シドの国   作:×90

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108話 無能ごっこ

〜バルコス艦隊 中央陸軍演習場〜

 

「本日!! 人道主義自己防衛軍より4名が我が軍に編入してきた!! ハザクラ総指揮官前へ!!」

「はい」

 

 早朝6時。バルコス陸軍人の号令で、ハザクラはラデック達をその場に置いて前へと足を踏み出す。数千人の軍人に囲まれる中、慣れない半長靴越しに踏み固められたグラウンドの硬さが伝わってくる。それらはまるで無機質で、自分以外の全ては存在していないのではないかと思ってしまうほどの孤独感を呼び起こした。歓迎、拒絶、好奇、嫌悪。そのどれにも当てはまらない軍人達からの視線。ハザクラは静かに息を吸い込んで発声を開始する。

 

「人道主義自己防衛軍“ヒダネ”所属。総指揮官ハザクラ。并に同行者3名。本日より、バルコス艦た――――」

「声が小さい!!!」

 

 ハザクラの言葉を先程の軍人が遮る。

 

「お前は今日からバルコス艦隊中央陸軍所属だ!!! これは今からではない!!! 今日朝目覚めた時からだ!!! 人道主義自己防衛軍ではその蚊の鳴くような声で許してもらえたかもしれんが、ウチではそうはいかん!!! もう一度最初からだ!!!」

「……はい」

「“はい”じゃぁない!!! 返事は“了解”だ!!! そして何度も言わせるな!!! 声が小さい!!!」

「……は――――」

「遅い!!! 何を一丁前に考えている!!! 命令には即返事だ!!!」

「あなたは何か勘違――――」

「返事は“了解”だ!!!」

 

 軍人は持っていた短い棍棒でハザクラの側頭部を強打した。

 

「ハザクラ――――!」

 

 思わずラデックが駆け寄ろうと前のめりになるが、それを隣にいたシスターが制止する。ハザクラもラデックに「黙っていろ」と言わんばかりに視線を投げると、再び軍人へと視線を戻して血を拭う。

 

「誰が拭っていいと言った!!! お前らの一挙手一投足さえ上官の意思と思え!!!」

 

 再びの強打。同じ所を殴られたハザクラの側頭部から勢い良く血が噴き出し、ハザクラはその場に倒れ込む。しかし、軍人は倒れたハザクラの顔面へ、分厚い鉄板の入ったブーツで蹴りを入れる。

 

「誰が寝ていいと言った!!! 立てハザクラ!!! 立て!!!」

 

 軍人が怒号と共にハザクラの顔や腹を何度も蹴飛ばし踏みつける。ハザクラはそれらをモロに喰らった後に震えながら立ち上がり、手足を痙攣させながらなんとか軍人の方へと向き直る。頭から滝のように流れ出た血が全身を濡らし、足元へ血溜まりを作る。軍人はそれを不満そうに睨むと、小さく鼻を鳴らしてラデック達の方を向いた。

 

「おい、お前らの上司が無能なせいで、我が軍の神聖な演習場が汚れた。昼までに完璧に元通りにしておけ。もし汚れた砂の一粒でもあれば、それは今夜のお前らの晩飯になるからな」

 

 

 

 

 

 軍人達が宿舎へと戻った後、ハザクラは医務室に行くことも許されず、ラデック達と共に演習場を整備していた。

 

「軍隊は厳しいと聞いていたが、ああも理不尽だとは。甘く見ていた」

 

 ラデックがぼやきながら血溜まりに手をつけて異能を発動する。砂に染み込んでいた血は一本の糸のように纏まって固まり、ラデックの指に絡め取られていく。そのすぐ隣で、ハザクラがシスターとゾウラに手当を受けながら口を開いた。

 

「バルコス艦隊のような志願兵のみで構成される軍隊にはよくある話だ。軍隊とは、国を様々な不条理から守る役目。地位の高い軍人ほど、世界の不条理を理解している。故に、自分より下の者に不条理を教えねばならない。それがどんなに辛く苦しい加害だったとしても、辞める者が続出したとしてもだ」

