シドの国   作:×90

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使奴の国
1話 義賊もしくは大悪党


 

【挿絵表示】

 

 

~第二使奴(シド)研究所~

 

 薄暗い実験施設に、悲鳴と高笑いが木霊(こだま)する。

 

「たっ、助けっ、助けテッ!」

「あーっはっはっは! 許さん!」

 

 足を怪我した研究員の男は、ソレから逃げるため四つん()いで出来る限り早く走った。

 

 身の丈2mはあろう大柄な女は、ボディラインを強調する黒スーツ姿でハイヒールをコツコツと(わざ)とらしく音を鳴らし、腰まで届く紫の髪を(なび)かせ男を追い詰める。一目で人外とわかる死人のような真っ白な肌に、悪魔の(ごと)く真っ赤な二本の角。黒く染まった白目は(ひたい)(おお)う黒い(あざ)のせいで、実際よりもより大きく見えた。

 

 大柄な女は逃げ回る男を滑稽(こっけい)嘲笑(あざわら)いながら追い詰め、腕を鷲掴(わしづか)みにして実験器具の大型カプセルへと投げつける。男はガラスを突き破って体をズタズタに引き()かれながら、研究所の壁に叩きつけられた。

 

「がはっ……許し、許してくれ……頼む……許し……」

「許さん!! 死んでも殺す!!」

 

 大柄な女は歯をギラリと輝かせながら笑顔で(にら)み、男の腹を踏み潰した。

 

「仲間の(うら)みだっ!! よし! 次! ラデック! 次だ!」

 

 ラデックと呼ばれた男が暗闇から現れ、大柄な女にタオルを差し出す。短い金髪と切れ長の青い目。普段から部屋に(こも)っていることが(うかが)える色白の肌。背はかなり高い方だが、大柄な女の隣にいるせいでひと回り小さく見て取れる。

 

 彼はこんな惨事(さんじ)を目の当たりにしながら、依然(いぜん)として眠そうな顔で口を開いた。

 

「ソイツと俺で最後だ、ラルバ」

 

 ラルバと呼ばれた大柄な女は不満げな顔でタオルをひったくり、返り血を(ぬぐ)う。

 

「こいつで? これで最後? ならばこの怒りはどこにぶつければ良いのだ! これでは死んでいった仲間が浮かばれん!」

「んー……、研究所は他にもあるし……。そこへ行くのは駄目か?」

「他? 外か。ここと似たような感じか?」

「まあ多分大体は」

「よし! 行こう! すぐに行こう!!」

 

 汚れたタオルを放り投げラルバは意気揚々(いきようよう)と部屋の出口へ歩き出す。

 その瞬間、赤色灯が真っ赤に光り輝き大音量の警告音が鳴り響いた。

 

「警告、警告、緊急事態につき隔離(かくり)プロトコル”浮島(うきしま)“を実行します。時間壁(じかんへき)構築(こうちく)に注意してください。繰り返します……」

「うるさい。なんだこれは」

「浮島……、良くないヤツだったと思う。止める」

 

 ラデックは近くの端末装置に早足で近づき操作を始める。しかし後ろから近づいてきたラルバが数百㎏はあろうその端末装置を軽々と()り飛ばした。

 

「壊す方が早い」

「……なるほど?」

 

 手当たり次第に機械を破壊して進むラルバを、口元に手を当て考え事をしながらラデックがついていく。

 

「ところでラルバ。さっき仲間の恨み――――とか言っていたが、仲間って誰のことだ?」

「うん? いや、特に意味はない。ただの景気付けだ」

 

 

~研究所(そば)の林道~

 

 

【挿絵表示】

 

 

 研究所を抜け出したラルバは林道の端で寝転がっていた。

 

「ぐぅ……、頭が痛い……。死ぬのか……?」

「時間壁を無理に止めたせいだろう」

 

 ラデックが木に登って木の実を()ぎ取りラルバに向かって投げると、ラルバは器用に口でキャッチした。

 

