大明陽消との戦闘直後、私はデクスを置いて外へ出た。コンカラの生み出した方の大ダコを探して接触すると、奴は私を見ただけで意図に気付いた。タコの案内で地下へと潜り、コンカラに会った。
「……以上が計画の全容です。決行は明日にでも……」
「そのことだが、コンカラ。君には謝らなければならない」
「え――――?」
「テロを中止してもらいたい」
「それは……どういう……」
「全て終わったのだ。もうじき、真に平和な世界がやってくる。誰も悲しまなくて済む世界が」
私は懸命に説得をした。だが、アプローチを間違えた。脅しを止めるべきではなかったんだ。彼女は、今も昔も変わらず人道主義自己防衛軍の少尉だったんだ。
「何故だコンカラ。確かにドロドへの復讐を
「違うのです、ハピネス・レッセンベルク」
「違う……?」
「外の、教団員の顔をご覧になられましたか?」
「……ああ」
「殺人、窃盗、強姦、搾取、反逆……。皆、どの国にも立ち入ることができない大犯罪者です。それも、罪を償う素振りも見せない、筋金入りの」
「狙って集めたのか」
「はい。貴方達の命令では、大勢の
「今なら全員助けられる」
「……一つだけ、お願いがあります」
「一つ?」
「私を、始まりの終焉教団教祖ホースドのまま死なせて欲しいのです。私は、罪を犯し過ぎた。本来であれば、馬鹿な復讐を企てた人道主義自己防衛軍の裏切り者として処すべきです。ですが……もしそのことが世間に知られたら……ドロドは……フィズリースは……!!!」
「負い目を感じてしまう……と?」
「はい……!! 私は、ドロドが助かって良かったと心の底から思っています!! 今も、昔も!! 娘だって、あの日のドロドを見捨ててまで助かりたいなどとは思っていなかったはずです……!! だって、私の自慢の娘なのですから……!!!」
彼女の正義に、私は勝てなかった。私のような悪党の言葉では、彼女を説得できなかった。
「ハザクラも、ジャハルも、きっと気付くぞ。ましてや既に使奴が数人警戒している。君の正体は必ず突き止められる。それを止める手立ては私にない」
「その時は、その時は……。どうか、気の触れた私の奇行さい。どうか、どうかこの話は、誰にも言わないで下さい。私が死んだ後も……」
「私が憎くないのか。コンカラ。生きていれば、私への復讐の手など幾らでもあるぞ」
「……あなたが
「君を嵌めたのは私だ」
「いいえ。私は、私に負けたのです。私の脆さを、グドラに見抜かれた……。毅然としているべきだったのです」
「それは違う、コンカラ。あの男はそんな深くコトを考えていない」
「もう、帰って下さい」
「コンカラ!!」
「ハザクラとジャハルを、どうかよろしくお願いします」
「私は今、コンカラとの約束を破っている。ドロド、君に後悔をさせてでも、伝えなければならないことだと思ったからだ」
話が終わっても、ドロドは暫くの間目を伏せて黙っていた。
「ドロド、私も共犯者なんだ。君の動向や、コンカラを監視していたのは私だ。私はこの一件を、君の心の
そう言われて、ドロドは漸く口を開く。
「……どうやってだよ」
ハピネスの首を鷲掴み、鬼の形相で吠える。
「どうやって解くっつーんだ!!! なにか!? オメーの首でもくれるっつーのか!?」
ハピネスはドロドの手を剥がすことなく、首を絞められたまま答える。
「ふ、復讐の機会を、作る」
「はっ、そんなら今叶えてやるよ……!! この手で!!!」
「わ、わた、し、も、確、信、には、いだっでいな……い……」
ドロドの手に力が入り、ハピネスが首筋から鮮血を滴らせる。
「グドラ、への、復讐を……」
ドロドの手が、瞳が、心が震え、やがてゆっくりと手を離す。
「……どうやって?」
「ゲホッ!! ゲホッ!! ……か、確証は、ない。ただ、私の考えが正しければ……その機会はやってくる。そこへ、君を招待しよう。
ドロドは極めて訝しげに睨み、黙って背を向ける。ハピネスは喉を摩り、静かに頭を下げてその場を立ち去る。
「おい、ハピネス!!」
慌てて後を追いかけてきたハザクラとジャハルが、足早に歩を進めるハピネスに並び問い詰める。
「あんなこと言って、どうするつもりだ!? グドラはもう死んでいるだろう!?」
「それとも……まだグドラが生きていると考えているのか?」
しかし、ハピネスは黙って首を左右に振る。
「ならばどうするつもりだ。まさか、ハッタリか?」
「……違う。真実だ」
珍しく神妙な面持ちで、歩みは止めずにどこか遠くを見つめる。
「私は今回の一件……いや、この事象全てに、どこか作為的な運命を感じている」
「……何だそれは」
「ただの勘だ。それに、私はあまり勘がいい方じゃない。半分以上願望に近い憶測と考えて貰って構わない」
「憶測以前に、何について話している? この事象っていうのは、どこからどこまでのことを言っている? 作為的な運命って何だ?」
「私が思うに……いや、やめておこう。ひとまずは、どこまで話していいかの確認がしたい」
そう告げると、ハピネスは今度こそ口を噤んでどこかへ歩き続けた。
〜狼王堂放送局 居住区西部 鈍色の街 あまちゅ屋の隠れ家〜
