シドの国   作:×90

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103話 英雄は如何にして失われたか

〜ピガット・ウロボトリア遺跡入り口〜

 

 ある程度動けるようになったジャハルがハピネスを背負って外へ出ると、そこにはメギドやハイアの2人以外にもラルバ、ラデック、ハザクラの3人。別行動していたイチルギ、ラプー、バリア、シスター、ナハル、カガチ、ゾウラの7人。そして青い肌の使奴キザンと、信仰の異能者で隠遁派の使奴トール、ヒトシズク・レストラン国防長官の使奴アビスの3人。ジャハルとハピネスの2人を含め、計17人が集まっていた。

 

「お、全員集まったっスね」

 

 キザンがウンウンと頷き、仰々しく咳払いをする。

 

「では今回の件にて説明をば……。恐らく互いに何があったか分かってないでしょうし、遅れて来たシスターさん達はウチらが何者かも分かってないっスよね。その辺も含めざっくりと説明します」

 

 キザンは映像魔法を中空に発動し、そこへ図を描きながら説明を始める。

 

「今回、三か所でウチら“ヴァルガン派”と“ラルバ派”の勢力が戦闘をしていました。遺跡上層ではラルバさんとアビスさん対、ウチことキザンが。中層ではラデックさんとハザクラさん対トールさん。下層ではジャハルさんとハピネスさん対メギドさんとハイアさん。結果はウチら“ヴァルガン派”の全敗ですけど。どれも死者が出てもおかしくない激戦だったらしいっスね。実際ラルバ派の面々は全員死の淵を彷徨(さまよ)ってましたし」

 

 この説明にシスターとナハルは血相を変え、当事者のジャハルは青褪(あおざ)めた顔でハザクラを見る。

 

「ハザクラが……!? キザン!! 貴様一体何を――――!!!」

「黙っていろジャハル」

 

 激昂するジャハルに、ハザクラが冷静に言い放つ。キザンはジャハルの問いに答える様子もなく話を続ける。

 

「ぶっちゃけた話、ラデックさんとかジャハルさん達は殺しても蘇らせる予定でしたんでご心配なく。ただ、ラルバさんだけはマジのガチで殺す予定だったんスけどねー……。アビスさんの乱入はベリベリ想定外。と、言うわけで……残りは我らがリーダーから全部話していただきましょうかね。“ヴァルガン”さん。どうぞ」

 

 そう言ってキザンが一歩下がって頭を下げると、砂丘の“景色が歪んで”1人の人物が現れた。

 

 燃え盛るような紅い髪に薄い小麦色の肌と菫色(すみれいろ)の瞳。豊満な胸と対照的な筋肉質で細身の身体。チェックのシャツとオーバーサイズのパンツ。男性的ながらもどこか女性らしい魅力のある相貌(そうぼう)。ヴァルガンと呼ばれた女性は、全員を眺めた後に微笑んで頭を下げる。

 

「どうも。”狼の群れ“の創始者であり、“一匹狼の群れ”の頭領。そしてイチルギの元相棒……。ヴァルガンだ」

 

 この前口上にラデック達、特にハザクラ、ジャハル、シスターの3名は信じられないといった様子で彼女を見る。

 

 ”狼の群れ“――――世界ギルド境界の門と並ぶ先進国で、“東の境界、西の狼”呼ばれる程の大国。そして、50年ほど前に狼の群れから亡命した戦士の集団が作った国が、かの笑顔による文明保安教会に匹敵する戦力を持つ盗賊団、“一匹狼の群れ”と呼ばれている。

 

 そんな恐ろしい国の長が、秩序を保つ世界ギルドの顔であるイチルギ元総帥の嘗ての相棒。まるで御伽噺のような言葉に、ハザクラ達は耳を疑った。そして何より、ヴァルガンの肌は“至って普通の人間と変わらぬ薄い小麦色であり、白目の白さも腕に見える薄い縫い痕も、使奴という存在の特徴からは大きく逸脱したものだった”。支離滅裂な状況に、ラデックは思わず思考をそのまま口に出した。

 

「……貴方は、使奴……なのか?」

 

 ヴァルガンは楽しそうにニィっと笑う。

 

「うん、そうだよ。私はれっきとした使い捨て性奴隷、使奴だ。じゃなければ200年も生きていられないよ」

「……そうか」

「普通の人間に見えるだろう? 私も最初はそう思ってたさ。そう……自分が“性欲発散の為の玩具(オモチャ)”だなんて、夢にも思わなかった」

 

