シドの国   作:×90

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177話 元めの凶い

 〜三本腕連合軍 東薊(ひがしあざみ)農園 百機夜構本部ビル会議室〜

 

「ヒナイバリが男とギャンブルで国庫枯らして、逃げられないよう工場長命じられて、一か八か狂った悪政で国ごと吹き飛ばそうとした。真実は、そんな薄寒い子供騙しじゃあない」

 

 ハピネスは僅かに眉間に皺を作りながら、部屋の隅で携帯ゲーム機で遊んでいるレシャロワークの方に目を向ける。

 

「レシャロワーク」

「…………はい? 呼びましたぁ?」

「こっちに来い」

「はいはい〜。セーブするんでちょっと待って下さいねぇ」

 

 レシャロワークがゲーム機を操作しながらハピネスに近づくと、ハピネスはレシャロワークのゲーム機を奪い取り、射出魔法で寝ているピンクリーク目掛けて射出した。

 

「あ?」

 

 半分微睡(まどろみ)状態だったピンクリークは、反射的に飛んできたゲーム機を跳ね返し、(もと)い粉砕した。

 

「あばぁ~~~~~~~~!?」

 

 レシャロワークの愛機“ストライクプレイヤー3、ケモノ牧場2記念モデル”は百機夜構一の腕力による殴打を受け、鮮やかなプラスチックの破片と共に宙を舞う。液晶と外装が外れ基盤が飛び出し、6年もの間彼女と苦楽を共にした相棒は、見るも無惨なスクラップとなって会議室の壁に叩き付けられた。

 

「あにゃにゃにゃにゃにゃにゃにするんだこの――――!!!」

「何だこれは」

 

 半狂乱になったレシャロワークを押し除け、ティスタウィンクがゲーム機の残骸に手を伸ばしてしゃがみ込む。その中から小さな部品を摘み上げると、ポケットからルーペを取り出してマジマジと見つめる。

 

「ストライクプレイヤー3の設計図は削れるほど読み込んだが、こんな部品は見たことがない。それに……これは“盗聴器”じゃあないか。おいレシャロワーク、これをお前に与えた人物は誰だ?」

 

 レシャロワークは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、なんとか思考を再開して答える。

 

「おっ、おっ、おっ、おっ……!! ごっ、ごれはっ、診堂ぐりにっぐでっ、6年前にわだじががっだやづでっ、おおっ……!!」

「どこで買った」

「み、診堂ぐりにっぐのっ、にっ、23番街にあるっ、“遊びキング”ってとこでっ……!!」

「ではそこのオーナーがこれを……? いや、そんな露骨に仕込む低脳がいるか……? レシャロワーク、その店の人間とは面識があったのか?」

「い、いやっ……と、当時はっ……ケ、ケモ牧2モデルはどこも売り切れでっ……、ジ、ジンダローさんが、23番街に新しくゲームショップが出来たらしいから、そこならあるかもって……」

「ジンダロー?」

 

 ティスタウィンクがピンクリークの方に視線を移すと、ピンクリークは極めて機嫌悪そうに睨み返す。

 

「……ウチの“ジンダローガード”が仕込んだんじゃねぇかって疑ってんなら見当違いだ」

「診堂クリニックの23番街は外国人が訪れるような場所ではない。6年前はまだ開発指定がかかったばかりで、畑とガソリンスタンドしかないような田舎町だ。なぜジンダローガードはそこに新しくゲームショップが開店したことを知っていた?」

「あいつは実家が診堂クリニックの16番街にあんだよ。23番街は抜け道でよく通る。別におかしかねーだろ。それよりも、そのゲーム機はお前のとこの製品だろ? 製造工程を疑えよ」

「その製造も、百機夜構からのアルバイトを多数使っている。いや待て、だとすると他の製品にも混入の可能性が……?」

 

 ティスタウィンクは真っ直ぐに会議室のモニターの方へと歩き出し、ハンドアックスを取り出し躊躇(ためら)いなく叩き割った。

 

「弁償しろよ」

「……いいや、金を払うのはどうやら貴方の方らしい」

 

 ティスタウィンクはモニターの残骸の中から、一つの部品を摘み上げる。

 

「レシャロワークのゲーム機にも混入していたのと同一の部品だ」

「何だと……!?」

 

 今度はピンクリークがモニター横のスピーカーを破壊し、残骸を漁り始める。その中からひとつの部品を拾い上げ、わなわなと身体を震えさせる。

 

「……ここにもか。ティスタウィンク、こりゃあどう言うことだ?」

「それはこっちのセリフだ。何故我が県の製品に異物が――――」

百機夜構(ウチ)の所為だっつーのか!? オレらに声かけたのはテメーだろうが!!」

「雇用扶助契約を申し出たのは貴方だ。ピンクリーク」

「文面書いたのはテメーだろ!? それに!! 製品の最終チェックはテメーもやってんだろうが!!」

「その時には発見されなかった。検品テスト用の製品のみ細工をしていなかったんだろう」

「検品だって抜き打ちでやってんだろ!!」

「ふ、2人ともちょっと落ち着いて!!」

 

