貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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今回も賢さGに対する強烈なアンチ・ヘイトが集まるに違いない……フフフ……ッ!!


どきどき。

 唐突に始まったトークバトルですが、理不尽極まりないことに貴方の敗北条件は特に存在しません。

 

 正義の味方は常に正々堂々とした戦い方をしなければならないように、相手のトレーナーは誰が聞いても納得できるような説得力のある論理的な言葉で貴方を追い詰めなければならないでしょう。

 しかし、悪役は手段を選ばずどれほど卑怯な戦い方をして批判されようと問題ありません。貴方の場合は論破され敗北しようとも追放という目的に近付けるだけなので、言いたいことをそのまま適当に垂れ流しても全てが追い風になってしまうのです。

 

 

 初手。ルドルフトレーナーは貴方の『無責任』を追及してきました。ミスターシービーのレースを楽しむのであれば、それこそ担当契約をしても同じだろうというのが彼の考えなのでしょう。

 

 いきなり攻撃力の高い正論パンチを繰り出されてしまったことで、貴方は喜びの感情を必死に抑え込まなくてはいけない状況に追い込まれています。これは実に理想的な流れ、やはり彼は三女神が自分をトレセン学園から排除するために用意してくれた主人公なのだろうとワクワクが押し寄せてきているようです。

 もちろん貴方は相手トレーナーの指摘を全面的に肯定して受け入れます。その通りだ、自分はウマ娘たちの走りに一切の責任を負うことなく日々を過ごしていると堂々と言い切ります。担当契約を交わしてしまえばトレーナーはウマ娘に夢を見せなくてはならない、だが自分はウマ娘たちに夢を見たい、だからこれからも決して担当ウマ娘を受け持つことなどない、と。

 

 次いで、第9レース場に集うウマ娘たちのことを引き合いに出され、三冠ウマ娘の実績ならば正式にチームとして認められ、もっと充実したトレーニングを施すこともできたはずだと指摘されます。

 ならば貴方はそもそもアレは勝手にウマ娘が集まってきただけで自分は誰ひとりとして呼び掛けた覚えは無いという事実でカウンターを放ちました。もちろん貴方の追撃はそれだけで止まりはしません。そもそもチーム運営など面倒なだけで自分にとってメリットなどひとつもなく、なによりもウマ娘たちは皆自分自身の意地と覚悟で走りを高めることに邁進しているのだから手助けなど不要であると鼻で笑います。

 

 ウマ娘たちを導くのがトレーナーの仕事だろうと強い語調で挑まれれば、貴方はトレセン学園に来た時点で本人が自覚してようが無自覚だろうが走る意志はすでに持っている、ならば導くまでもなくウマ娘たちが望む方向に望むまま走ることができるようにしてやればそれでもう充分だと返しの刃で応戦します。これは無責任発言とのコンビネーションも相性が最高の煽りになること間違い無しです。

 

 案の定、ルドルフトレーナーは「こんな男が三冠ウマ娘のトレーナーだなんて……ッ!!」と悔しそうに呟きました。やはりあのシンボリルドルフが認めただけあって正義感も使命感も100点満点の素晴らしいトレーナーであると貴方も大満足といったところ。

 しかし、若さ故の繊細さも見え隠れしていますので、これ以上いぢわるを続けるのは貴方としてもあまり気分が良いモノではありません。ここはひとつ、適当にそれっぽいことを捨てゼリフにして早急にタマモクロスとゴールドシップへ労いの美食を提供することを優先したいと考えているようです。

 

 このタイミングで拾うべきキーワードはずばり『三冠ウマ娘』でしょう。シンボリルドルフは理想を語る資格を証明するために三冠ウマ娘を目指すと宣言していますので、当然担当トレーナーである彼も三冠ウマ娘の称号には他のトレーナーたち以上に強い想いを抱いていることでしょう。

 三冠ウマ娘の価値の否定。これが一番効果的だと貴方は判断しました。なによりも、これからタマモクロスもゴールドシップもクラシック路線を走るワケですから、ルドルフトレーナーともども大きくヘイトを稼ぐことが可能です。

 

 これをきっかけに貴方に反旗を翻し、第9レース場に集うウマ娘たちを根刮ぎ引き連れて行き新しいトレーナーを見つけてくれれば万々歳なのですが……その辺りは追々考えればよいと、どうやら気楽に構えることにした様子。

 クラシック級は厳しい戦いが続いても、シニア級になれば引く手数多になるほど活躍するだろうと貴方は確信しているのでしょう。その発想がミスターシービーとマルゼンスキー相手に互角の走りができるウマ娘がいまのトレセン学園には何人もいるという前提の含まれたものであるかは貴方のみぞ知るところです。

 

 

 ついうっかり『喜』と『楽』の感情が溢れ出そうになるのを日々の鍛練で白刃の如く鍛え磨かれた精神力で封じ込め、貴方はルドルフトレーナーに向け「順番を間違えるな。アイツは三冠ウマ娘である前にミスターシービーという名のウマ娘だ」と静かに語りました。

 あくまでウマ娘だけにしか興味は無い、三冠ウマ娘の名誉など自分にとってはただの記号でしかない。これだけトレーナーとしての矜持を踏みにじるような価値観を突き付けておけば、もしかしたら次の日本ダービーは家でのんびり観戦できる可能性もあるだろう。

 

 

 ここでウキウキ気分を表に出してしまえば台無しです。クールでスタイリッシュな悪役トレーナーのオーソリティーを自負する貴方は、振り返ることもなく愛車へと乗り込むのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「知ってたけどよ。三冠取ってもアタシらのトレピッピはやっぱりブレねぇんだなァ。ま、アイツが軸ブレるとこのが想像できねぇけど」

 

「ウチらがいろんな呼び方されてんのは知っとったけど、まぁ言われてもしゃあないよなぁコレは。チーム・ポラリスのトレーナーは伊達やない、ってこっちゃな」

 

 

 

 

 そしてこのあと、貴方のウマ娘名鑑には“タマモクロスは回らないお寿司屋さんに連れていくと敬語になり挙動不審になる”という情報が追加されることになりました。




次回はルナちゃんとルナトレくんのアレコレの予定ですが、しっくりこなかった場合はどちらかに絞ります。

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