 

 ゾウラがハザクラの服の血を染み抜きしながら首を傾げる。

 

「辞める? 折角志願してくれた人を辞めさせちゃうんですか?」

「それでいいんだ。心を鬼にして不条理を教える理由は主に3つ。1つは、世界の不条理に耐えられず死んでしまうであろう人間を、訓練時期に発見し追い出す……もとい、逃すためだからな」

「逃す?」

「軍人に向かない人間を、守る側から守られる側へと送り返す。その為に多少非人道的な振る舞いは避けられない。さもなくば、その兵は世界の不条理に圧し潰されて犬死することは目に見えているからな」

「へぇ〜。相手の為を想っての鞭なんですね!」

「ああ。そして2つ目は、世界の不条理と戦う心を鍛える為だ。成果を台無しにする偶然、悪意ある者による侵略、目的のない加害、責任転嫁、葛藤、レッテル、差別。それら不条理を敵味方から受け続け、尚も己を見失わない強さを得る為。これは生半可な努力では到底身に付かない」

「不条理を敵味方から受け続ける? 敵はともかく、どうして味方が不条理を強いるんですか?」

「例えばゾウラ。目の前に溺れる寸前の子供が2人いたとする。その内片方しか助けられない場合、どうする?」

「片方だけでも助けます!」

「そう。それが最善の行動だ。しかし、助けられなかった方の遺族は君を心の底から憎むだろう。これが味方からの不条理だ。守られる側からの無理難題。軍隊でも警察でも自警団でも、この不条理からは逃れられない」

「大変なんですね。兵士の方々は」

「そして3つ目は、不条理を忘れない為だ。世界は不条理であるという事実。これは秩序ある豊かな文明の中では出くわす機会が少なく、どれだけ理解していても存在が希薄になりがちだ。だが、不条理というのはそういう時こそ無慈悲に襲いかかる。大切なものは失って初めて気付く、とよく言うだろう? 戦い、守る者に安寧はない。そのことを忘れぬ為に、人を傷つけ痛みを与え、また痛みを与えることに痛みを覚える。どれも人を守る為に必要なことだ」

 

 ハザクラの言葉を横で聞いていたラデックが、暫し顔を伏せて考える。そして、呟くように声を漏らした。

 

「軍人のハザクラがそう言うならそうなんだろうが…… それにしても、俺はバルコス艦隊のやり方には反対だ。あの暴行は、血涙混じる愛の鞭には見えない。俺には、怠け者の憂さ晴らしにしか見えない。だって、あんなのどう考えても……」

 

 

 ラデックが言葉を探して俯いていると、シスターがハザクラの治療を終えるのと同時にハザクラに尋ねる。

 

「それで、どうやってバルコス艦隊軍からの信頼を得るんですか? もう既に印象はマイナスからのスタートですが……」

「俺が人道主義自己防衛軍でやったことと同じことをする」

「同じこと?」

「ラデック」

 

 ハザクラに名前を呼ばれ、ラデックが顔を上げる。

 

「何だ?」

「ラデックは、俺と出会う前に俺のことを知っていたか?」

「え、ああ、まあ。名前だけだが」

「どこで知った?」

「えーと……確か、イチルギの持っていた新聞だったか。たった3年で幹部になった超大物ルーキーだと。それがどうかしたのか?」

「集団から信頼を得る大前提。それは実力や人間性じゃない。知名度だ」

「……いや、それはそうだろうけども」

「手っ取り早く知名度を上げる方法。それは”話題性“。その為に俺がやったのが、無能を演じてからの快進撃。分かりやすく言うならが”ジャイアントキリング“だ」

「あ、そう言えばイチルギから聞いた気がする。人道主義自己防衛軍の幹部を次々に薙ぎ倒して異例の大出世を遂げたと」

「弱者が強者を倒すのは、どの時代でも良質なエンターテイメントになる。だからみんなには、この一ヶ月間”頑張り屋の無能“を演じてもらう」

 