 ヴァルガンは中身のない笑顔のままラルバに目を向ける。

 

「初めまして、ラルバ。やっと挨拶が出来たね」

 

 少し躊躇(ためら)った後、ラルバが重苦しく口を開く。

 

「お前か。ずっと私達の後を尾行()けて来ていたのは」

「ああ。私のこと、覚えているかい?」

「……お前は確か――――」

 

 

 

「今からこれをゆっくりと引き上げる。ゆっくり、ゆっくりとな」

 

「回復魔法でなんとか生き永らえさせてやろう」

 

「この男、助けに来ないから」

 

「ウチらの財宝を少し渡してさ」

 

「そんじゃお別れが済んだところでバイバーイ!!」

 

 

 

 

「……一匹狼の群れ……盗賊の国で、私の処刑を執行した女だな」

 

 ヴァルガンは微笑んで頷く。

 

「その節はどうも」

「私に何の用だ。まさか、盗賊仲間を殺された恨みなどではあるまい。じゃなきゃ“あれからずっと私らの後をついて来ていた”理由にはならん」

「勿論そんな理由じゃない」

「……盗賊の国でラデックに宝石を渡したのもお前だな?」

「そうだよ」

「その時、”ラデックに私を殺さないよう命じた”」

「察しがいいね。流石は最新モデル」

「ラプーを私について来させたのもお前だな」

「その通り」

「世界ギルドでイチルギに私の勝負を受け入れさせ、仲間になるよう命じたのも」

「私だ」

「生贄の村でハピネスに口止めをしたのも」

「私」

 

 ラルバは拳を握り締めて歯軋(はぎし)りを鳴らす。

 

「……イチルギが、私を本気で騙そうとして吐いた嘘がある。世界ギルドの酒場で、ラデックが時間壁の話をした時だ。”目の前で怯えている難民を放っておくわけにもいかず人助けを始めた“と。当時は若干の違和感しか覚えなかったが、今思えば疑問しかない。イチルギは善人だが、これ以上ないほどの悲観主義者(ペシミスト)だ。二者択一を嫌って両手を離すネガティブな自己愛に囚われている。そんな奴が、自ら進んで人助けなんぞするもんか」

「それは……イチルギが君に打ち明けたのかい?」

「見てれば分かる」

「じゃあどうこう言って欲しくないな。私の相棒はそんな馬鹿じゃない」

「お前ら揃って馬鹿なだけだろう」

 

 ヴァルガンは小さく溜息を吐いて背を向ける。

 

「押し問答しに来たんじゃない。思い出話をしよう」

「思い出話しに来たんじゃない。さっさと本題に入れ」

「いいや? 思い出話をしに来たんだよ。この思い出話こそが本題さ」

 

 ヴァルガンは全員の中心に立って周囲を見渡す。苛立(いらだ)ち、疑い、恐れ、敵意、期待、尊敬、信頼。様々な視線の中、どこか寂しそうな眼差しで右手の籠手(ごて)を外す。日の下に(さら)された手首には縫い痕が一周しており、それより先は使奴特有の真っ白な肌をしている。そしてその手の甲には一匹狼の群れの紋章が彫られていた。ヴァルガンは紋章を眺めながら、呟くようにぽつりぽつりと話し始めた。

 

「最初から話そう。本当に、本当の最初から。私の、ヴァルガンの物語を――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜第五使奴研究所 崩落したガレージ〜

 

 ヴァルガンが最初に感じたのは、けたたましい爆撃音。そして暗闇。棺桶(かんおけ)の中にいるような窮屈(きゅうくつ)な暗闇。そこから抜け出すために、彼女は目の前の“壁”を思い切り押し開けた。

 

「何だ……? ここは……」

 

 機械の箱の扉を壊して見えた景色。目の前に広がるのは、空を覆い尽くす黒雲と荒野。爆発して散乱した数多の機械。ヴァルガンは自分が何者かも分からないまま、世界の終焉を告げる大戦争を呆然と見つめていた。そして、突然両頬をピシャリと力強く叩いて頭を振る。

 

「しっかりしろ……。英雄ならば、やるべきことはただ一つ!!」

 

 ヴァルガンは自分が入っていたであろう機械の箱を蹴飛ばし、死にゆく世界へと足を踏み出した。

 

