シドの国   作:×90

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211話 遭遇

〜キュリオの里 北方 魔導ゴーレム・ロジスティクス株式会社〜

 

「お邪魔しまぁす」

「ごめんくださーい!」

 

 レシャロワークとゾウラは外れかけていた鉄扉から中に入り、真っ暗闇に向かって挨拶を投げる。しかし、暗闇からの返事はなく、湿った土と埃の臭いだけが辺りを漂っている。

 

 嘗ては町の学生達の就職先としても贔屓にされていた工場は見る影もなく、足元に積もる土埃が虫に喰われた紙屑を覆い隠している。ひび割れたコンクリートの隙間からは草木が生え、虫の死骸が模様のように散らばっている。。

 

「誰もいませんね」

「……いやぁ」

 

 レシャロワークが足元を指差す。コンクリートの床には土埃が一部だけ積もっていない部分があり、それは入り口から内部にかけて一本の筋のように伸びている。

 

「……誰かと言うよりはぁ、何かはいますねぇ」

「会いに行きましょう!」

「ゾウラさん、ホラー映画だったら厄介事持ってきて悠々と生き残るタイプですねぇ。ファンに嫌われそう」

 

 ゾウラは光魔法で暗闇を照らし、足取り軽く意気揚々と先へ進んで行く。レシャロワークは深く溜息をつきながらも、カガチの報復を回避したい一心で後ろをついて行った。

 

 

 

 

 中は思った通りの廃墟で、所々崩壊した天井や、散乱した瓦礫に埋もれた部屋が続く。依然として生物の気配はないが、足元の土埃に描かれた筋は未だ一直線に奥へと伸びている。

 

「これ、野生動物のものじゃないですねぇ」

「わかるんですか?」

「埃が掃けてる幅が、熊にしては狭いんですよねぇ」

「鹿とかトナカイかも知れません!」

「草食動物だったらウンコが落ちてますよぉ。あいつら歩きながらするんでぇ」

「じゃあ犬ならどうでしょう!」

「この道幅は群れる生き物じゃないですねぇ」

「狼とか猪は?」

「爪で引っ搔いたような跡もありませぇん。こんなボロボロのコンクリ、ちょっとでも引っかければすぐ削れますよぉ」

「じゃあクズリならどうでしょう! 軽いから爪の跡も残らないのでは? あとは、爪の跡がそもそもつかないネコ科の動物……ピューマとか!」

「クズリかぁ……ニャンコなら嬉しいんですけどねぇ。でもやっぱウンコ無いのは変ですよぉ。熊とか犬系ならマーキングするし、尚更無いと不自然ですねぇ。ウンコがあれば大体わかるんだけどなぁ。ウンコ探しましょう。ウンコ」

「はい!」

 

 それから程なくして、2人は地下へ続く階段を見つける。足跡は階段の下へと続いているが、近くの部屋は木の枝や骨が散乱した獣の巣の様になっており、僅かに生物的な臭いを放っている。

 

「レシャロワークさん! これ、獣の巣じゃないですか?」

「うーん。これは……“撲夏2”で得た知識によると、猪か猿、或いはそれ以外の哺乳類の巣ですねぇ」

「人の可能性はありませんか?」

「……そこにあるウンコみたいなやつを潰して水に溶かせばもう少し分かりそうなんですけどぉ、いざ目の前にすると猛烈にやりたくないですねぇ。画面越しならできるんですけどぉ」

「やってみます!」

「ああダメダメ。カガチさんに殺される」

「やってみたいです!

「変な病気になるでしょぉ。ばっちいから触んないよ。触るな!」

 

 そうして2人がわいわいと騒いでいると、背後に何者かの波導を感じた。

 

 2人は同時に振り返る。そこには、獣の皮を一枚だけ羽織った、色白の女性が立ってこちらを見つめていた。女性は振り向かれたことで恐怖を覚えたのか、少し後退って口を開く。

 

「――――!? ――、――――――……?」

 

 まるで聞いたことのない言語。レシャロワークは聞き馴染みのない発音に首を捻り、どうにかして意思の疎通が取れないかと身振りを交えて話しかける。

 

「えーとぉ? 私、敵じゃなーい、戦う気、なーい。あはーん?」

「――――、――――、――――……!」

「あーだめ分かんない。翻訳MODは未導入なんでぇ……うーん」

 

 今度はゾウラが女性の前に出て和かにお辞儀をする。

 

「こんにちは! 私はゾウラと言います! あなたは?」

「――――――――……。 ――――……?」

「……? 言葉が喋れないんですか?」

「――――、――――……」

「………………?」

「――――……」

 

 頭にハテナを浮かべつつも朗らかに見つめ返すゾウラに、女性はゆっくりと近づいて(ひざまず)く。伸ばした指先で優しく頭を撫でると、今度はレシャロワークの方を向いて手招きをした。

 

「お? なになに、どこ行くんですかぁ?」

 

 2人は女性に誘われるがまま階段を降り、建物の奥へと進んで行く。

 

 

〜キュリオの里 北方 魔導ゴーレム・ロジスティクス株式会社 2階ロビー〜

 

 女性が案内した先では、少し開けた空間に数名の男女が焚き木を中心に座って話し込んでいた。皆女性と同じく裸同然の格好に毛皮だけを纏い、まるで原始人のような出立をしている。そのうちの1人がこちらに気付くと、レシャロワーク達に驚いて大声を上げた。

 

「――――、――――!?」

「え、何何」

 

 他の者たちは一斉に立ち上がり、武器や魔法を構えて2人を睨みつける。案内してきた女性が争いを止めようと前に出るも、ひとりの男が女性を守るように抱き寄せ、抵抗を封じられてしまう。