 ハザクラはラデック達に背を向けて歩き出し、宿舎の方を睨みつける。

 

「当然、耐えられないと思ったら逃げてくれて構わない。それは俺が情けない人間と見下される材料にもなるからな。一ヶ月後のどんでん返しの時に戻ってきてくれればそれでいい。その時までに、俺達で“打ち砕くべき強者”を選定し、なんとかその人物との練習試合を組む。そこで大観衆が見守る中、その練習試合を“圧倒的実力者による無能の公開処刑”から“偽りの弱者による驕り高ぶった強者の蹂躙ショー”へと塗り替える。これで、俺たち4人の存在と実力をバルコス艦隊中に知らしめる」

 

 そこへ、先程ハザクラをさんざ殴りつけた軍人が近づいてきた。そして血の一滴も染みていない地面を睨んで舌打ちをすると、直ぐに踵を返して捨て台詞を吐く。

 

「終わったならサボってないでさっさと戻れ!! 午後からは第二倉庫で武器の手入れだ!! 1秒でも遅れたら全員飯抜きだからな!!」

 

 立ち去っていく軍人の背中を見つめながらハザクラが口を開く。

 

「……無理を言っているのは分かってる。出来る限りで構わない。協力してくれ」

「……分かりました」

「はい!」

 

 シスターが静かに頷き、ゾウラが元気よく返事をすると、ラデックが頬を掻きながら呻き声を漏らす。

 

「う〜ん……」

「どうした、ラデック」

「いや、さっきハザクラが言ってただろう? 彼等は人を救う為に態と高圧的な態度を取っている、と。俺がそう思えないと言うのもあるにはあるが、やはり人の信念を茶化すのは気が進まない」

 

 ラデックの尤もな意見に、ハザクラは噴き出すように小さく笑う。

 

「ハザクラ? 何か可笑しかったか?」

「いや、すまない。そうだな。ラデックの言うことは尤もだ。だが安心しろ」

 

 ハザクラは珍しく怪しげな笑みを浮かべて、遥か遠くにいる軍人を見やる。

 

「ラデックが、彼等の暴行が愛の鞭には見えない――――と言ったが、大正解だ。奴等に道徳的な思想を重んじる善良な心など無い。ラデックの言った通り、あの暴行はただの憂さ晴らしにしか過ぎない」

「……ああ、それなら少しはやる気が出る」

「それは良かった」

 

 この日から、ハザクラ達の卑劣極まりない“無能ごっこ”が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バルコス艦隊 中央陸軍第二倉庫〜

 

 バルコス艦隊陸軍潜入 1日目、午後。

 

「ああっすみません!」

「何やってる愚図が!!」

 

 ゾウラが足をもつれさせて抱えていた銃を盛大に床に落とした。直後に上官の1人が怒号を飛ばして近づいてくる。

 

「丁度いい。お前のような世間知らずの餓鬼にはいい訓練になる。今落とした銃、全て素手で分解して掃除し組み立てろ」

 

 バルコス艦隊の銃には等級がある。少尉以上が使用する最新型のA級、兵長以上が使用する量産型のB級、そしてその他大勢が使用するC級。C級の銃は部品が破損していたり、型式が古く部品が固着していたり、そもそも設計上分解ができなかったりと、普通に使用するだけでも暴発の危険性を孕んでいる劣悪な品である。

 

 ゾウラが運んでいた銃こそが正にこのC級銃である。倉庫に保管してあるというのに弾が装填されていたり、泥や土が付いたままで至る所が腐食している。こんなものを抱えて運んでいたというだけで恐ろしいことだが、それを素手で分解するとなると――――

 

「素手で? ビスやナットはどうするんですか?」

「当然、お前の手で回すんだ。同じことを二度も言わせるな」

「そんなことしたら手が血だらけになっちゃいますよ!」

「だから何だ」

 