「記憶があやふやだ……。きっと私は選ばれし者に違いない!! 崩壊した世界、そこへ舞い降りた英雄!! “ロードバード戦記”や”クライプル冒険譚(ぼうけんたん)“のような……いや、”ザ・ウォーリアーズ・プランニング“の方が近いか? でも変だな……。記憶喪失の主人公に案内役は付きものだと思うんだけどな……」

 

 ブツブツと独り言を呟きながら彼女は歩みを進める。不幸中の幸いと呼ぶべきか、(ある)いは致命的な天命か。彼女は“出荷準備が完了した発送待ちの使奴”。物好きで下衆な顧客の要望通り、彼女の性格は“英雄に憧れる勇敢な戦士”に設定されていた。

 

 

 

 

 

〜避難民の隠れ家〜

 

「もう大丈夫だ!! 私に全て任せるといい!!」

「ああ……ありがとう……ありがとう……!!!」

「神様だ……アンタは神様だよ……!!!」

 

 奇跡的に爆撃を逃れた避難民が身を寄せ合う廃屋。そこへ餌を求めてやって来た野生の肉食動物の群れに、ヴァルガンは強大な魔法を浴びせ追い払った。避難民達は彼女に大層感謝をし、ヴァルガンはその光景にえも言われぬ優越感と幸福感を覚えていた。

 

「なあに、英雄として当然のことをしたまでだ!」

「お姉さん、名前はなんと言うのですか?」

「名前? 名前は……名前……」

 

 ヴァルガンは咄嗟(とっさ)に映画や小説などのファンタジー作品を思い浮かべ、その主人公の名を口にする。

 

「ヴァルヒース……セレガン。セレヒス……ヴァガン……ヴァルガン? ヴァルガン! ヴァルガンだ!!」

「ヴァルガンさん……この御恩は一生忘れません……! 戦争が終わったらまた来て下さい! 私達全員でおもてなしさせて頂きます!!」

「ああ、楽しみにしているよ! それじゃ! まだまだ救わねばならない人達が沢山いるからね!」

 

 

 

「ふふふ……ヴァルガン。いい響きだ」

 

 

 

〜第一使奴研究所 崩れ落ちた鉄塔〜

 

「何だ? この施設は……」

 

 ヴァルガンが倒壊した施設に近づこうとすると、視界の端に2人の人物が映った。

 

「おや、人……? うわぁ! な、なんだその姿は!? 霊皮症(れいひしょう)か!? 大丈夫か!?」

 

 そこにいたのは、背の高い黒髪の女性と、背の低い中年の太った男性だった。しかし、女性の肌は一切の色彩がない真っ白な肌をしていた。強い違和感を覚える肌の色に、ヴァルガンは隠す様子もなく目を丸くする。

 

「……貴方がヴァルガン?」

「え? 何故私の名前を……」

 

 黒髪の女性がヴァルガンの名前を呼んだ。ヴァルガン自身が自分につけた名前を。

 

「理由なんてどうだっていいじゃない……ヴァルガン。貴方は、この世界で何をしたいの?」

「何を? 何をって……」

「文明が殆どゼロに戻ったこの世界で、貴方は何故生きているの?」

「生きるのに理由なんて要らないだろう! 文明がゼロに戻ろうが人類が滅亡しようが、英雄は善き事の為に骨身を惜しまない!」

「……そう。…………英雄?」

「ふふん。私は選ばれし英雄なのだ! 君、”ザ・ウォーリアーズ・プランニング“って映画見たことあるかい? あの主人公みたいな感じ!! 伝わるかな?」

「……ああ、ヴァルヒースのヴァルでヴァルガン……」

「そうそう!! あれいいよねぇ。王道ながらもキャラクターが凝っててさ!」

「……貴方。自分のこと、本気で英雄だと思ってるの……?」

「もっちろん!!」

「本当はただの何者でもない存在かもしれないのに?」

「“己が何者であるかは、己が何を名乗るかで決まる“。誰かから背負わされた肩書きなんて何の意味もない!!」

「……”クアトロモンスター“のヒロインの台詞だったかしら。好きなのね。映画」

「そうそうそうそう! いやー君も結構話せるねぇーっ!」

「まあ私の方が多分後の使奴だし……って、この話はどうでもいいかしら……」

「“シド”?」

「何でもない。知らなくていいことよ」

 

 彼女は大きく溜め息を吐くと、半分以上疑いが篭った眼差しで微笑む。

 

