貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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◆かけつけ。

「聞いておくれよフラワーく~ん。トレーナーくんを驚かそうと思って脚のことを黙っていたのに、反応が淡泊で面白くないんだよ~。せっかく1着になったというのに、適当にあしらわれてしまったんだよ~」

 

「えっと、その……タキオンさんの走りは、とてもかっこよかったですよ! コーナーの曲がり方もキレイでしたし、最後の直線の加速もすごかったです!」

 

「フフン、ありがとうフラワー君。お礼にあとでとっておきの紅茶をトレーナーくんに淹れさせてごちそうするよ」

 

「ちぇ~。トレーナーがビックリするかもと思って協力したのになぁ~。ま、いいや。ボクの走りのデータはムダにはならなかったみたいだし」

 

 

 チート転生者にサプライズは通用しない。心の中で渾身のドヤ顔を披露する貴方ですが、アグネスタキオンの脚が回復したこと自体は嬉しく思っています。レースを楽しめればそれでよいというスタンスは変わりませんが、どうしてもアプリなどで馴染みのあるウマ娘は贔屓目に見てしまうのでしょう。

 とはいえ、あまり手放しで喜べる状況ではないことも確かです。見事な走りで選抜レースに勝利したにも関わらず、アグネスタキオンをスカウトしようと動くトレーナーが誰もいなかったことが貴方は気に入りません。

 

 やはり問題行動の数々がマイナス要因となったか、もっとしっかりと監督するべきだったか。タマモクロスとゴールドシップがトレーナー不在でデビューしたことに危機感を覚えた貴方は、アグネスタキオンのイメージが悪化しないようトラブルを起こす度に現場に急行して捕縛することを繰り返していました。

 

 ときには貴方と交流のないウマ娘たちも協力して彼女の所在を知らせてくれたこともあり、大きな被害が発生してエアグルーヴの怒声が響き渡る前にアグネスタキオンを黙らせることに成功していました。1度だけ逃げられそうになったこともありますが、ボールペンを投擲して白衣ごと掲示板に縫い付けることで逃走を防いでいます。

 それ以降トラブルの数は減ったのですが、肩に担いで運んでいる最中もケラケラと笑っていたあたり反省はしていなかったのでしょう。おそらくその後フォローに失敗したイタズラがトレーナーたちに目撃され、選抜レースの勝利でも打ち消せないレベルのマイナスイメージを構築してしまったのかもしれません。

 

 

 終わってしまったことを悔やんでも仕方ありません。あくまで選抜レースに勝利しただけであって、メイクデビューまではまだまだ時間があります。それまでにアグネスタキオンの走りに魅了されたトレーナーたちがきっとスカウトに動くはずです。

 それに、まだまだ注目のウマ娘は何人も出走を控えています。メジロライアンやアイネスフウジンはもちろん、第9レース場で素晴らしい走りを披露していたウマ娘たちが無事スカウトされることを祈りましょう! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ねぇ、あなた大丈夫? 今日はずっと難しい顔をしていたけど。悩み事があるなら、このキングが相談にのってあげてもいいけど──へ? 先輩たちがスカウトされなかったのが不思議でしょうがない? あー、うん、そう……そうね、うん。あなたにしてみればそりゃあ……謎しかないでしょうね、うん。不思議……でしょうね」

 

「なになにー? キングちゃんトレーナーとナゾナゾするのー?」

 

「ウララさん、トレーナーが作ってくれたコーヒーゼリーがあるからあっちのテーブルで一緒に食べましょう。ホイップクリームも沢山あるわよ」

 

「やったぁ~! トレーナーの作ってくれるコーヒーゼリー、とってもおいしいよね~! えへへ、た~っぷりトッピングしちゃうぞ~♪」

 

 

 どうしてこうなった? 

 

 わかりやすいトラブルメーカーであるアグネスタキオンはともかく、優等生に分類されるであろうメジロライアンとアイネスフウジンまでもが誰からもスカウトされなかったという事実には、さすがの貴方でも困惑してしまったようです。

 当の本人たちに気にした様子は全くありませんでしたが、このままメイクデビューまで担当トレーナーが見付からなければ大きなハンデを背負ってレースに挑むことになってしまいます。

 

 当然メジロ家からは不倶戴天の敵として認められることになり、それはトレセン学園から追放されたいと願う貴方としては菓子折りを抱えてお礼を伝えたいほどに喜ばしいことでしょう。

 しかし、その代償をウマ娘に支払わせるなど貴方の悪役としてのプライドが赦しません。因果応報、己の悪逆たる振る舞いの報いは必ず己自身が全てを受け止めなければならないと貴方は覚悟を完了していたのです。

 

 

 さすがに彼女たちがこのまま誰からもスカウトされることなくメイクデビューを迎える可能性などゼロに等しいだろう、しかしそれは備えを怠る理由にはならない。

 ほぼ確実に無駄になり廃棄することになるだろうが、三人分のトレーニングプランを用意しておこう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 メジロライアン、アイネスフウジン、アグネスタキオンそれぞれに、とりあえずクラシック三冠路線を走る前提のプランを作り終えた貴方ですが……どうやら集中し過ぎたらしく、すっかり辺りは暗くなっています。

 あとは戸締まりを済ませて帰るだけ──ではありません。貴方はこれから学園内でトレーニングが可能な場所を順番に巡り、怪我のリスクを抱えたままギリギリまで練習を続けているウマ娘たちを寮に強制帰還させる作業が待っています。

 

 もちろんトレーナーとしての使命感にいまさら目覚めたワケではありません。これは貴方なりに効率よくウマ娘たちから嫌われるために考えた立派な作戦です。

 ウマ娘たちもなかなか強かなもので、貴方がどれだけ妨害しようとも怯むことなくトレーニングを続けています。帰りを心配しているフジキセキとヒシアマゾンの立場を考えろと言いたい貴方は、意気揚々とルームを出発しました。ハリセンを片手に握り締めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 素敵なプレゼントをもらったので読者の皆さんに自慢するね……。

 

【挿絵表示】

 

 画像の容量を4MBにおさめるために多少トリミングしてあります。申し訳ありませんが、見えない部分は各自の想像力で補ってください。


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