貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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良い子のみんな!

冬用タイヤを装着したら、忘れずにワイパーも冬用に換装しようね!(大惨事)


じょてぇ。

「えっとね、その……マッサージは気持ちいいから、ホラ、エアグルーヴも最近忙しかったでしょ? 疲れがたまってたから、うっかりしちゃうのも仕方ないというか……。えと、だから……あ、そうだ! 美味しそうないちご大福を見つけて買ってきたのがあるの。お茶でも飲みながら一緒に食べれば元気もでるから……その、こういうとき、どうすればいいのかしら……」

 

 

 現在、貴方の視線の先ではルームの隅っこで体育座りをして落ち込むエアグルーヴをオロオロしながら一生懸命にフォローしようと頑張るサイレンススズカという世にも珍しい光景が繰り広げられています。

 

 

 最近、生徒会の仕事をいつも以上に張り切って取り組んでいる副会長の話は貴方の耳にも届いていました。そして時期を同じくして、シンボリルドルフが生徒会長としての仕事をセーブしてトレーナーと一緒に皐月賞に備えている……という情報も一般匿名勇者から一方的に聞かされています。

 そこから貴方が導き出した答えは“シンボリルドルフが周囲の者たちに頼ることを覚えた”というものです。従う者を信じて仕事や役目を割り振るのは上に立つ者として必須のスキル、エアグルーヴとしてもレースのために協力を頼まれるのは望むところのはず。

 

 それは大変結構なことなのですが、エアグルーヴの性格からして自分の休息時間を削るぐらいのことは平気でやりかねない。そう考えた貴方はチートパワーによる能力スキャンを実行したのですが──やる気は絶好調なのに体力は虫の息という、なんとも馴染みのあるインターフェースが確認できてしまいました。

 基本的にウマ娘のために行動する貴方の判断力と瞬発力は刀で落雷を斬ることが可能なレベルに到達していますので、さっそく何人かのウマ娘に取引を理由に協力を強要しエアグルーヴの身柄を確保することにしました。

 

 いまでこそどこに出しても恥ずかしさを感じない立派な悪役トレーナーとして日々ヘイトを稼いでいる貴方ですが、もともとは表面上だけはまともなトレーナーとして周囲を欺く予定がありました。

 当然、そのために必要になりそうなスキルはなんでも身に付けています。指先を使う技術だけでも空き時間で簡単にできる筋肉の疲れをほぐすものから爆砕点穴まで、幅広いニーズに応えることができるよう鍛え上げているのです。

 

 

 そんな貴方にとって体力回復を目的としたマッサージなどお茶の子さいさいというもの。少なくともウマ娘たちに好かれようなどという考えは浜の真砂の1粒ほどにも持ち合わせていないのは事実ですので、効果が高い代わりに痛みが尋常ではない施術も容赦なく実行することができます。

 もちろん未来の女帝はその程度のことで取り乱したりはしなかったのですが……痛みからの解放と回復による脱力感は思考を鈍らせるには充分な効果があったようです。よりにもよってスーパークリークから温かいタオルを渡されたときに、うっかり『母』と呼んでしまったのが運の尽きなのでしょう。

 

 普段であればニヤニヤと笑いながら煽るであろうトウカイテイオーやマチカネフクキタルでさえも空気を読んで沈黙を貫きましたが、こうして気遣われているという事実そのものがエアグルーヴの精神を蝕みました。

 なお、空気を読まずにケラケラと笑ってイジり始めたアグネスタキオンは照れ隠しの一撃により意識が高速の旅をスパークさせられて雑にその辺に転がされています。

 

 

 別に勝手に立ち直るまで放置してもよいのですが、ここは貴方が悪役トレーナーとして活動するための神聖なる拠点です。決して困難に直面したウマ娘たちが再起するために門を叩く救済と試練の神殿などではありません。

 

 

 貴方はこれ以上ないほどわざとらしく「自分のせいでエアグルーヴが不調になったと知ればシンボリルドルフは責任を感じて落ち込むだろうな」と大きな声を響かせました。

 貴方の極悪非道な蛮行に多少の耐性を持つ周囲のウマ娘たちは形容しがたい表情をしていますが、当事者であるエアグルーヴは吹き出しに「ぐぬぬ……!」とでも表示されそうな顔になっています。

 

「……はぁ。会長に頼りにしていただけて舞い上がっていたのは事実だ。たしかに、これで私がひとり仕事を抱え込んで失敗をしたのでは、な。スズカ、すまないが花壇の世話を手伝ってもらえるか?」

 

「ええ、もちろん! あ、でもエアグルーヴほど詳しくはないから、作業のことは教えてもらわないとダメだけど……」

 

「そこは心配いらん。簡単な作業でも手伝ってくれるだけでだいぶ違うからな。……ふむ、いっそのこと開き直ってほかにも声をかけてみるか? フラワーと……ドーベルやスカーレットも手伝いを引き受けてくれると助かるのだが」

 

 後輩に頼る、という慣れない状況が不安なのでしょう。そこにはいつもの堂々とした副会長の姿はなく、いたって普通のウマ娘が真剣な表情でタブレット端末を操作しているだけ。

 念のため、貴方はメジロライアンに「憧れの先輩から手助けをお願いされて断る後輩はそうそういないと思うがどうだろう」と確認してみました。返答は「今度のお茶会の席で、ドーベルが大喜びで話すのは決まりかな」という満足のいくものでした。




ファインが「グルーヴ」呼びだったのは覚えているのですが、そういえばスズカはどっちだったかな……。

普通にド忘れしたので、あとで確認して間違ってたら修正しておきます。


※フルネームの呼び捨てでした。というか、グルーヴって呼ぶのもしかしてファインだけかも?

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