貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

78 / 170
炬燵!
ストーブ!
エアコン!
ぬこ!
電気毛布!

我ら、冬の温もり四天王!!


おしきせ。

「いやいや、皆さんそんなに驚くようなことではないですよね? ただトレーナーさんがスーツを着てるってだけのことですよ? そりゃ私も珍しいな~とは思いましたけど」

 

「ウソでしょ……? だってフクキタル、トレーナーさんがジャージじゃなくてスーツを着てるのよ? あ──もしかしてフクキタルも体調を崩しているのかしら。大丈夫? 一緒にターフ走る?」

 

「あるぇー? ナチュラルに私のほうがおかしいことにされてます?」

 

 

 これも日頃の行いの賜物、やはり日々の地道な努力こそが夢を叶えるために最も必要な要素なのだ。スーツを着用しただけで周囲から、取引中のウマ娘たちからさえも怪訝な視線を向けられている貴方の心は夏模様です。

 万に一つの可能性として心を改めて真面目なトレーナーに堕ちたなどと勘違いされないための秘策“棒つき飴ちゃん咥えたまま歩いてお行儀悪いアピールしちゃうぜ作戦”も実行していますが、周囲の反応からしてここまでする必要もなかったかもしれません。

 

 ですがそこはチート転生者特有のミスを常に警戒するのが貴方の流儀。チートがあるからと準備を怠るなど言語道断というもの。

 予備の飴はトウカイテイオーとツインターボとアグネスタキオンとナカヤマフェスタに与えてしまいましたが、貴方の内ポケットにはココア味のシガレットが残っていますので戦力にはまだまだ余裕があります。

 

 

「まぁ季節が季節だし、ジャージよりは暖かいとは思うけど。それなら別にジャケットでもなんでも良さそうなもの……マルゼン、なんだかご機嫌だね。もしかしてなにか知ってるのかな?」

 

「さぁ? どうかしらねぇ~」

 

 

 貴方が唐突にスーツを引っ張り出してきた理由、それはマルゼンスキーからの謎の提案にあります。

 

 ジュニア級のマイルGⅠレースの勝者ふたりがインタビューにて「クラシック級で安田記念に挑み、先輩たちを王座から引きずり落としてみせる」と宣言したことにより、マルゼンスキーの調子が絶好調になった……と、ここまでは貴方にも理解できます。

 彼女の性格を考えれば、後輩からの挑戦状は2大マイル覇者の称号獲得よりもモチベーションに大きく影響を与えることは簡単に予測することが可能でしょう。

 

 しかし、そこからどうして安田記念の賞金で貴方にネクタイピンをプレゼントしようという発想になったのかは皆目見当が付かないようです。タイミングからして挑戦者である後輩ウマ娘たちの発言にヒントが隠されている可能性を貴方は考えてみたものの、聞いていて気持ちのいい喧嘩の売り方だったことぐらいしかわかりません。

 一応、彼女たちを担当するトレーナーの様子もしっかり観察したものの、得られた情報はせいぜい画面越しに身に付けているネクタイピンから伝わってきたオーラから長い年月を大切に扱われて過ごしてきた品だということを察知したぐらいです。名門出身とのことですので、おそらくは同門の師匠、あるいは父親あたりから受け継いだものかもしれません。

 

 学生時代ですら私服は全て妹たちの選んだものをそのまま着ていた貴方にアクセサリーの価値はわかりませんが、わざわざプレゼントしてくれるというものを断るのは守銭奴ロールプレイに反する行いであることはわかります。

 しかし、ネクタイピンを受け取ってからスーツを着用したのでは、まるで“ウマ娘からのプレゼントを喜ぶ心豊かなトレーナー”のように見えて変な勘違いをされてしまう未来も否めません。

 

 

 故に、貴方は考えました。ならば安田記念よりも前に定期的にスーツを着用することで、自然な流れでネクタイピンを身に付ければよい……と。当然ながら、プレゼントを適当に机の奥へ追いやるという選択肢は貴方の中には絶無です。

 

 

 副次的効果として、マルゼンスキー側にプレゼントを期待していると思わせることにより勝利へのプレッシャーを与えることもできるかもしれません。彼女は勝敗よりもレースそのものを楽しみたいと考えていますので、期待値は低めですが嫌がらせとして機能してくれれば儲けものといったところ。

 例えチート能力があろうとも、こうした小さな積み重ねを蔑ろにしない丁寧さ。追放に向かう貴方の誠実さは、歴戦のうまい棒が立ち並ぶ石兵八陣の如く堅牢なる勝利をもたらしてくれることでしょう。仮に総大将をなに味にするかで対立が起きたとしても、最終的に「ごちそうさま!」の福音が全てを解決するので心配は無用です。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 さて、スーツ姿のお披露目が無事終わった貴方としてはルームでごろごろと時間を浪費したいところです。しかし、今日は冬季の選抜レースが開催される日であり、取引中のウマ娘たちからもメジロライアンやアイネスフウジンなどが出走することになっています。

 スマートな悪役を演じる貴方が彼女たちの走りを蔑ろにするワケがなく、お披露目の道中で顔見知りのウマ娘やトレーナーから渡された頭痛薬や胃腸薬、睡眠改善薬などを戸棚に丁寧に片付けてレース場に足を運んでいます。

 

 何故か当たり前のように同行するウマ娘たち。そして何故か当たり前のように制服の上に羽織られた黒ジャージ。品質は確かですが防寒具としてはあまり機能しないことですし、貴方としてはそんなものは脱げばいいのにと思わなくもありません。

 とはいえ、こんな細かいところでダメ出しをしても稼げるヘイトなど微々たるものだろう。多少の誤差などチート能力でいくらでも調整が可能であると、貴方は黙って歩くことにしました。




このパートでこんがりルドルフの下拵え終わらせるね……。


※お薬の部分を修正。市販の物は全部“睡眠改善薬”とのこと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。