貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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せかいのあいことばはもり。

 自身の行動を冷静かつ客観的に省みることができる貴方は、前回のメンタル十面埋伏の計を実行するにあたり迂闊にも前世の知識だけに頼ってしまっていたことに気が付きます。

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。まずはこの世界のオグリキャップというウマ娘についての情報を得ることが重要であると考えた貴方は、手始めに彼女の模擬レースを観察することにしました。

 

 

 やはり一番期待できる距離はマイル、次いで短距離と中距離。長距離に関してはスタミナではなく脚質の問題でやや厳しいといったところ。

 

 

 もちろん貴方はチート能力を持つ転生者ですので、そのつもりになればより正確なデータを数値として確認することが可能です。

 しかし、数字というものは正直であっても絶対ではないと考えている貴方はデータに振り回されて思考を鈍らせることを懸念しています。現代のスポーツ科学では身体能力を様々な方法で数値化することが可能ですが、それらはあくまで判断材料のひとつでしかありません。最終的な判断は己自身の曇り無き眼で見定め決める必要があるでしょう。

 

 

 そして一流の悪役トレーナーである貴方は、現段階ですでにいくつかの課題を見つけることに成功しています。

 

 

 例えばオグリキャップの得意とする距離がマイルであることから、現状では短期間での勝負強さに優れているものと判断しました。故に、一度の食事で敗北を認めさせるといった電撃戦は彼女の得意とするフィールドのようなものです。

 正々堂々とした戦い方など論外ですが、このような相手の得意とする条件で勝負を挑む行為も悪役としてはあまり好ましくありません。それではまるで、ライバルとして主人公を高みへと引き上げるメインキャストのようになってしまいます。つまり貴方は悪役トレーナーとして、より卑怯で卑劣な方法を考えなければなりません。

 

 こうして無事“マイルを得意とするウマ娘にステイヤーの流儀でトレーナーという立場から料理を提供して精神に揺さぶりをかけヘイトを稼ぐ”という現代文明の理解を凌駕する高次元の計画を貴方は編み出しました。

 

 

 攻略の糸口を掴むことに成功した貴方は、ひとりのウマ娘ファン&トレーナーとして改めてオグリキャップの走りを観察しているのですが……見事な走りを見せているわりに、周囲のトレーナーたちの反応はいまひとつといったところ。

 前世の知識からオグリキャップという名馬の存在を知るが故の贔屓目があるのかもしれない、普通のトレーナーであれば1度や2度の走りだけで評価するほど迂闊ではないだろう。そう自分を納得させようとしていた貴方ですが──。

 

「いや、アンタがオグリを買ってくれてんのはウチとしても嬉しいけどなぁ。やっぱな? 芦毛で活躍したウマ娘って少ないやろ? レースってモンはギリギリの勝負の世界や、どないなちっさいことでもゲン担ぎもバカにできへんからな」

 

 なるほど、験担ぎ。そのように言われたのでは、貴方もそういうものかと納得するしかありません。

 そうした要素に頼る者を軟弱であると嗤う者もいますが、験担ぎを含め出来ることを残したまま勝負に挑む半端者が真剣勝負を語る行為こそ余程の笑い話であると貴方は容赦なく切り捨てるでしょう。

 

 タマモクロスは貴方にオグリキャップを夜間練習組に誘えばどうかと提案してきましたが、貴方にとってオグリキャップは自分を追放してくれる有望な主人公枠のウマ娘。理想としてはシンボリルドルフ同様、若手のトレーナーと担当契約を結びトゥインクル・シリーズを走りつつ悪役トレーナーを排除するための旗印となって欲しいと願っています。

 

 当然ながら計画について漏洩するワケにはいきません。なので貴方は“嘘の中に真実を混ぜる”という情報戦の基本を忠実に守り「オグリキャップは敵にまわしたほうがきっと楽しいことになる」と答えました。

 それに対してタマモクロスは「だとしても、担当トレーナーが見付からないことには始まらない。芦毛のウマ娘はそれだけで苦労している子も多い」と返してきます。

 誰もがゴールドシップのように前向きに生きることができれば別なのかもしれませんが、それはそれでトレセン学園が混沌と化すので危険が危ないでしょう。理事長とその秘書、教官やスタッフはもちろん、生徒会メンバーもストレスで倒れる未来が簡単に想像できます。

 

 

 ならばどうするか? その問題を解決する方法として、とてもシンプルかつ確実な手段が存在することを貴方は知っています。

 

 

 迷いのない挑発的な笑みを浮かべた貴方はタマモクロスへ言いました。芦毛のウマ娘は走らないなどという下らない迷信はすぐに誰も口にしなくなるのだから、そのような心配はするだけ時間の無駄だろう? と。

 

「──ハッ! 言うてくれるやないか。せやな、そんな与太話を気にして振り回されるんはウチらしくなかったわ。ルドルフはもちろん、ゴルシのヤツも、シニア級に上がったらシービーやマルゼンもまとめてブッちぎって……これから走る連中にバッチリ希望見せたらんとな!」

 

 

 オグリキャップ攻略のヒントを得ると同時に、何故かタマモクロスのやる気も絶好調。

 貴方は今日も非の打ち所がない策士ムーヴを完遂できたことにとてもご機嫌でしたが……その後オグリキャップが貴方にライバル視されたことを知り、もうルームに遊びに行って料理を食べることができないと思い込み落ち込んでしまったことへのフォローに慌てることとなるのでした。




次回はオグリン視点です。

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