〜三本腕連合軍 鳳島輸送 鳳島クロシオ工場 棚田5段目〜
「
紺色混じる水色のウェーブ髪。使奴と同じ白い肌と黒い目玉。額から伸びる2本の傷跡。派手な踊り子の衣装を身に纏った美女、“タリニャ”が、リイズに向け高らかに名乗りをあげる。
「うふふ」
リイズが小さく笑うと、巨大ロボットのスピーカーからリヨットランカの声が流れてくる。
「えぇ〜!?
「あはは。やっぱり?」
タリニャが照れ臭そうに頭を掻くと、巨大ロボットが手の甲を向けて振り、追い払うようなジェスチャーを取る。
「そうそう! 見なかったことにしてあげるから帰んなよ!」
「お、意外と寛容」
タリニャの足元で這い
「助太刀はありがてぇが……、役者なんかが……アイツらに勝てんのかよ……!?」
「う〜ん。ドラゴンスレイヤーって、笑顔の七人衆直属の戦闘集団だよねぇ……。
弱気な言葉とは裏腹に、タリニャは四つ足の獣のような構えを取り下半身を高く持ち上げる。
「でもねぇ……ウチの座長が、“イケる”って言ってるんだよね」
「雑魚はいいや! あたし知〜らない!! リイズちゃん後よろしく!!」
「……ランカさん待って!!」
タリニャが素早く地を駆け、その場を立ち去ろうとした巨大ロボットの脚目掛けて“回し蹴り”を放つ。
「んぎゃっ!?」
「ランカさん!!」
巨大ロボットの片脚が”弾け飛ぶように“破壊され、バランスを崩して大きく
「もうっ!! 怒るよ!?」
「
タリニャの掛け声で、四方の暗闇から他の座員による雷魔法の矢が放たれる。感電によって怯んだリヨットランカの頭上でタリニャが
「”始まりの
ロボットが焼き菓子のように砕け、不出来なプラモデルのように四肢がバラバラに崩れる。
「わ、おっと、うわっうわうわうわっ! ちょ、は、速いって!」
踊り子ならではの身体の柔らかさでなんとか猛攻を避け続けるタリニャ。しかし、相手は百戦錬磨の怪傑。その上、”仇討ちエンファ“という超弩級の狂人の部下。任務の失敗は仇討ちエンファによる叱責、
「ワタクシ達も負けられないんです。ごめんなさい」
「あ、謝ることはないさ。危なっ! あの仇討ちエンファが後ろに居たんじゃ、毎日気が気じゃないよね」
リイズの連撃を
「か、返せぇぇぇぇええ……!!!」
「あっ、ヤバっ!!」
いつのまにか自分達を取り囲んでいた亡者達が、
「ウチの花形に、気安く触るな!!」
暗闇から大勢の武芸者達、アサガオ劇団の面々が現れ、タリニャと亡者の間に割って入る。
「皆ナイスタイミング!!」
「素人はウチらに任せて下さい!! タリニャさんは
闇の中から次々に人影が飛び出し、工場従事者を包囲していく。
「ハナミズキ劇団!! 行くぞ!!
「アヤメ劇団、参る!!」
「キキョウ劇団、前へ」
「アマリリス劇団も続け!!」
幾ら半洗脳状態とは言え、相手は奴隷紛いの工場従事者。武術に関してはド素人。真吐き一座の劇団員達は舞と見紛う華麗な武術で立ち回り、拘束魔法を用いて無傷で捕らえていく。しかし――――
「死ね……!! 死ね……!! 死ね……!! 死ね……!!」
頭の中に響き渡る亡霊の
「ぐあっ……!!」
「こりゃ……きっつい……!!」
「は、花形は無事か……!?」
単独リイズの相手をしているタリニャも、脳を震わせる声に怯んで防戦を強いられている。その間にもリイズは容赦なくタリニャを追い詰め、ナガーバークの怨嗟が蝕んでいく。
「死ね……!! 死ね……!! 死ね……!! 死ね……!!」
「こ、この声止めねーと……!!」
「死ね……!! 死ね……!! 死ね……!! 死ね……!!」
「サ、”サルビア“と”アネモネ“はまだか……!?」
「死ね…………!!! 死ね…………!!! 死ね…………!!! 死ね…………!!!」
「頭が割れる……!!」
「死ね…………!!! 殺せ…………!!! ふざけやがって…………!!! ブチ殺してやる…………!!!」
その時、タリニャ達のいる棚田5段目より、ひとつ下。棚田4段目の工場の一角にある倉庫。
「殺す……!!! 殺す……!!! ブチ殺して……あ?」
中に隠れていたナガーバークは、扉の正面に立つ大太刀を構えた細身の女性に目を向ける。
「ごきげんよう、ドラゴンスレイヤー。ここからは拙者、“キジカミ・サジロオ”がお相手
「〜〜〜〜っ!!! 死ね……!! 死ね……!! 死ねっ!!!」
ナガーバークは両手に草刈り鎌を持ち、キジカミに向かって突進する。キジカミが返り討ちにしようと大太刀を構えるが、その刃が振られるよりも速くナガーバークが跳躍してキジカミの傍を擦り抜ける。
「むっ……逃し、た、か」