あまちゅ屋アジトに繋がる隠し通路を通り、入り口の戸にハピネスが手をかける。現在はもう隠れる必要がなくなったため、扉に鍵はかかっていない。
――――はずであるが、ハピネスが捻ったドアノブは石のように固まって動かない。
「ハピネス? 施錠されているのか?」
「……問題ない。先客がいるだけだ」
ハピネスは反魔法を唱え、容易く解錠する。そして部屋の奥へ進んでいくと、途中で1匹の小ダコが奥から駆け出してきた。小ダコは3人に気がつくと、怯えた様子でジャハルの足にしがみつく。
「ど、どうした? 何かを怖がっているようだが……」
ジャハルが小ダコを抱え上げると、ハピネスは振り向こうともせず呟く。
「不可抗力だ。できることなら、私でもそうした」
要領を得ないハピネスの発言に2人は顔を見合わせる。しかし、そんな瑣末な疑問はすぐにより大きな疑問に塗り潰されることになる。
アジトの最奥。資料室には、あまちゅ屋の構成員ケイリと――――
「ハピネス? どったの」
手を血で濡らしたラルバがいた。
「別に。同じ結論に行き着いたってだけだろう」
「あーね」
ハザクラ達にケイリが力強く叫ぶ。
「おいコイツ止めてくれ!! 子供の腕千切るなんざ、横暴にも程があるぞ!!」
「えっ――――!?」
ジャハルは血相を変えて小ダコに目を向ける。小ダコは明らかにラルバに怯えており、触腕で目を覆っている。ラルバは血のついた手をひらひらと振って、僅かに眉を八の字に曲げる。
「やだなーもう。ちょっと引っ張っただけじゃない」
「ふざけんな!!」
「タコだし、すぐ生えるよ。生えたし」
「コイツ……!!!」
ケイリの激怒を
「それで、結果は?」
へらへらと笑っていたラルバの顔から途端に笑みが失せ、地を這うような低い声で聞き返した。
「先に答え合わせをしようか。ハピネス」
相も変わらず、ハザクラとジャハルに状況の一切が理解出来ていない。だが、ケイリだけが何かを察し唾を飲んだ。
そしてハピネスが口を開く。
「黒幕は、ガルーダ・バッドラックじゃないかと」
ハザクラとジャハルの表情が一変し、ラルバが静かに首を縦に振る。
「ジャハル君。大まかに、今回の出来事をまとめて見てもらえるかい?」
「……事の発端は、18年前。逆鱗グドラに目をつけられた若かりし日のドロドが、爆撃によって重傷を負う。緊急搬送先であった我が人道主義自己防衛軍で、軍医フィズリースが治療に当たった。
しかし、フィズリースの患者であったコンカラ少尉の娘、イカラは、その間に容体が急変し命を落とす。
更にその事実を知った逆鱗グドラの悪謀により、コンカラ少尉はドロドの抹殺計画……元い、狼王堂放送局の壊滅を命じた。
そこでコンカラ少尉は200年前の破滅を崇拝するカルト宗教、始まりの終焉教団の教祖ホースドを騙り、悪党達を唆して信者にし狼王堂放送局に侵入した。
外壁で倒れ込んでいた“
しかし、そこへ私達が来国。大ダコ騒動解決に動き出し、更には
そこでハピネスが静かに頷く。
「うん。大体そんな感じだ。そこで、何か気づかないかい?」
「……ああ。言ってて気付いたが、確かにこれは……」
「無理がある」
「……ああ」
ジャハルは、今し方気付いた点を述べる。
「まず、大前提としてここは狼王堂放送局だ。全世界の情報を統括する電波の国……侵入など、どう考えたってバレそうなものだ。仮に上手く侵入できたとして、滞在期間も長くて1週間。いや、3日もいれば長い方か。密入国をいつまでも気付かれないと思うのは非常に無理がある」
「そうだね。結果的に国内の盗聴は手薄だったわけだが……彼女らにはそれを知る術はない。一か八かの運試しってとこだろう」
「あと、ホースドの名を騙るのも意味がわからない。始まりの終焉教団なんて昔の小さな宗教、今の者たちは普通知らない。自爆テロの勧誘としては悪手だろう。怪し過ぎる」
「うん。更に言えば、コンカラは信者の力を借りなくても複製の異能だけでテロを遂行出来たんだ。結果論だけどね。だから、人手を集めようとしていること自体が遠回りな策ではある。複製に異能が仮に異能生命体しか複製できなかったとしても、無実の人間を巻き込みたくなかったら、普通はそっちを先に探すんじゃないかな」
「最後に……大ダコさえ外に出さなければ、この作戦は成功していたんじゃないか? どうせ信者諸共殺すのであれば、地下空間内で大ダコを暴れさせればよかったはずだ。それらのに、大ダコを外へ出すから狼王堂放送局側に警戒され妨害されてしまった……。ただ、コンカラ少尉なりに犯行を止めて欲しかったのかも知れないが……」
「その通りだ。タコを外へ出したのが最大の悪手。だが、もし仮に犯行を止めて欲しいんだったら、私が止めに行った時に誘いに乗っているはずだ。だが、彼女は救われる道を自ら閉ざした」
次々と浮かび上がる疑問に、ジャハルは心配や悲しみよりも疑問に心を支配される。
「何故……少尉は、本当に計画を遂行させるつもりだったのか? でも、もし計画の失敗を願っているならハピネスの誘いに乗らなかったんだ?」
そして、チラリとハピネスに目を向けると、彼女は肯定して頷いた。
「こじつけに聞こえるかも知れないが、私はこれを“ガルーダの入れ知恵”だと睨んでいる」