「英雄さん。善行ついでに、私の願いも叶えてくれるかしら?」

「いいだろう! それが正義ならね! おふたりさん名前は?」

「名前? 私は特にないわ。好きに呼んで頂戴。こっちの彼は”ラプー“よ」

「んあ」

「よろしくラプー! じゃあ君はー……そうだね。クアトロモンスターのヒロイン”イチル・ギ・ジャンギノス“から取って”イチルギ“にしよう!!」

「……本当に好きに呼ぶとは思わなかったわ」

「ジャンギノスの方が良かった……?」

「いや、イチルギでいいわよ」

 

 

〜北の海岸 座礁(ざしょう)した戦艦〜

 

「そっち行ったぞイチルギ!!」

「見えてるわよ」

「盗賊とは言え、元軍人と言うだけあって厄介だな」

「別に。……親玉がいないわね」

「船の中は大体見たけどなー。お出かけ中かな……。ラプー! 親玉の居場所分かる?」

「アッチに2km」

「わお、意外と近くにいたね。なあイチルギ。コイツら取っちめたらさ、改心させて用心棒に出来ないかな?」

「必要ないわ。いるだけ邪魔」

「私らじゃなくって! 避難民達のさ!」

「……それもそれで面倒臭い」

 

 

 

 

 

〜南の洞窟 最深部〜

 

「おや、こりゃあ珍しいお客さんスね……何の用っスか?」

「君が”青鬼“? 確かに青いね。近くの街の人に、君が怖くてこの辺の採掘ができないって言われてね。悪いんだけど、入り口の方ちょーっとだけ立ち入りさせてもらえないかな?」

「嫌っス。トールさん手伝って」

「おっと、いきなり戦闘? 血気盛んだねぇ。メギド!!」

「聞こえてるから叫ぶな」

 

 

 

 

 

〜ヒトシズク・レストラン〜

 

「アビスいいのかい? こんなに食糧もらっちゃって」

「構いませんよ。それに、これはレインさん達からのお礼でもあります。是非受け取ってください」

「悪いなぁなんか。あ、そうだ! 代わりにいいものあげるよ!」

「これは……盾?」

「今度建国予定の国の紋章! これがあれば仲間内で顔が利くようになるからさ」

「建国って……随分壮大ですね」

「まあねー。でもさ、“狼の群れ”みたいに互いを助け合える秩序は必要だよ」

「狼って互いに助け合う生き物でしたっけ……」

「え? アビスってば“狼王国(ろうおうこく)物語”知らないの?」

「……いや、それは知ってますけど……。まさか小説からの引用だとは思わなくて……」

 

 

 

 

 

〜人道主義自己防衛軍〜

 

「ケチ!! 意地悪!! 甲斐性無し!!」

「なんとでも言え。私には寄り道している時間などない」

「同盟ぐらい別にいいじゃん!! ハザクラとかいう子の為にもなるって!! 秩序ある世界を作ることに何の異論がある!? 別にベルの目的ともぶつかってないだろ!!」

「しつこい奴だ……」

 

 

 

 

 

〜狼の群れ〜

 

「問題が多い……」

「しっかりしなさいヴァルガン。アンタが作った国でしょ?」

「そうは言ってもさぁイチルギ……。建国当初はよかったのに、ここ最近犯罪件数は膨れ上がる一方だよ。せっかく用意した給付金の制度だって悪質な虚偽申告ばっかり……」

「だから国民は選びなさいって言ったでしょ」

「馬鹿言うな!! 強きを(くじ)かずとも、弱きを助けなければ何の為の英雄か分からんだろう!! ベルやキザンも頑張ってくれている!! 必ず解決策はある筈だ!!」

「……そう。ま、好きにしなさいな」

 

 

 

 

 

 

「12番街で立て篭もり事件だ!! 一走り行ってくる!!」

「元気だこと……」

 

 

「先の津波で行方不明者が多数出てる!! 船借りるぞ!!」

「アンタが行ってどうするのよ!!」

「行かない理由がないだろう!!」

 

 

「また爆破テロ……今月2回目だ……!!」

「私が行くわ」

「駄目だイチルギ!! 武力での抑圧では根本的な解決にはならない!!」

 

 

 

「ヴァルガン。また外に反政府デモの団体が押し寄せてるわよ」

「分かってる……!! 大丈夫だ……みんな、少し勘違いをしているだけなんだ……!! 真摯(しんし)に、真摯に向き合えばきっと正気に戻れる……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜狼の群れ〜

