貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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おしかけ。

 ウマ娘たちからは嫌われる、怪我も防ぐ。どちらも完璧に遂行できる前提なのが貴方の前頭葉の辛いところですが、そんな事情などお構い無しに今日も自信満々でオーバーワークなウマ娘たちの頭をどつくために夜のトレセン学園を歩き始めました。

 

 もちろんいきなり問答無用で意識を刈り取るワケではありません。1度だけではありますが、貴方も言語を用いた説得を試みています。

 しかしそこは勝負の世界に生きるウマ娘。担当でもない、しかも悪党であるトレーナーの忠告を素直に受け入れるウマ娘などいるはずがないでしょう。

 

 まともなトレーナーなら大人しく引き下がるか、あるいは熱意を持って説得を続ける場面なのかもしれません。ですが貴方がそのようなウマ娘の好感度が上がってしまうかもしれない行動を何も考えずに迂闊に選ぶなどありえません。

 言葉が不要ならば取るべき手段はただひとつ。次の瞬間には爽快な衝撃音が高らかに鳴り響くことでしょう。ちなみに貴方のハリセン奥義・変異抜刀ミストファイナーの記念すべき初撃の犠牲者はサイレンススズカとアドマイヤベガのふたりでした。基本的に悪役トレーナーとして特訓中の貴方は単独で多数の脅威を相手にすることが多いので、同時に2ヵ所を攻撃する程度のことであればチート能力に頼るまでもなく可能です。

 

 

 ハリセンという小道具を使おうとも暴力というカテゴリーであることは明白。トレセン学園どころか社会的地位すらも対価として差し出す前提で貴方は行動していますが、第三者にそんなことは関係ありません。噂を聞いた良識あるトレーナーからは当然の如く非難されることになりました。

 どんな言葉を並べられたところで追放に向けた拍手喝采のプレリュードに等しいのですが、その程度で満足してちゃんと終わってくれる貴方ではありません。義憤に燃えるトレーナーたちを蔑むように、貴方は淡々と煽り詠唱を始めます。

 

 

 それがどうした、文句があるならお前たちがウマ娘たちを説得して寮に帰してやればいい。門限を破ってまで練習を続けるウマ娘たちがいることは知っていたのだろう? 学生らしく規則を守れと説教してやればいいじゃないか。

 夢だの才能だの努力だの、そんな言い訳にいちいち配慮していられるものか。レース場で怪我をして泣かれるくらいなら、学園で恨まれたほうが何倍もマシだ。それが大人の役目で責任だろう。俺のやり方が気に入らないなら、それこそお前たちがウマ娘を守ってみせろ。話はそれからだ。

 

 

 あまりにも尊大で自意識過剰で反省の欠片も見えない貴方の態度には、トレーナーたちも怒りのあまりすっかり黙り込んでしまいました。さりげなくスカウトの推奨を混ぜ込むことでウマ娘たちを守りつつ敵対するという、なかなか前衛芸術点の高い悪役ムーヴです。

 残念ながら実際にスカウトされたウマ娘は両手で数え終わるほどの人数ですが、それならそれで残っているウマ娘たちへ順番にお休みダイナミックを実行するだけです。もちろんウマ娘たちの寮に貴方が立ち入ることはできませんが、最近では寮長であるフジキセキやヒシアマゾンだけでなく、友人やルームメイトが迎えに出てくるので運搬に支障はありません。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いつものことだけど、あなたも物好きね……。言われなくても、今日はもう終わりよ。カレン──ルームメイトからもいろいろと言われているもの。……そういえば、最近珍しいウマ娘をよく見かけるわ。もしも門限を破ろうものなら、あるいは……怪我でもしたら、私よりもはるかに問題になるようなウマ娘が。まぁ……私には関係ないけれど、別にあなたが見に行くのを止めたりもしないわ。勝手にすればいい」

 

 

 意味深な情報を口にしたアドマイヤベガにとりあえず比較対象が凱旋門ウマ娘だとしてもお前の怪我だって問題でしかないとだけ言い残し、珍しいウマ娘とはいったい誰なのだろうと貴方は気配を探ります。

 

 野生のフィールドとは勝手が違いますが、門限ギリギリまで怪我のリスクを度外視してまで練習をするウマ娘というのは走りたがりの先頭民族を除き気持ちに余裕がないパターンがほとんどです。

 最近では皆ハリセンに慣れてしまったのか平常心でムチャをするウマ娘ばかりなので、そこに普段と異なる存在が紛れ込んでいるのですから探すのはそれほど難しくはないでしょう。

 

 ただし、アドマイヤベガに教えてもらうまで気が付かなかったということは、怪我のリスクが高まるより手前の時点でちゃんと寮に帰っている証拠でもあります。探すだけ時間の浪費となる可能性もありますが、ウマ娘がレースで不本意な結末を迎える可能性に比べれば自分の時間など路傍の石ほどの価値もないと考えている貴方に止まる理由はありません。

 

 

 学園内をハリセン片手の黒スーツという完成度の高い不審者スタイルで歩くことしばらく。件のウマ娘は簡単に発見できたのですが……。

 

 

「……やぁ、キミか。オーバーワークになりそうなウマ娘たちをケアしてくれているという話は聞いていたが、まさか私のところにまで現れるとは思っていな──ハリセン?」

 

 

 そこにいたのは未来の皇帝シンボリルドルフでした。

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