貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。 作:はめるん用
その数年後、プレステにサッポロ一番をぶちまけてからゲーム中の飲食も控えるようにしました。
つまりアイスならなにも問題はないということ。これぞ発想の逆転!
「シャカールさん見てください~、ちゃんとキレイに盛り付けることができました~! マヨネーズもわさびやからしが混ざっているものじゃないですし、紅ショウガも可愛く乗せられましたよ~!」
「……チッ。一瞬でもちゃんと成長してるじゃねェかと感心しちまったあたり、オレもだいぶ毒されてンな」
「うむ、肉だ。これは美味い肉だ。如何にも肉という肉だ。こういうのでいいんだ、こういうので。やはり肉は良いものだ」
「うんうん! ブライアンさんの冷やし中華、とぉ~ってもマーベラスだね☆」
「すっごーい! チャーシューがお山みたいになってるのに、ぜんぜん崩れないね!」
夏の盛りを終えて食す冷やし中華もまた一興なり。あえて季節を微妙に外して夏の食材を楽しむという無粋極まりない行為ですが、悪のトレーナーである貴方は一切の罪悪感を持つことなく美味しく麺をすすることが可能です。
もちろんウマ娘たちがやってきてアクティブ兵糧攻めを強行してくると予測するなど貴方にとっては容易いことなので、予め大量に調理しておくことで自分が食べる分を奪われることを防ぐことに成功しました。これぞまさに頭脳プレー、貴方の右脳だけは常に100パーセント以上の力を発揮しているに違いありません。
とはいえ、今回ばかりはいつものように何故か貴方のルームにウマ娘たちが集まっているこの状況は好都合と言えるでしょう。お酢とからしが効きすぎて涙目になっているマチカネフクキタルとマチカネタンホイザも、金属製の風鈴に興味津々のグラスワンダーに南部鉄器の説明をするキングヘイローも、これから貴方が始める取引に大いに役立ってくれるはずです。
「胡麻油の抗酸化作用に辛味のカプサイシン、酸味は疲労回復。少なくともカロリーの塊なラーメンを連日食い続けるよりはロジカルではあるな。比較すりゃの話だがよ。まったく、副会長サマとあのトレーナーもご苦労なこったナァ?」
フゥー、と呆れたようにため息をつきながらも食べるラー油を冷やし中華にトッピングし梅干しもそえてバランスよく食事を楽しんでいるエアシャカールが今回の取引相手であり、彼女の目的は貴方が趣味で収集したウマ娘たちのデータにあります。
もう少し正確に表現しますと、この世界で“スキル”を定義し活用するとすればどのようになるのか興味を抱いた貴方がウマ娘たちの走りを分析し「コーナー加速……こんな感じかな……?」と手探りで研究していた資料の閲覧を望んでいます。
もちろんエアシャカールの性格上、なんの見返りも無しにデータを要求することなどあり得ません。彼女が差し出した対価は『協力』すること、貴方が日頃のんびり楽しく過去の映像記録などもあさって集めた数千人分のウマ娘の走り方のデータの整理を手伝ってくれると言うのです。
実のところ、すでにエアシャカールは現在デビュー済みのウマ娘たちのトレーニングをサポートしながらデータを集めていたらしく、貴方の知らない取引中のウマ娘たちの様子や走り方の変化を把握していました。悪の美学のひとつ“完全なる取り引きの遂行”をより確実なモノとすることを考えるのであれば、エアシャカールが保有するデータはなかなか魅力的でしょう。
もちろん貴方は悩みました。何故ならトレセン学園を追放されるにあたり、エアシャカールのように感情よりも利益を優先するウマ娘との取り引きはあまり有効ではないからです。トレーニングの自己管理を徹底しているエアシャカールは夜間練習に参加しませんので嫌がらせも行えませんし、時間外トレーニングなどそれこそあり得ませんので愛用のハリセンの出番もありません。
ちなみにナイトコール特別記念の最多勝利ウマ娘はもちろんブッちぎりでサイレンススズカです。彼女を担いで寮まで運んだ貴方の姿にフジキセキが最後にリアクションしたのはいつだったか思い出すのは難しいかもしれません。
それでもエアシャカールの提案を受け入れ、こうしてルームを自由に出入りすることを今さら改めて認めることにしたのはとあるウマ娘が──連日のラーメンというキーワードを口にした時点で勿体ぶる意味はあまり無いように思えますが、とにかくひとりのウマ娘がトレーナーと出会い、トゥインクル・シリーズに挑戦する資格があると親御さんに証明しなければならない状況になったのを知っているからです。
クールに悪ぶっているクセに、結局は友人のために行動する。どんなに外面を乱暴に取り繕ったところで精神性が善人では所詮こんなものか。まぁいい、これもウマ娘のレースをより楽しむための布石だ。望み通り互いに利用し合おうじゃないか。もっとも、最終的に利益を総取りするのは真の悪党たる俺だがな。上辺だけのツンデレやクーデレとは違うのだよ。クックック……ッ!
いつものようにマヤノトップガンが聖母の如く慈愛に満ちた「やっぱりこのパターンになったか」といった視線を向けていますが、当然いつものように貴方はそのような外野の反応には興味を示すことなく無意味にドヤ顔を披露していました。
冷やし中華のカラシは使わない派の作者です。