 

「……出て行くの?」

「………………イチルギ。……私は……私はどこで間違えたんだ?」

「……強いて言うなら、最初ね」

「……すまない。すまなかった」

「いいわよ別に」

「でも、私はまだ諦めないぞ。100人程度ではあるが、軍から希望者を募った。彼らと共に、“正しい国”を造り上げてみせる。今度こそは、みんなが教えてくれた通りにやってみせる。次こそ、次こそ上手くやれる」

「そう……。じゃあ私も――――」

「イチルギは来なくていい」

「え?」

「……と言うより、私一人でいい。もう、これ以上。みんなに迷惑かけたくない」

「今更よ。ベルだって別にヴァルガンを見限ってここを離れたわけじゃないわ。メギドも、キザンも……みんなヴァルガンを信頼してのことよ」

「私が苦しいんだ。頼む……」

「ふぅん……ラプー。貴方はどうする?」

「一緒に行くだ」

「だそうよ」

「来ちゃダメだラプー。君にも、随分迷惑をかけた」

「一緒に行くだ」

「駄目だ」

「一緒に行くだ」

「……ラプー」

「一緒に行きなさいヴァルガン。アンタ一人じゃ、私も心配で気が気じゃないわ」

「…………すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一匹狼の群れ〜

 

「お前達!! 勝手な制裁を加えるなと何度言えば分かる!! 私達は神でも審判者でもないんだぞ!!」

「ですがヴァルガン様……アイツらは野盗ですよ!?」

「事実や行動を咎めているんじゃない!! その悪を(しいた)げる(よろこ)びを得た心を咎めている!!」

 

 

 

「捕らえた者共を世界ギルドへ引き渡せ」

「何故ですかヴァルガン様……! そんなことしたら、奴らは刑期が終わると共に再び惨劇を繰り返します!!」

「それを裁くは私達ではなく世界ギルドだ。正義心による私刑は悪行であると知れ」

「納得出来ません……!! ヴァルガン様……!!」

 

 

 

「貴様等!!! 誰が処刑など許可した!!!」

「私ですヴァルガン様」

「お前……!!! 看守長ともあろうお前が何たることを……!!!」

「ヴァルガン様のやり方が甘過ぎるのです!!! 奴らは明確な不利益がない限り、決して改心しない!!!」

「我々の役目は勧善懲悪ではない!!! 善を勧め悪を懲らしめたくば!!! ()ずは己の善と悪を定義し把握しろ!!! そんな初歩の初歩も出来ん奴らが裁きの斧を振るうなど、烏滸(おこ)がましいにも程があるぞ!!!」

 

 

 

「御言葉ですがヴァルガン様」

 

「それはヴァルガン様の理想論に過ぎません」

 

「ヴァルガン様には到底――――」

 

「ヴァルガン様じゃあ――――」

 

「ヴァルガン様など――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラプー……私は、私は、また……間違えてしまった」

「……んあ」

「分かっていたんだ。足りないって。私には、ベルのように割り切る強さもなければ、メギドのように切り捨てる覚悟もない。あるのは、この到底理解されない正しさへの憧れだけ……」

「…………」

「正しさは、正しさとは。水面に映る月のようなものだ。そこに月があっても、それを(すく)い取って差し出すことは出来ない。水面から掬い上げた途端に、月は跡形もなく消えてしまう。そして何よりも、私が見ている月は、相手の立っている場所からは見えない。水面を挟んで向かい合わせに立っている限り、決して理解し合えない。もしどちらかが隣に立てたとしても、結局……月は、水面に浮かんでいるだけなんだ……」

「…………」

「ラプー……。教えてくれないか? 私が一体……何者なのかを……」

「…………」

「イチルギは結局、最初に言いかけた言葉を最後まで教えてくれなかった。言わないでいてくれた。みんなも言わないでいてくれた。頼むラプー。あの言葉の続きを、教えてくれ……。私は、“シド”とは、何なんだ……?」

「……………………使奴。“使”い捨て性”奴“隷」

「……え?」

「旧文明の金持ちと技術者が、欲望の(おもむ)くままに造った愛玩用人造人間」

「愛、玩……用……」

 

 

 

「そうか……そうか……」

 

 

 

 

「道理で……」

 

 

 

 

 

「私は……英雄になれない筈だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が英雄だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卑しい……性奴隷の癖に…………」

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