貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
台湾ラーメンを受け取って喜ぶツインターボをヒシアマゾンがテーブル席へと誘導し、その場に残っているのは貴方とウマ貴婦人のふたりだけとなりました。
もちろんやや遠くからは護衛の方がこちらの様子をうかがっていますし、特に身を隠しているワケでもないので野次ウマたちはひっそりと聞き耳を立てていますが、別に取っ組み合いの喧嘩をするワケでも無しと貴方は気にしてはいないようです。
会話の内容はここまでのレースの感想についてのみであり、お互いに相手の懐を探るような会話は一切ありません。
たまたまレース場で知り合い、その日のレースの話で盛り上がる。そうした光景はそこまで珍しいものではなく、レースを通じたコミュニケーションはこの世界では子どもの頃から誰もが慣れ親しんだものでしょう。
ですが、ウマ貴婦人の目的がただの雑談ではないことを見抜けない貴方ではありません。相変わらず敵意などは感じませんが、こちらを見定める……あるいは、値踏みをするような気配。そうしたものを相手は隠そうともせず堂々としていますので、これに気付くなというほうがムリというものです。
もっとも、貴方が品定め気分で話しかけられた程度のことで動揺することはありません。何故なら中央トレセン学園から追放されるために極悪非道な守銭奴トレーナーとして貴方は活動していますので、侮られるのも軽んじられるのも心の底から大歓迎したいぐらいだからです。
話の内容がメイクデビューで勝利したウマ娘たち……メジロライアン、アイネスフウジン、アグネスタキオンの話題になったところでウマ貴婦人の動きに変化が現れました。
要約すると、ほかのふたりに関してはともかくメジロライアンの走りは名家のウマ娘としてあまり褒められたものではないとやや批判的な評価をウマ貴婦人は下したようです。
ウマ娘の本気の走りにケチを付けるとは何様のつもりか、と普段の貴方であれば怒りゲージが蓄積したかもしれません。しかし、悪役トレーナーとして他者の感情の揺れを完璧に把握して活動してきた実績は言葉の裏側にある本音を見逃したりはしません。
目の前のウマ貴婦人は、メジロライアンが示した“純粋なる力による勝利”を間違いなく楽しんでいます。後方で脚をため、最終コーナーの入り口からフルパワーで加速して遠心力で広がることに逆らわず大外から直線で全て切り捨てる。この展開はウマ娘のレースを愛する者であれば魅了されるのも当然というものでしょう。
さらに、メジロライアンの勝ちについて楽しげに話すことから目の前のウマ貴婦人の正体についても貴方はおおよその見当が付いているようです。ここまで露骨に態度で示されたのであれば答えなどひとつしかありません。
そう、このウマ貴婦人の正体は──。
メジロ家所縁の誰かと仲良しさんな上流階級の誰かなのは確定的に明らか! と、貴方は結論を出しました。
ここで“メジロライアンのことを楽しそうに話しているからメジロ家の人物、あるいは家族である”などと安易な考え方をするようでは素人そのものです。
いまごろメジロ家では貴方からトレーナーライセンスを剥奪するための計画が順調に進行していることでしょうから、目の前のウマ貴婦人がメジロ家の関係者であった場合このようにプラスの感情を見せることなどありえません。
どうやらメジロ家は貴方の悪評を無闇に拡げることは良しとしていない様子。おそらくはほかの善良なるトレーナーたちへの風評被害が発生することを懸念したのでしょう。
存外、名門にしては意気地の無い判断をしたものだ。貴方は思わず笑いそうになっていますが、ならばここは自分がその計画を後押ししてやろうじゃないかと策を考え始めます。
如何にしてこのウマ貴婦人からヘイトを買うべきかと頭を回転させ始めたところ、話題はメジロ家の大目標である天皇賞のものとなりました。
メジロ家と繋がりがあることは確実ですので、天皇賞について話すことはなにも不自然ではありません。期待を背負うメジロライアンは天皇賞を勝てるだろうかという質問が出るのも自然な流れではありますが……それを貴方に問うのは致命的な判断ミスだと言わなければなりません。
貴方は穏やかに微笑みながらもハッキリとした声で「興味は無い」と告げました。もちろんウマ貴婦人は貴方の返答に対して気配を鋭いものに変化させ叩き付けてきましたが、その程度で撤回するほど軽々しい覚悟で貴方は暴言を口にしているワケではありません。
まさかトレーナーでありながら天皇賞の価値を理解していないのかと凄まれますが、貴方は怯むことなく、しかしあくまで紳士的に「レースの価値はその瞬間、コースを走ったウマ娘たちだけのモノ。部外者である自分が偉そうに語るなど烏滸がましいにも程がある。勝負の真価は、戦った者たちだけが知っていればそれでいい」と毅然とした態度を崩しません。
「……なるほど。貴方の考えはよくわかりました。今日のところはこれで失礼しましょう。では──また、いずれ」
最後まで気の抜けない相手でしたが、どうにか無事ヘイトを稼いで追い返すことができ貴方は安心しているようです。杖を握る手に嫌な汗の感触がわずかにありますが、少しは歯応えのある敵がいなければゲームは面白くないと前向きに考えることにしたようです。
未知の強敵に勝利した貴方は、ヒシアマゾンが購入してくれていた焼きうどんとたこ焼きを受け取ると、次のレースが始まる前にと猛ダッシュで観客席へと戻るのでした。
後書きで近況を自慢するのが一部で流行っているらしいので、作者もたまには流行に便乗してみようかと思います。
この投稿は、とある地方の道の駅で揚げたてのコロッケとバナナシェイクを楽しみながら実行しました。