「もごもご……ラデック、その時間壁ってのは何なんだ」

「全く知らない」

 

 ラデックが木の実を(かじ)りながらラルバの脚をさする。

 

「触るな、汚い」

「怪我してるだろう。まあ放っておけば治るだろうが、今はやることもないしな」

 

 ラデックが脚を(さす)り続けると、細かい切り傷が跡形もなく消滅した。

 

「……何をした?」

「俺の異能(いのう)だ。生き物なら大体、無機物も少しなら改造できる」

「便利だな。私には搭載(とうさい)されてないのか?」

「ラルバは自分のがあるだろう。それに、異能はそう簡単に移せない」

「フン。無能エンジニアめ」

 

 ラルバは悪態をつくと盛大に欠伸(あくび)をした。

 

(ひま)だ。研究所まではあとどれくらいだ?」

「さあ、方角さえ見当がつかない」

「お前まさか何の手がかりもナシに言ったのか?」

「研究所がアレ以外にもあることは知ってる」

「研究所の外へ来たことは?」

「本での知識ならそこそこ」

 

 ラルバがラデックの胸倉を掴み激しく揺さぶる。

 

「貴様!! “役に立つ”って言うから命乞いを受け入れてやったと言うのにクソの役にも立たないではないか! 外に出たことすらないとは! 今すぐ切り刻んでやろうか!!」

「木の実取ってきたじゃないか」

「あんなモノ私でも取れるわ天然猿めが!!」

「研究所に着けば必ず役に立つ。それから判断して欲しい」

 

 ラルバがパッと手を離すと、ラデックは揺さぶられた勢いがついたまま地面に投げ飛ばされた。

 

「嘘だったらケツに死ぬほどムカデ突っ込んでやるからな」

「ムカデが可哀想だ」

 

 ラデックは土埃(つちぼこり)を払いながら立ち上がってラルバに向き直る。

 

「ラルバはなんでそんなに研究員を殺したいんだ? 勝手に作り出された腹いせか?」

「半分正解だ。作り出されたことによる腹いせではなく、なんとなくムカつくからだ」

 

 ラルバは木にもたれかかり、手でろくろを回すジェスチャーを取る。

 

「あの研究所にいたやつはみんな悪いやつだろう。私のような人造人間を好き勝手作って利用する、命の(とうと)さを知らない悪党だ。だから殺してもいい。殺してもいいなら出来る限り(もてあそ)んで殺したい」

「悪いやつは殺してもいいのか?」

勿論(もちろん)。悪だからな」

 

 ラルバは大きく伸びをする。

 

「悪い奴なら誰だっていい。研究員じゃなくとも指名手配犯とか悪徳貴族とか、人を困らせて楽しむ奴を盛大に出来るだけ派手に美しく(いじ)めたい」

 

 そんな話をしていると遠くから馬の鳴き声が聞こえてきた。ラルバはラデックの首根っこを掴み茂みへ飛び退()く。そのまま10分ほどじっとしていると、目の前を野蛮な風貌(ふうぼう)の女性達――――見るからに不当な行いで日銭を稼いでいるであろう者たちを乗せた馬車が、けたたましい笑い声と共に通り過ぎて行った。

 

「喜ぶといいぞラデック。お前の寿命が少なくとも2日は伸びた」

「嬉しい限りだ」

 

 

 

 

盗賊(とうぞく)住処(すみか)

 

「ここから出せーっ! 出せーっ!」

 

 冷たく薄暗い洞穴(ほらあな)にラルバに絶叫が木霊するが、天井から(したた)り落ちる水音以外に返事はない。

 

 森に囲まれた断崖絶壁。隠蔽(いんぺい)魔法によりただの岩肌になった巨大な亀裂(きれつ)の先には、盗みを主な職業とする者が過半数を占める集落が築かれていた。

 

 その奥深くの牢屋で簀巻(すま)きにされたラルバは、身を(よじ)りながら誰に届くかもわからない声を張り上げ続けていた。

 

