貴方は中央トレセン学園から追放されることを希望しています。   作:はめるん用

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ためし。

 貴方のルームで許可なく自由に寛いでいたウマ娘たちと、貴方が呼んでもいないのに勝手に集まってきたウマ娘たちを交えて、さっそくスキルの実験開始……とはなりません。

 

 スキルの実験そのものに問題はありません。何故なら貴方が作成した『なんちゃってスキル本』の利用はデビュー済みの夜間練習ウマ娘たちがすでに実行しているからです。

 勝利のために日々トレーニングに励むウマ娘たちにも休息が必要なのは説明など不要なほど当たり前の事実です。そんな彼女たちにとっては、貴方が思い付きで書き綴った文章でも気分転換の息抜き程度には役に立ったのでしょう。薄皮を1枚1枚張り重ねるような速度ではありましたが、ウマ娘たちの走りはしっかりと進化していました。

 

 

 ならばなにが問題なのか、それは集まってきたウマ娘たちがそれぞれ理解しやすい指示が絶妙に噛み合っていないことです。

 

 

 夜間練習組に関しては興味を示したウマ娘に対して適当に脚質や本人の性格、勝ちたいレースや好みの蹄鉄シューズのメーカーなどに合わせてオススメしていただけでした。なので、こうしてまともにウマ娘たちに指示を出すのは貴方も初めての試みなのです。

 とりあえずメインの取り引き相手であるエアシャカールには理詰めで、フジキセキには演劇のセリフなどを引用して、トーセンジョーダンやダイタクヘリオスにはノリと勢いで、ヒシアマゾンには擬音などを交えつつ、ナカヤマフェスタにはポーカーに例えながら、シリウスシンボリはなんか面倒だったのでトウカイテイオーを押し付けて、マチカネフクキタルからは余計な開運グッズを取り上げ、サイレンススズカには設定されたゴールを通り過ぎたらちゃんと速度を落として止まるように指示してみることにしました。

 

 なお、今回の実験にはミスターシービーやマルゼンスキーはもちろんのこと、シンボリルドルフを始めとする貴方と関連性の薄いGⅠウマ娘たちも興味を示してレース場へとやってきました。

 しかし、これはトレーニングのための試験的な模擬レースだと説明したにも関わらず自分たちも走ってみるかと覇気を垂れ流して無意味にウマ娘たちを威圧したため、問答無用で貴方が相棒のハリセン『池田鬼神丸國重ちー』の峰打ちで全員黙らせてターフに正座させています。

 

 トゥインクル・シリーズの主役たるスターウマ娘たちを暴力で支配する姿を見た新入生のウマ娘たちや新人トレーナーたちは唖然としており、この想定外のヘイト稼ぎにはさすがの貴方もニッコリといった様子。

 観客席ではどういうワケかナリタブライアンの担当である老トレーナーが腹を抱えてゲラゲラと笑っていますが、そちらはよくわからないので貴方としては干渉する意思はないようです。

 

 

 さて、多少手間取りましたが準備は完了しました。コースはもちろん芝、距離は2400で左回り、そしてフルゲート18人と日本ダービーを意識した設定となっています。

 やはりウマ娘たちにとっては特別な思い入れがあるのか、いつもニコニコしているアイネスフウジンやウイニングチケットも大したイケメンぶりでウォーミングアップを入念に行っているようです。

 

 

「たまに勘違いしてるヤツがいるが、感情の触れ幅……いわゆるテンションの影響だって貴重なデータだ。チケットやジョーダン辺りをナメてる()()ベテランのトレーナー連中もいるが、いまのアイツらの上振れしたときの走りはハッキリ言って勝ちのビジョンがゼンゼン見えねェ。まったく、どっかの誰かのせいでバケモンが量産されてたまんねェぜ。なァ?」

 

 エアシャカールから知らされた情報に、ちゃんとあのふたりの秘めたる実力に気がついているトレーナーがいるのかと貴方は感心しています。

 たまにビワハヤヒデからの依頼でウイニングチケットのトレーニングを手伝ったり、爪が割れやすいトーセンジョーダンの負担を減らすための工夫を考えてケアしたりなどをしていますが、自分の知らない間に頼れるトレーナーを見つけることができたのであれば、貴方も安心して彼女たちのメイクデビューを楽しみに待つことができるというものです。

 

「チッ。他人事だと思って気楽に笑いやがって。コッチは既存のデータの大半が使えなくなって集めるとっからやり直しだってのによ。ま、テメェの“取り引き”とやらのおかげで新しい走りのデータ集めにゃそれほど苦労しなくて済みそうだが……よく考えたらマッチポンプもいいとこじゃねェか……ったく。オイ、ちゃんとオレのデータも取っとけよ。自分の走りを外側から見て客観的に評価するってプロセスは重要なんだからよ。テメェに言ってもワカらねェかもしれねェがな」

 

 怒りとも苛立ちとも微妙に違うような雰囲気に感じないこともありませんが、ともかくエアシャカールのロジックになんらかのトラブルが発生していることだけは伝わってきました。

 そのストレスの矛先が自分へ向けられるのは大歓迎なのですが、悪役トレーナーとして常に真摯でありたい貴方としては因果関係を把握して継続的にヘイトを稼げる状態にしたいところです。

 

 とりあえず件のロイヤルウマ娘と新人トレーナーの担当契約試験が始まるまでは時間的に余裕があるはず。それまでにエアシャカールには新しいロジックを組み立てて走りを進化してもらい、そのノウハウを是非とも友人へ伝えてもらう。

 その過程で追放のヒントを見つけるチャンスはいくらでもあるだろう。何故なら自分のような日々の貴重な時間を無意味に浪費して無駄飯を食べているようなトレーナーはエアシャカールにしてみれば“ロジカルではない”無価値な存在なのだから、むしろ一切余計な行動をしなくとも勝手に苛立ちは募ることだろう。もちろんそのような怠惰は悪の美学に反するので積極的に策を弄するつもりだが。

 

 

 そこまで考えた貴方は頭を切り替えて目の前の実験レースに意識を戻しました。先のことばかりを考えていまやるべきことを蔑ろにするなど貴方の嫌う慢心そのもの、捕らぬ狸の皮算用など言語道断なのです。

 まずはしっかりデータを集めることを優先すべし。気合いを入れ直してカメラを構えた貴方は──追放やヘイトコントロールに使えるかどうかはともかくトウカイテイオーにウザ絡みをされて騒いでいるシリウスシンボリの姿が愉快だったのでバッチリ映像記録を残すことにしました。




主人公に担がれたままドヤ顔で運ばれるサイレンススズカの姿を特に騒ぐことなく当たり前に受け入れているフジキセキの姿に驚くヒシアマゾン概念。

効果音は『ボフーン』とか『ガビーン』などがよく似合うことでしょう。

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