貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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きさらぎこっとうひんてん!
じらそーれ!

言いたかっただけです。ウマ娘とは特に関係ありませんし、別に深い意味はありません。


やせいてき。

 妥当な結果であると納得するべきか、それとも番狂わせが起こらなかったことを惜しむべきか。メジロライアン、アイネスフウジン、アグネスタキオンの3人は無事メイクデビューを勝ち抜けることができました。

 とはいえ、勝利という結果はあくまで結果でしかありません。そこに至る過程、つまりレースそのものは見ごたえがあり貴方もバッチリ楽しむことができてご満悦のようです。

 

 アイネスフウジンはレース中盤の始まりからゴール手前50メートルあたりまでふたりのウマ娘と先頭の奪い合いが続いていました。

 アグネスタキオンは途中まではプラン通りの走りができたものの、最終コーナーあたりでいきなり想定以上の走りを見せたウマ娘が現れたとご機嫌です。

 

 たかがメイクデビューなどと侮るなかれ。まだまだ未熟な走りのウマ娘ばかりですが、その中でも今後が楽しみになるような走りを見せてくれた子たちはそこそこいます。

 具体的には、能力をコッソリ覗き見したときに根性の数値だけ何故か飛び抜けているウマ娘がチラホラといたのです。つまりはギリギリの追い比べになったとき、最後まで諦めることなく走る気概をすでに身に付けているということ。強敵と戦えば戦うほど伸びる土台ができているワケですから、そこに期待をするなというほうがムリでしょう。

 

 

 そうした嬉しい発見を含めた上で、今日のメイクデビューで最も貴方の想像を超えた走りを見せてくれたウマ娘は誰かと問われれば、それはメジロライアンです。

 

 フジキセキとは別枠のイケメンウマ娘として黄色い声援を浴びる機会の多いメジロライアンですが、今日の彼女は普段トレセン学園で見ることができる『品の良さ』が見られない……と、いうよりも自らの意思で無用であると投げ棄てたかのような走りをしていました。

 普段のメジロライアンを美術品の彫刻にも似た雰囲気であると例えるのであれば、今日の彼女の走りはまるで野生の獣の躍動感を思わせるモノ。それはそれで風雨により研磨された自然石のような美しさはありましたが、あれだけ“メジロのウマ娘とは”と悩んでいたワリには迷いの無い走りに仕上げたものだと貴方は驚きを隠せません。

 

 いったい誰がメジロライアンの中に潜んでいた野生を目覚めさせたのだろうか。中央トレセン学園でトップクラスの常識ウマ娘で真面目な彼女に優等生の仮面を外させることは一朝一夕で実行できるものではありません。

 自分などつい最近もヘイトを稼ぐために煽りに煽っていただけだというのに……と、貴方は姿の見えない導き手の手腕に感服しているようです。

 

 

 ちなみに貴方が行った煽りとは“メジロらしさとはなにか、格好や言動を改めるべきだろうか”と悩むメジロライアンに「お前にとってメジロの誇りは見てくれを整えればそれで完結するものなのか? てっきり『私が駆け抜けた道こそがメジロそのものだ』ぐらいの気概を走りで証明してくれるものだと思い込んでいたよ」とニヤニヤ笑いながら発言するというものでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 メイクデビューは終わりましたが貴方の悪役ムーヴを兼ねたレース満喫の1日はまだ終わっていません。せっかくレース場まで足を運んだのですから、全てのレースをしっかり堪能してから帰らなければもったいないというものです。

 ほかのレースに出走する顔見知りのウマ娘たちを冷やかすために控え室を訪ねては逆に服装のことで弄られたりと一進一退の攻防を繰り広げつつ、貴方はレースの合間に小腹でも満たそうかと屋台などを眺めながら歩いています。

 

「お、見てみなよトレ公。台湾ラーメンの屋台があるよ。レース場にしちゃなかなか珍しいものが出てるもんで──なんで選べる辛さがアメリカン、ノーマルときて次が天堂地獄なんだい……?」

 

「台湾!? 台湾のラーメンがたべられるの!? ターボもたべてみたい! ちょっと辛そうだけど美味しそうなニオイがするもん! えーっと、どうせなら辛いのだって一番をたべて──」

 

「はいはい、アンタは素直にアメリカンを頼んでおきなよ。あと台湾ラーメンは日本のご当地ラーメンだからね。トレ公、アンタのぶんも頼んでおこうか? 最近は湿気の多い日もあるし、辛いモン食べて気合い入れるってのも悪くないさね。……トレ公?」

 

 

 貴方は外道を我が物顔で闊歩する悪のトレーナーとして活動していますが、それでもウマ娘たちの安全だけは天地神明に誓って守護ると決めています。故に自分の近くにウマ娘がいるときの貴方の警戒能力は、例え光学迷彩や亜空間潜行であろうともそこに悪意が含まれている限り欺くことは不可能です。

 そんな貴方が感知したのは無機質な暴力装置を懐に忍ばせた何者か。悪意の類いは感じられず、しかし適度な緊張感を保つ様子から判断するに護衛任務の類いだろう。それだけの大物がGⅠレースでもないのにレース場にいる。

 

 

 いったい何事だろうかと警戒を続ける貴方の視界にひとりのウマ娘……いえ、ウマ貴婦人が現れました。

 

 

「ごきげんよう。今日はとても良い日和になりましたね。メイクデビューを走るウマ娘たちにとっても……もちろん、ほかのレースを走るウマ娘たちにとっても。そう思いませんか? トレーナーさん」

 

 小腹を満たすどころか油断しようものならハラワタを食い破られそうだ。目の前で微笑む貴婦人から感じる高貴にして剛毅な気配を「なんかよくワカランが正体不明のオモシレー女が出てきた」と楽しみつつ、貴方はまったくですねと帽子を手に取り頭を下げるのでした。

 

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