 

「――――!!」

「――――――――!?」

「――――!! ――――!」

 

 突然現れた侵入者に対し彼等は殺意に満ちた剣幕で睨みつけ、口々に何かを言い放っている。否応なしに敵対してしまい、ゾウラはレシャロワークを見上げた。

 

「戦いますか? どうします?」

「よしっ! ゾウラさん! 一発芸だ!」

「はい!」

 

 レシャロワークの掛け声に合わせ、ゾウラは一歩前に出る。

 

「トンビの鳴き真似やります! ピーヒョロロロロロ……」

「うぇっひぇひぇひぇひぇひぇ! 似てる! うわ! 鬼似てる! すごっ!」

「続いて、驚いた時の犬。……ヒャィァンッ!? ヒィーッ、クゥァーオアーォッ……!」

「うひひひひひははははは!!」

「オウムの影絵」

「ひー! ひー! ひー!」

「ピーヒョロロロロロ……」

「いーひひひひひ!!」

 

 ゾウラの一芸に、腹を抱えて地面を転がるレシャロワーク。相手は既に敵意も武器も収め呆然としていたが、ゾウラの一発芸披露会はレシャロワークが笑い過ぎて嘔吐するまで続行された。

 

 

 

 

「――――……?」

「ゲホッ、がはっ……ひーほひひ……だ、大丈夫大丈夫……。あ、やっぱダメかも」

 

 女性に背中を摩られながら、レシャロワークは四つん這いで必死に笑いを堪える。その間ゾウラは他の人間達に影絵を教えて遊んでいる。

 

「そうですそうです! で、ここの隙間を広げて目を作れば……象の影絵です!」

「――――。――――!」

「上手上手!」

 

 もう暫くして落ち着きを取り戻したレシャロワークは、自分の水筒の水を女性と分け合いながら一方的に語りかける。

 

「あー、お姉さん達の喋ってんのは、多分昔の国の言葉ですかねぇ? そのパみたいな音、どっから出してんのかも分からん」

「…………?」

「と言うわけで、ここはレシャロワークさんの暗号解読ゲームセンスが光りますよぉ。”ナインデイズ“で培った解読スキル、とくとご覧あれぃ」

 

 レシャロワークが足元に何かを書くのを目にし、ゾウラが近寄ってくる。

 

「どうするんですか?」

「まずはウサギの絵を描いてぇ……。熊も描くか」

「上手ですね!」

「うん。似てないね。ゾウラさん描いてもらえますぅ?」

「はい!」

「うわ絵ぇうんまっ」

 

 レシャロワークがウサギの絵を女性に見せる.。

 

「――――?」

「これ、ウサギ、ウサギね? ウサギ」

「――――」

「ウ、サ、ギ」

「ウェスァギ?」

「ウ、サ、ギ。ウーサーギ」

「ウェサギ」

「もうウェサギでいいや。で、ウサギはー、あなた達のー、言葉でー?」

「――――? ア、アー、ハァーゥフ」

「ハーフ?」

「――――、ハァーゥフ」

「ハアーウ?」

「ハァー、ッフ。ハァーゥフ」

「ハーッフ。むっず。ウサギ如きで躓いてらんないのに……」

「――――、ハァーゥフ」

「ハ、アー、ウフ?」

「――――! ハァーゥフ」

「ハアーウフ」

「ハァーゥフ!」

「なんか合ってるっぽい。よし、じゃあ次行こう。これは熊ね。熊。く、ま」

「チュマ」

「なんでチュになるの」

 

 レシャロワークが言語習得に躍起になっていると、背後から1人の人物が近寄ってきた。ゾウラの遊びに付き合っていた者達がその存在に気がつくと、それを見てレシャロワークも振り返った。

 

「お前等、村の者ではないな?」

 

 はっきりと分かる言葉を喋った女性が、暗闇から焚き火の明かりの元へ出てくる。

 

 頭から爪先までを覆うカーキ色のローブ。しかし、そのフードから見える相貌は、明らかに人間のものではなかった。黒い角膜に、赤い瞳。額を覆う黒痣。そして、緑と水色が疎に混じったような髪。使奴寄りと思えばそう見えるが、全身から溢れ出ている規格外に高濃度の魔力が、彼女が人外、或いは桁外れた力の持ち主、つまりは使奴であることを物語っている。

 

 レシャロワークは使奴を眺めた後、隣の女性に尋ねる。

 

「ハアーウフ?」

「誰がウサギだ」

「――――……」

 

 すると、ゾウラが使奴の足元に駆けて来て、握手を求めて両手を差し出した。

 

「初めまして! 私、ゾウラと申します! ガルーダ・バッドラックさんですよね? お会いできて嬉しいです」

 

 使奴の、ガルーダの眼光が淀む。

 

「何故……私の名を……?」

 

 辺りを更に濃い波導が包む。わざとらしいほどの敵意。疑念。首筋にナイフの切っ先を押し当てるが如く、剝き出しにした殺意で2人を威圧する。先ほどまでゾウラに影絵を教わっていた男達は血相を変えてガルーダに何かを叫ぶが、恐怖に怯んだ声は言葉にならなず闇を転がる。そんな、常人であれば卒倒するような敵意の中、ゾウラは変わらず朗らかに笑う。

 

「はい! 神の庭の壁画で見ました! 爆弾牧場の、純金の拠り所にあった手帳にも似顔絵がありました!」

「神の庭……」

 

 ガルーダの握り拳に力が入り、魔法の発動光が煌めく。

 

「そうか。お前達はあそこへ行ったのか」

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