貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
理想を追い求める彼女が門限ギリギリまで練習に励むこと自体は不思議ではありませんが、周囲を見回してもあの担当トレーナーの姿はどこにもありません。
彼ほどの熱血漢であればウマ娘が練習を終える前に帰宅するなどあり得ないでしょう。ならばこの状況は、担当トレーナーに相談することなくムチャをしているのだと貴方は判断しました。
どうせ説得のターンは意味がないだろうから手早く処してヒシアマゾンに引き渡そう。問答無用でハリセンを構えようとした貴方ですが、ふと「この状況は追放されるためのヒントに使えるのでは?」と考えてしまいます。
全てのウマ娘の幸福という理想、それを語るだけの実力があることを証明するための三冠ウマ娘獲得。担当トレーナーに内緒でギリギリのトレーニングに励みたくなるのも当然の流れ。
ここに貴方のスタイリッシュな暴走言語をぶつけることで本人はもちろんのこと、ついでに物陰に隠れて様子を伺っているウマ娘たちのメンタルも攻撃することができてしまうのです。
すでに状況は自分に有利な方向へ傾いている。ならばここは奇策に走らず真っ向勝負で攻めるのが吉。
①シンボリルドルフを悪し様に罵る。
②様々なルートで悪評がシンボリ家に届く。
③シンボリ家から敵視される。
④トレセン学園を追放される。
迷うことで目標を見失うことのないようにと洗練された貴方のプランは、経験値の不足している外道初心者から見れば頼りなく思えるかもしれません。
しかしそこは百戦錬磨の悪役トレーナーである貴方が考えた作戦です! 心配せずとも砂漠の荒野を餓えと渇きに彷徨う旅人の前でキンキンに冷えたお水が入ったペットボトルをチラつかせて評価させれば大絶賛間違いなしでしょう!
とはいえ、なんの脈絡もなく悪口を放つのはスマートではありません。明日からは再びジャージに戻るとしても、今日の貴方は面接以来の出番となったスーツ姿。それも前世の祖父の教えである「どれだけ高級なスーツを買えるようになったとしても、自分で手入れができないようでは男として二流のまま」という言葉に従い丁寧に管理してきたお気に入りです。
残念ながら祖父のように“大事な勝負どころの前は必ず祖母にネクタイをしめてもらう”というジンクスとは無縁ですが、ここは皇帝シンボリルドルフの敵役として恥じない立ち振舞いをしっかり決めなければなりません。
軽く探りを入れたところ、概ね予想通りの返答が得られました。やはり三冠ウマ娘を狙うことによるプレッシャーは感じているのでしょう、堂々とした態度ではあるものの、担当トレーナーに黙ってこんな時間まで走り込むほど精神的に余裕がないのはいただけません。
無駄に長引かせて明日のトレーニングに支障が出るようでは困ります。出し惜しみを拒んだ貴方はシンボリルドルフに対し「ならば三冠を獲得できなければ理想を諦めるのか」と問い掛けます。
もちろんこの程度で黙って俯いてくれるほど簡単な相手ではありません。やはり毅然とした態度で「たとえ三冠ウマ娘の称号を得られなくとも理想を求め続ける覚悟はできている」と反論してきました。
並みのトレーナーであればここで押し切られたかもしれません。しかし貴方はチート能力に溺れることも惑わされることも拒否するべく心身を鍛え続けている剛の者。シンボリルドルフの言葉の中に付け入る隙を見出だすなどカワカミプリンセスの拳を風に揺れる柳の如く流すように容易いことなのです。
シンボリルドルフの言葉の中にはあの正統派トレーナーの姿が見当たりませんでした。重箱の隅を楊枝でほじくるような細かい指摘になりますが、夢を語るにしても“私の夢”と“私たちの夢”ではまるで意味が違うと屁理屈を介入させることが可能でしょう。
早速貴方は「こんな時間にひとりでトレーニングに励むとは、よほど担当トレーナーが頼りにならないようだな」と薄笑いを浮かべました。貴方のあまりにも意味不明な言葉の前ではさすがのシンボリルドルフも一時停止は避けられない様子。
貴方は続けて「担当トレーナーが無能で頼りないから自分ひとりで夢を掴まなければならないのか、それは確かに覚悟が必要だしこんな時間まで練習が必要なワケだ」とわざとらしく笑ってみせます。雑用係としては使えるだけいないよりはマシかと煽ったところでついにシンボリルドルフの思考は再起動したらしく、貴方に発言の撤回を求めてきました。
さぁ、ここからが一流の悪役トレーナーの腕の見せ所です! シンボリルドルフからの評価は落とす、同時に支えられることは弱さではないとわからせる。貴方が望む成果を得るためには運命力が13割ほど必要な点に眼を瞑れば勝利条件は全て整っています。ここは恐れずにどんどん攻め立てましょう!
次回はなかなかハリセンの炸裂音が聞こえてこないことを不思議に思ってなにかトラブルでもあったのかと未だに明るい練習場にやってきたら賢さGとルドルフが対峙しているのを見付けてどうしようか迷ったものの好奇心に負けてしまい物陰に隠れて見届けることにした野次ウマ娘たち視点です。