 軍人はゾウラを睨み、早くしろと言わんばかりに口裏でしゃがんでいるゾウラの肩を蹴飛ばす。ゾウラは狼狽えながらも銃を手に取り、部品を外そうと力を込める。

 

「んん〜……!! は、外れません……!!」

「お前のやり方が悪いんだ」

 

 軍人は銃の隙間に指を差し込んでいるゾウラの手に自分の手を重ね、思い切り左右へと広げる。

 

「あ――――!!」

「ほら、外れたじゃないか」

 

 銃の部品は外れたが、無理な方向に力を加えたゾウラの指先は裂けて血を噴き出している。ゾウラが痛みに震え蹲ると、軍人は満足そうに立ち上がりゾウラを蹴飛ばした。

 

「今朝も言われただろうが、その汚い血も全部拭き取れよ!! ちゃんと後で確認に来るからな!!」

 

 軍人がへらへらと笑いながらゾウラに背を向けて去っていく。そこへ陰から見ていたシスターが駆け寄り、心配そうにゾウラへと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですかゾウラさん!!」

「はい! 大丈夫です!」

 

 ゾウラは笑顔で両手をひらひらと振った。ささくれひとつ立っていない無傷の手に、赤く濡れた千切れた指のようなものがくっついている。

 

「……それは?」

「肌色に塗った樹脂に、赤い絵の具を染み込ませた綿を詰め込んだ玩具です! よく見ると偽物と分かりますけど、結構びっくりしますでしょう?」

「え、あ、ああ。はい」

 

 ゾウラは楽しそうにニコニコと笑いながら、懐から用途不明の道具を大量に取り出した。

 

「今回の作戦。大掛かりな悪戯みたいでワクワクしますね! 私昨日こういう玩具沢山作ったんですよ! シスターさんも少し要りますか?」

「え、えっと。じゃあ、少しだけ……」

 

 

 

 

〜バルコス艦隊 中央陸軍屋内演習場〜

 

 バルコス艦隊陸軍潜入 3日目、夕暮れ。

 

「お前達にはほとほと愛想が尽きた。なにが世界一の軍事大国だ。軍隊の国、人道主義自己防衛軍も大した事ないのだな」

 

 教官が足を組み替えながら溜息を吐く。その教官が座っているのは、椅子ではなくプランクの姿勢で硬直するハザクラであった。

 

「ぐっ…………!!」

「遅刻42秒。制服の乱れ。オマケに装備も忘れている。これが戦場だったらお前はとっくに死んでいる。そして仲間も巻き添えになる。お前1人のせいで、幾つもの命が失われるんだ。それならばいっそ、今死ぬのが最も賢明な選択だと思うがな」

 

 無理往生の異能で肉体を強化しているハザクラにとっては、何時間プランクをしようが上に人が乗ろうがどうってことはなかった。しかし、教官の言葉はハザクラの心を抉るのに十分だった。

 

「……お、俺以外の……人間にも……お、同じ事を……言った……のか……!?」

「当然だ。軍人は仲良しこよしの御飯事ではない。愚図一人の為に優秀な人間の命が失われるなんて馬鹿げた事、決してあってはならない」

 

 教官は少しだけ腰を浮かせ、少し跳ねるようにしてハザクラに腰を下ろした。

 

「ぐあっ――――!!」

「口答えによって10分追加。無能なお前のせいで、私の貴重な時間が消費されていく……。無駄だとは思わないか? 無能なお前が健全に生きようとする限り、有能な我々の全てが消費されていく。時間、体力、思考、空間、食糧、衣服、道具、設備……どうせお前が幾ら頑張ったところで役に立つことなどないと言うのに……」

 

 ハザクラのは歯を食いしばりながら、堪えるフリをして堪えた。ハザクラの中に宿る凄烈な正義感は怒りとなって血管を駆け巡り、まるで筋肉が限界を告げるように全身を震わせた。

 

「おい、揺れるな。座り心地が悪いぞ」

 