 ピンクリークの捲し立てる怒号に、ティスタウィンクは冷静且つ敵意を剥き出しにしながら反論を返す。口撃の応酬を止めようとマルグレットが必死に2人を宥めるが、言い争いは収まるどころか益々勢いを増していく。それどころか、ピンクリークは無関係のタリニャに指を差して争いに巻き込んだ。

 

「第一!! なんで“真吐き一座”がここにいんだよ!! 報告受けてねーぞ!!」

「えぇ!? わ、私!? いやいやいや! ちゃんと座長がティスタウィンクさんに連絡してるってば!」

「タリニャの言う通りだ。私が許可した」

「じゃあなんで報告しねーんだ!!」

「彼女らは有名人だからな。極力情報は抑えたかった。それに、そのお陰で今回上手く助太刀として機能もしたわけだしな」

「そういうところが信用ならねーっつってんだ!! まさか、黙ってレシャロワーク呼んだのもテメーか!?」

「アイツは知らん」

「どうだかな! 実は、タリニャ使ってステインシギルも処分しようとか企んでたんじゃねーのか!?」

「私がステインシギルを? 馬鹿を言え。無害で優秀な彼女を何故私が処分など」

「ティスタウィンクさんは無実だよ!! それどころか、道中”ドラゴンスレイヤー“に襲われて大変だったんだから!!」

「はぁ!? ドラゴンスレイヤー!? なんでそんな化け物共が三本腕連合軍(ウチ)に――――」

 

 ピンクリークは不意に言葉を止め、視界の端にいた”彼女“に目を向ける。

 

「…………え?」

 

 そこでは、”マルグレット副長”が顔面蒼白のまま微笑みを凍らせていた。

 

「ド、ドラゴン、スレイヤー……?」

「マ、マルグレット……? お前、何か……知ってんの、か?」

 

 仲間の急変に、ピンクリークも恐る恐る声を震わせて尋ねる。すると、マルグレットは譫言(うわごと)のように呟いた。

 

「そ、そんな……嘘、“リイズ”ちゃん達が、そんなこと、する、わけ……」

「マルグレット……!! お前、まさか……!?」

「だ、だって、だって、だって……!!! あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 発狂し、顔を押さえてその場に崩れ落ちるマルグレット。彼女の絶叫する姿を見て

、ティスタウィンクが呆れ気味に歯軋りを鳴らす。

 

「……外患誘致、歴史の教科書に載るレベルの大罪だな。死刑は免れないぞ、マルグレット」

「違う!!! 違うの!!! そんなつもりじゃ……!!!」

「何が違うっつーんだマルグレット!! お前……!! なんであんなイかれた殺人集団なんかと……!!」

「違う違う違う違うっ!!! リイズちゃん達はそんなことしないっ!!! 殺人なんて頼んでないっ!!!」

「奴らが笑顔の七人衆直属の部隊だと言うことは百も承知だろう。貴方が利用されていたにしろ何にしろ、言い逃れもできん」

「そういやマルグレット……!! お前、毎年アザミホテルの大部屋に匿名で予約入れてるよな……!! まさか……!!」

「違う……!!! リ、リイズちゃん達は、どの国でも指名手配されてて、自由に街なんて歩けないから……!!! だって、命の恩人なんだよ……!!! 恩人なんだよぉ……!!!」

 

 傷口が開かぬよう沈黙を保っていたステインシギルも、いい加減黙っていられず口を開く。

 

「おいおいおいおい……!!! もう個人の問題じゃあないだろ……!!! 幾ら向こうから襲ってきたとは言え、こっちはやり返しちまったんだぞ……!? 奴らはマルグレットの手引きで密入国してる!!! 他国から見りゃあ、三本腕連合軍がドラゴンスレイヤーを拉致(らち)ってボコしたことになる……!!!」

「ふぅむ……。笑顔による文明保安教会派からも、世界ギルド派からも爪弾きにされることは間違いないな」

「爪弾きなんかで済むかよ!!! 笑顔の国には侵攻の大義名分を与えちまったし、世界ギルドからの支援は打ち切られる!!! 滅亡確定だ!!!」

「これもヒナイバリの作戦のうち……な訳はないな。奴はドラゴンスレイヤーの密入国を知らなかった」

「タリニャだって、俺らの共犯者になっちまった……!!!」

「えええ真吐き一座(ウチ)も!? こ、困るよそんなの!!」

「……ふぅむ。ヒナイバリの真似事では無いが、一か八かここでマルグレットを消すか?」

「今なんつったティスタウィンク!!! 殺すぞ!!!」

「お、落ち着けピンクリーク!!!」

「そんな……!!! 折角世界ギルドで平和に暮らせると思ったのに……!!!」

「リイズちゃん達が……そんなことするわけ……!!!」

「このクソ野郎ぶっ殺してやる!!!」

「仕方ない。2人とも消しておくか」

「やめろっつってんだろ!!! 武器下ろせお前ら!!!」

 

