者が誕生した瞬間など中山レース場全体が揺れるほどの熱狂ぶりだったのですが──。

 

 

「以前、キミはルドルフの走りには情熱が足りないと評価したらしいね。最初、その話を聞いたときはあまりピンとこなかったんだけど……うん。いまならトレーナーの言っている意味がわかる気がするよ」

 

「そうねぇ~。ルドルフの立場や願いを知っている身としては、ああなっちゃうのも仕方ないかなって思うけれど。嬉しそう、というより……なんだか課題を終えてホッとひと息、って雰囲気ね」

 

 2着のタマモクロスに三バ身の差を付け、実力を見せつけるような形で勝利したシンボリルドルフへ盛大な拍手と祝福が贈られる中。貴方の隣でレースを見ていたミスターシービーとマルゼンスキーが、普段の飄々とした彼女たちとは別人のように真剣な声色で呟きました。

 レースに対する情熱はトレセン学園でも屈指のふたりですから、シンボリルドルフが今回のホープフルステークスをクラシック三冠の足掛かりとして──言ってしまえば“理想を実現するための手段”として走っていることを察してしまったのでしょう。

 

 勝負の楽しさや喜びを知り真ボリルドルフとして覚醒する前ならこんなものだろうとのんびり構えてのほほんとしている貴方はちゃんと気が付いていませんが、ふたりだけではなく周囲にいるウマ娘たちも喜ぶでもなく騒ぐでもなく無言のままターフを見ています。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……いや~、さすがは生徒会長やっとるだけあるな! 簡単には背中ぁ掴ませてくれんかったわ! こりゃ皐月賞まで徹底的に鍛え直さないとアカンなぁ~、あっはっは!」

 

「だよなぁ~。やっぱり芝居仕立てのコントも悪くないけどよ、せっかくのGⅠレースなんだから王道の漫才のほうがウマ娘らしくていいよな。皐月賞はタマがボケでアタシが座布団運びのポジションでいこうぜ!」

 

「そうそうウチがひたすらボケ倒すからゴルシがその後ろを座布団抱えてアピールしながら通り過ぎる感じでってなんでやねんッ!! そこはせめてアンタがツッコミ担当するところやろッ!!」

 

「……え? ゴルシちゃんがツッコミすんの? フツー逆じゃね?」

 

「知っとるわァッ!! なに急に真顔になっとんねんッ! テンション直滑降かッ!!」

 

 貴方はタマモクロスとゴールドシップの担当トレーナーではありませんが、トレーニングの協力者としての義理を果たすべくふたりを迎えに行きました。

 貴方が目指すのはただの無法者や無礼者ではありません。真っ当な悪役として断罪され追放されることが目的ですので、こうした部分を蔑ろにするワケにはいかないのでしょう。その心掛けが称賛に値することだけは確かです。

 

 さて、肝心のふたりの様子ですが、とりあえず意気消沈してコンディションが悪化していないことに貴方はひとまず安心しています。

 シンボリルドルフは油断もしていなければ侮ってもいない、しかし本気で走っているが同じフィールドで戦ってもいない。そんな雰囲気の中で走り、しかも負けてしまったワケですから、ふたりのメンタルに何らかの影響が出ている可能性も考えていましたが……これだけの軽口が小気味良く出てくるぐらいですから心配は無用だったかもしれません。

 

 

 あとはもう帰るだけ、愛車でのんびり寄り道など楽しみ、なめろうにでも使えそうな鮮度抜群の海の幸など物色するのもよし。

 理想はひとりでゆったりドライブだが、何人かのウマ娘が止める間もなく車に乗り込むだろうからそこは潔く諦める。

 

 そんな今後の予定を立ててご機嫌な貴方でしたが、浮かれ気分であるが故に重要人物たちの接近に気がつくのが遅れてしまいました。

 

 

「やぁ、タマモクロスにゴールドシップ。さきほどぶりだね。これから帰りかい? 今日はゆっくりと体を休めるといい。私も学園に戻り残っている生徒会の仕事を片付けたら、今日のところは大人しく部屋に戻るつもりさ」

 

 

 本日の主役であるシンボリルドルフ。

 

 

 そして、ウマ娘がいるなら当然──。

 

 

「どうも、こんにちは。以前にも併走トレーニングでご一緒しましたが、貴方とこうしてまともに話すのは初めてかもしれませんね。……改めまして、どうぞよろしく」

 

 

 マヤノトップガンとトーセンジョーダンが見立ててくれたコーディネートをなにも考えずにそのまま着用しているだけの貴方とは違う、しっかりとスーツを着こなし若々しさと社会人らしさを兼ね備えた正統派トレーナー(貴方基準)が隣に立っていました。




中山といえば千葉。

千葉といえば落花生と海鮮物、あとは春夏秋冬海パンの少年とディステニーランドでしょう(属性Chaos)

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