 ハザクラは溢れんばかりの憤怒を、心の奥底に閉じ込め笑顔を作る。頭の片隅にあったバルコス艦隊軍への情が、少しずつ削られ無に呑まれていくのを全身で感じていた。

 

 

 

 

 

〜バルコス艦隊 中央陸軍宿舎屋上〜

 

 バルコス艦隊陸軍潜入10日目、深夜。

 

「…………シスター?」

 

 掃除用具を持ったハザクラが理不尽な清掃命令を受けて屋上の扉を開けると、そこには石段に腰掛けるシスターがいた。

 

「ああ、ハザクラさん。こんばんは」

「……こんばんは」

「お掃除ですか? 手伝いますよ」

 

 シスターは手に持っていた本を傍に置いて立ち上がる。すると、シスターの座っていたすぐそばにティーセットと茶菓子が置かれているのが分かった。ハザクラは首を傾げながらほんの少しだけ眉を顰め、シスターにモップを一本渡す。

 

「シスター。最近貴方を就寝時にしか見かけないが……もしかして、ずっとここでサボっていたのか?」

「え? ああ、はい。もしかして、私がいないせいで何か良くないことがありましたか?」

「あ、いや、そうじゃないんだ。ただ、軍人達からシスターの不在について問われることがなかったから、不思議に思っていただけだ」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。私は今日も“訓練で瀕死だった筈“ですから」

「……今、文章が少し変だったように思えるが」

 

 訝しげにハザクラが目を細めると、シスターは少しだけ不気味に笑顔を溢す。

 

「私の記憶操作の異能で扱える記憶には2種類あります。それは”感情“と”光景”。よく覚えていないけど楽しかった旅行や、そこまで怒っていなかったような気がする口喧嘩。何故かわからないけど大泣きしていた幼少期の断片的な記憶。思い出せない不倶戴天の相手の顔……。ハザクラさんにも似たような記憶はあるんじゃないですか?」

「ああ。確かにある」

「これらは本来、時間と共に満遍なく劣化していく記憶の特性によって起こります。それを私は意図的に引き起こせる……また、捏造することができます。先日、ラデックさんに協力していただいて“瀕死で苦しむ私を見下ろしている光景“の記憶を用意しました。あとはこれの感情部分だけを取り除いて、適当な軍人の方に挿入するだけ。彼等の中では、私は今日一日訓練で重傷を負い苦しんでいると思い放っておいてくれます」

「…………その方法、いつ思いついたんだ?」

「さあ、いつでしょう」

 

 シスターはある程度床を拭き終えると、扉にモップを立てかけて再び石段に腰掛ける。ふとハザクラが屋上から身を乗り出して見下ろすと、ラデックが軍人に蹴飛ばされながら兎飛びをしているのが目に入った。

 

「…………まあ、順調なら問題ない」

 

 ハザクラは掃除用具を抱えて屋上の扉に手をかける。そして、思い出したようにシスターの方へと顔を向けた。

 

「そうだ。最初に説明した“打ち砕くべき強者”の選定だが、決まった」

 

 シスターが茶菓子を咥えながら振り向くと、ハザクラは1人の女性が映った写真を取り出した。

 

「俺の教育係になっている“ミシュラ”教官。彼女をターゲットにする」

「ミシュラ教官……? 1番階級の高い元帥や大将でなくていいんですか?」

「彼女は元大将だ。そして、ファーゴ元帥の嘗ての同僚。今の大将達の元上司だ。顔が広く実力もある。俺が調べた限り、彼女以上に信用されている人物はいない」

「……そんな方を陥れるんですか。あんまり、いい気はしませんね」

「心配するな」

 

 ハザクラはどこか遠くを見るような目で呟く。

 

「奴は、裁かれるべき悪だ」

 

 屋上の扉が閉まり、足音が遠ざかっていく。シスターはティーカップに口をつけると、満天の星を見上げて目を細める。

 

「ハザクラさんに言ったんですけどね……」

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