 魔力が瘴気のように(よど)み、濁り、疑念を煽り激情を焚き付けて行く。出所不明の小火(ボヤ)心火(しんか)の大渦となって燃え盛り、恐怖や焦燥も飲み込んで膨張して行く。

 

「ほらね」

 

 たった一言の囁くような声に、阿鼻叫喚の渦は水を打ったように静まり返る。

 

「世界が終わる音だ」

 

 ハピネスの不自然に落ち着いた態度に、ピンクリークが憤懣(ふんまん)必死に堪えて睨みつける。

 

「……テメーの仕業か……? ハピネス・レッセンベルク……!!! 全部、全部テメーが仕込んだのか……!?」

「うーん……私はやっていないが、無関係かと言われたら返答に困るな。説明の順番がこんがらがるから後でもいいかい?」

「今答えろ!!!」

「こんがらがるって言ってるだろう。それよりも、私が気になるのは“君”だよ」

 

 そう言って、ハピネスは狼狽(ろうばい)で動けなくなっていたシスターの前に立ちはだかる。

 

「さて、シスター君」

「……な、何ですか」

「君は、これをどう見る?」

「どう見る……って」

 

 ピンクリーク達は、シスターが何か知っているのではないかと期待し黙って見つめている。疑心暗鬼に憑りつかれた彼らからの眼差しはまるで銃口を突きつけられているようで、シスターは濁った期待の重圧に耐え切れず、ハピネスの問いかけから逃げるように目を逸らした。

 

「…………っ! わ、分かりませんよ、そんなこと……!! 何で私に聞くんですか……!!」

「君がこの中で一番鈍いからだよ」

「はい? 一体、何を言って……」

 

 ハピネスは話を中断して振り返り、ピンクリーク達に向かって言い放つ。

 

「お前らもだこの(うつ)け共!」

 

 珍しく声を荒らげたハピネス。それは、いつもの嘲りや蔑みなどではなく、叱責のような熱を持った声色であった。

 

「”ヤツ“の術中にハマった今から結果を見て察しろと言うのは無理があるが、そこに至るまでに幾らでもヒントはあった筈だ!!!」

 

 ハピネスは(おもむろ)に前へ歩き出し、最も手前にいたピンクリークの顎を杖の(きっさき)で突く。

 

「ピンクリーク、お前が百機夜構へ来ることになったのは何故だ? どうして自警団“空腹の墓守”から追い出された! “お前をクビにしたのは誰だ”!」

 

 次にハピネスは、タリニャに杖の先端を突きつける。

 

「座長が仕切ってくれれば全て安心とでも思っていたのか? 銃を突きつけられることだけが身の危険だと思っていたのか? 違うだろう! 滅びていった国々を! “爆弾牧場がどうやって侵略されたのかを思い出せ”!」

 

 続けて、杖の先はマルグレットに向けられる。

 

「ドラゴンスレイヤーが命の恩人? お友達ごっこは結構なことだが、そのお友達が“誰の信念で動いているか”ぐらい考えなかったのか?」

 

 ハピネスは杖を下ろし、持ち手でステインシギルの額を小突く。

 

「自分が死んで困るのは誰か、考えたことはあるか? お前がこの世界を精巧な妄想だと思っているなら構わないが、そうでないならもう少し利口に生きろ。“お前の葬式が第二の戦場になるぞ”」

 

 最後に、ティスタウィンクの前に立って目を細め睨む。

 

「勘の良さは大したものだが……勘とはお前の中で算出された最適解に過ぎない。この世が最適最善で動いていると思うなよ。物事の全てに理由は存在するが、“その理由にお前が納得できるかどうかは全く別の話だ”」

 

 そしてハピネスはレシャロワークを流し目で睨んだ後、シスターの方に振り返って早足で近づき、乱暴に胸倉を掴んで顔を寄せる。

 

「お前が、お前らが、“ヤツ”の術中にハマったのは今じゃ無い。昨日でも無い。もっと、もっと前だ……!」

「もっと……前……?」

 

 ハピネスの、シスターの胸倉を掴む手が小刻みに震え出す。

 

「レシャロワークも、お前も、ピンクリークも! マルグレットも!! ティスタウィンクも!!! “ヤツ”の名を聞いたにも(かかわ)らず!!! 存在を認知したにも(かかわ)らず!!! “ヤツ”から目を逸らした!!! なのに!!! 何故疑わない!!! 何故受け入れた!!! これが!!! “エンファやグドラ”でも同じように受け入れたのか!!!」

 

 ハピネスは徐々に語気を強め、そして大きく息を吸い怒声を張り上げる。

 

「キャンディ・ボックスの後ろ盾は!!! 笑顔の七人衆の元頭領は!!! この私の先代!!! “元先導の審神者”!!! ”シュガルバ“だろうが!!!」

 

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