貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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胡麻豆乳鍋の美味しい季節になりましたね……。

ウマ娘用の土鍋とか、やっぱりメッチャ大きいんですかねぇ……?


こせいてき。

 今日に至るまで多種多様な悪役ムーヴをムカデの手首を捻るかの如く鮮やかに遂行してきた貴方ですが、あるとき鏡に写る自分の姿を見てふと思いました。自分には、悪役として重要な『個性』が足りないのではないか……と。

 

 悪役とはただ悪いことをするだけでは務まりません。正義の味方を輝かせるためにも、ある種の魅力を有している必要があるのです。そのように考えた場合、貴方は自分のこれまでの行動は余計なモノを全て排除したシンプルな醤油ラーメンのように正統派に過ぎたのではないかと反省している様子です。

 何事も新しいアイディア無くして進歩など望めない。とはいえ、いきなり奇抜な行動をすればそれが進化であると主張するほど貴方は自分を見失うことはありません。ここはひとつ、まずは形から整えてみるかと服装のバリエーションを増やしてみることにしました。

 

 

 もちろんここで最新の流行に飛び付くほど貴方は迂闊ではありません。それでは結局個性を得られず大衆に埋もれてしまいますし、自分のスタイルを定めることと流行を知ることはイコールではないと考えているからです。

 

 

 ならばどのようなイメージで組み立てるかという問題が残りますが、そこは前世と今世、合わせて4人の祖父たちを参考にしようと貴方は決めているようです。

 奇しくも4人それぞれスタイルに差異はあれど、いつでもスタイリッシュかつジェントリーに祖母をエスコートして逢い引きに出かける伊達男たちでしたので手本としては最適と言っていいでしょう。

 

 テーマは旧き時代のチャラ男。着流しに羽織と袴の色合いもグラスワンダーやニシノフラワーの意見を取り入れつつじっくり考えた甲斐もあり、後にSNSで“ミスターシービーとマルゼンスキーの担当は明治時代から現代にタイムスリップしてきた過去のトレーナー説”という題名で写真が投稿され賑わう程度にはまとまった服装になりました。

 そこにマルゼンスキーからプレゼントされたネクタイピンとミスターシービーが選んだ帽子を合わせることにより、自腹を切らずウマ娘に物を買わせる女の敵としての姿も見せることができると貴方は大満足です。

 

 そして貴方独自の工夫として、敬愛する祖父たちをリスペクトして杖などを手に持つことにしました。こちらもまた偶然にも趣味が似ていたらしく、祖父たちの杖は芯の部分に玉鋼や高純度の銀など金属が使用された頑丈なモノであったことを貴方はしっかり覚えています。

 なので貴方も修行中に見掛けた緋色の輝きを宿す不思議な金属を棒状に加工したものを杖の芯として使用しています。見えないところにメタルのワンポイントお洒落、これは悪役ファッションとしてもなかなか悪くないとひとり納得しています。

 

 

 さて、こうして新しい服装に身を包んだ貴方ですが、この出で立ちで何処へ向かうかという選択もしっかり考える必要があります。

 

 普通のトレーナーであれば、身だしなみを奮発して向かう場所といえば担当ウマ娘が出走する重賞レースが真っ先に候補となるでしょう。己の魂と誇りに誓い育て上げた担当ウマ娘の晴れ舞台を見届けるのに、半端な態度でレース場へ足を踏み入れるトレーナーなど論外というものです。

 しかし貴方は担当ウマ娘などひとりも抱えていない底辺トレーナー、特別な思い入れのあるレースなどというものとは無縁です。そもそも、これほど気合いの入った服装で重賞レースを……仮にGⅠレースの観戦などしようものなら事情を知らない者たちにとんでもない誤解をされてしまう可能性があります。GⅠレースという特別な舞台に敬意を払う、王道を歩むトレーナーなどという真逆の存在と疑われるのは面白くありません。

 

 

 適当に商店街をフラフラと歩くだけでも「あの男、いまだに担当ウマ娘も見つけられていないクセに偉そうな格好して歩きやがって……」と簡単に不興を買うことは可能だろう。

 だが、いくら完全無欠のチート転生者だからといって安易な方法ばかりを選んでいたのでは足をすくわれるリスクも高まるのではないか? 慎重も過ぎれば臆病と変わらない、ここは大胆に攻めの一手を打つ場面に違いない。

 

 

 なにか手頃な予定はないかとパラパラと手帳を眺めてみたところ、ちょうど良いタイミングでメジロライアン、アイネスフウジン、アグネスタキオンのメイクデビューが間近であることに貴方は気づきます。

 これはなんとも好都合。担当ウマ娘が走るワケでもないのに特に意味もなく洒落た服装で観客席にたたずむ育成評価Gトレーナー。なかなかインパクトのある絵面になるのは確実です。

 

 お披露目の舞台は決まりました。あとは当日に体調を崩して台無し、などということにならないよう気をつけるだけ──でしたが、ここまで整えるのであればとことん祖父たちの行動を真似してみるのも一興というものでしょう。

 そうと決まれば善は急げ。さっそく貴方は杖を清めるための日本酒を買いに出かけることにしました。




レース部分をもっと見たいという嬉しいリクエストもちらほら頂いていますが、作者の語彙力ではシーズン中に1回、どんなに多くても2回が限界かと。

本作は群像劇な部分もあるので、迂闊に手札を切れないのです。何度も同じレースは書けませんからね。ネタ切れ的な意味で。

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