「この縄を解けクソ野郎ぉーっ!!」

 

 

 

 

「全くうるさい女だ」

 

 集落の酒場では、(きら)びやかな宝石を身に(まと)った盗賊達が愚痴(ぐち)と酒を盛大に(こぼ)しながら、今回の「戦利品」について悪態を突き合っていた。

 

「あのデカ女。まだギャーギャー(わめ)いてるらしいぞ」

「宝物庫に忍び込んだ時点で殺せばよかったんだ」

「仕方ないだろう。公開処刑は一応規則だし、皆楽しみにしている」

「処刑日は明日かぁ、今日なら都合がよかったんだけどねぇ」

 

 豪華な料理を(むさぼ)り、人の生死を(さかな)に騒ぐ盗賊達を天井の(はり)から見下ろすラデックは昨日のことを思い出していた。

 

 

 

 

【盗賊の国】

 

 

 

「見ろラデック、盗賊の巣だ。胸が(おど)るな」

 

 盗賊の集落に侵入し、見つからないよう高台の屋根に登ったラルバとラデックは(きら)びやかな街を見下ろしている。

 

風貌(ふうぼう)からして皆盗人(ぬすっと)みたいだな。殺し放題だ」

「そうなのか?」

「違うのか?」

 

 予想外の返答にラデックは少し硬直して、再び街に視線を落とす。

 

奴隷(どれい)も大勢いるようだ。生産性のある労働は自分たちではしない主義なんだろう」

 

 店先には、見すぼらしい子供達が首輪で(つな)がれている。中には荷車を引く女や、四つん這いで主人に(くさり)を引かれる男も見えた。同じく集落を見下ろしていたラルバが楽しそうに口を開いた。

 

「ここは研究所とは違って随分(ずいぶん)自然的なんだな。魔法もそんなに高等な技術は使われていないし、機械も見当たらん」

「研究所が特殊なんだ。高度な魔法は長年研究しなきゃ(あつか)いにくいし、機械を普及させるには設備や配線が要る。そんなものを実用的にするより、簡易的(かんいてき)な魔法を普及させた方が楽なんだろう」

「女が多いな、研究所では男が多かったがどっちが普通なんだ? 」

「筋力で言えば男中心の文化になるはずだが……、黒い(あざ)が多いな……」

盗賊の女達の中には、黒い痣のような刺青(いれずみ)をした者が多く見られた。

「私と一緒だな」

 

 ラルバが自分の黒い痣を()でる。

 

「それは使奴(シド)の特徴……人造人間的に言えば不具合の一つだ。本来怪我した部分が跡形もなく治るのが理想なんだが、今のところ真っ黒な痣になってしまう」

「なるほど……あいつらも使奴(シド)か? 」

「いや……肌の色が違う。ラルバの真っ白な肌も、本来は彼女達の様な焦げ茶から赤みがかった白くらいまでが理想なのだが……そこまで着手されていなかった」

 

 ふと、ラルバが街の広場を指差す。

 

「見ろラデック。“公開処刑は2日後”だそうだ」

「見えない。誰の処刑だ?」

 

 ラデックは目を細めるが、ラルバが指差しているのは恐らく500mは先の掲示板に貼られた紙のどれかであり、(いく)ら目を凝らしたところで人間であるラデックには見える(はず)がなかった。

 

「ちょっとまて……えーと、“処刑予定、情報屋ラプー 計1人” 捕らえた捕虜(ほりょ)や罪人を一定周期で処刑するのがこの国の娯楽(ごらく)だそうだ」

「悪趣味だな」

「全くだ。情緒がない」

 

 ラデックが無言で見つめるとラルバはニヤっと笑って返す。恐らく自分がなぜ見つめられたか理解していないのだろう。

 

「イイ事を思いついたぞラデック」

 そう(つぶや)いたラルバの目はかつてないほど輝いていた。

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