すれ違いざまに肩を斬られたキジカミが、傷口に付与された毒魔法を反魔法で中和し膝をつく。その隙にナガーバークは倉庫の外へ飛び出し逃走を図る。
しかし、倉庫を出た瞬間に足に激痛が走り地面を転がった。
「ぐぎっ!? あっ……!?」
焼けるように鋭く、潰れるように鈍い痛み。続けて地面が2回音を上げて石を吹き、今度は大腿部に激痛が走る。
「痛っ……!!!」
ナガーバークは漸く痛みの正体を理解し、”棚田6段目の電波塔”を見上げる。
「ちょっと監督〜! 何発外してんのさぁ〜!」
「オレらがこんだけ補助魔法やってんのにありえんくね? 代わっていい?」
「うるさいうるさいっ! 私だって頑張ってるんだよっ!」
塔の上には2人の男女。そして、その間でスナイパーライフルを構える小太りの男性。ナガーバークの視線に3人が気が付くと、男女が決めポーズで戯けて見せる。
「イェーイ! ドラゴンスレイヤーさん見てるぅ〜? 俺達は! 真吐き一座、アネモネ劇団所属! ”ミクリビリ“とぉ〜?」
「”チャノシフ”でぇ〜っす! 足元のおデブはウェンズ監督〜。ヨロシク〜!」
「ちょ、補助やめないでっ! 照準ずれちゃうから!」
ウェンズの放つ弾丸がナガーバークの髪を擦る。防御魔法で弾こうにも、隣で補助する者の魔法で並の魔法では軌道を逸らせない。そして、足止めをされたせいで背後にいたキジカミが治療を終えてしまった。
「アネモネの連中か。今回ばかりは助けられたな。さて、続きをしようか。ドラゴンスレイヤー」
「死ね……死ね……死ね……死ね……!! 死ねっ!!!」
ナガーバークが異能を強め、キジカミに向かって吼える。最早爆心地のような轟音となった
「おっと……。至近距離だと……これ程に、
しかし、常人であれば卒倒するような振動にも、キジカミは涼しい顔で感想を述べる。
「だが、もう”慣れた“」
真吐き一座、セルビア劇団所属。“キジカミ・サジロオ”。異能、“
「拙者の相手があのブリキでなくてよかった。さらばだ、ドラゴンスレイヤー」
絶叫を続けるナガーバークに、キジカミが大太刀を振るう。ナガーバークは
「あ……。エ…………エン……ファ……………………」
「……心頭滅却すれば火もまた涼し。……
「声が、止んだ?」
「サジロオ先輩、勝ったんだ!」
棚田の5段目。ナガーバークの
「サジロオ……上手くやったんだね。流石ぁ」
タリニャは
「優しいのね。タリニャさん」
「何が?」
「お仲間を攻撃されぬよう、ひとりでワタクシの相手をして、誘導までするなんて」
「分かっててついて来てくれるアンタも、中々優しいんじゃない? うおっ! そのギュルルンって回るの禁止!!」
「うふふ。ワタクシまで褒めてくれるの? 嬉しいわ。嬉しいけど、ごめんなさい。優しさじゃないの」
突如タリニャの背負っていた林から鳥が一斉に飛び立ち、巨大な蜘蛛が体躯を持ち上げた。そして、聞き覚えのあるスピーカー越しの声が工場に響き渡る。
「じゃっじゃじゃ〜っん!! 見て見てカッコいいでしょぉ〜!!!」
「蜘蛛さんですね。素敵ですよ。ランカさん」
2対の脚と1対の触腕を掲げる鉄屑の怪物、リヨットランカの操縦する第二のロボットが、工場のハロゲンランプに照らし出された。
「パイプスパイダー捌式!! 蜘蛛っぽく捕縛機もつけたよ〜っ!! そぉれっ!!」
ロボットの頭部から2本のワイヤーが射出され、タリニャの足に絡みつく。
「んも〜強いなら早く言ってよね!! あたしと最強勝負だ〜っ!!」
ロボットが触腕に装備した電動鋸を回転させ、それからワイヤーを高速で巻取りタリニャを手繰り寄せる。
だが、タリニャは不敵に笑って
「うっ!?」
タリニャの指が鋼鉄の手裏剣にめり込み、”見るからに不自然な“勢いで罅割れが手裏剣全体に広がっていく。
「――――――――っ!?」
「ごめんね、アタシのも優しさじゃないんだ」
タリニャが
「えっ、リイズちゃん!?」
「お友達、返すよ〜!!」
タリニャは
「うわあ馬鹿力ぁ〜!?」
捥ぎ取った触腕を蹴ってロボットに近づき、思い切り腕を振りかぶって頭部にめり込んだ
「正義っパンチ!!!」
ロボットはミサイルが命中したかのように潰れ、ひしゃげ、爆発するように崩壊する。そして罅割れた
「こ、これは……、は、破壊の、異能……!?」
内臓にも大きなダメージを負ったリイズが吐血し、瓦礫の凹みに血溜まりを作る。タリニャはドヤ顔で鼻を鳴らした後、少し気恥ずかしそうに頭を掻いて見せた。
「いやあ。そんな上等なモンじゃないよ」
そして、Vサインをリイズに突き出し勝ち誇る。
「私達、実力差はあっても異能の相性が悪かったね。私のは道具対象の劣化系。“
リイズは少し驚いた顔をした後、「素敵ね」と口を動かして意識を失った。