シドの国   作:×90

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233話 檻と餌

〜崇高で偉大なるブランハット帝国 不毛の都 カチャラット村〜

 

 倉庫の中で、村長はハザクラ達にゆっくりと話し始める。

 

「私達は農作物をブランハット帝に税として納めているのです。しかし、税を納めてしまえば我々の分は殆ど残りません。まだ飢えるほどではありませんが、もし災害でも来て作物がやられてしまったら……」

「待ってはくれないのか?」

「……いえ、頼めば、可能です。……その代わりに、我々は子供を差し出さなければなりません」

「何だと……!?」

「税が足りないと分かると、使いの者が子供を(さら)って行くのです……足りない税の分だと……! そのせいで……シェルシアも、ユアマナアも、ああっ……! ブランハット帝に……!!」

 

 顔を覆い青褪める村長の背中を、他の村人が優しく摩る。

 

「……それだけじゃねぇ。この辺は盗賊も出る。そいつらも子供を攫って行くんだ! 食い物や道具だけじゃねぇ! 俺の兄貴も、子供の頃に……!! あいつらに連れて行かれた!!」

 

 怒りが村人に伝播し、不安と不満に耐え切れず燃え上がろうとした時、外から見張りをしていた村人が血相を変えて倉庫に飛び込んできた。

 

「み、みんなっ! “使い”が来たっ!!」

 

 

 

「……誰だお前は……どこの村の者だ?」

「ばっちぃ! 触んなブスッ!!」

 

 外へ出ると、逆さ吊りのラルバをフード付きの外套(がいとう)を纏った人物が指で突いていた。外套の人物はこちらに顔を向け、村人に尋ねる。

 

「……この女は何者だ? ……そっちにも見慣れない奴がいるな」

 

 村人はハザクラ達を隠すように立ちはだかり、村長が慌てて外套の人物に駆け寄る。

 

「な、何のご用ですか……! 納税の時期はまだの筈……!」

「近くまで来たから寄っただけだ。だが、何か良からぬことを企んでいるようだな?」

「そんな、私達は何も――――」

「ではコイツらは何だ? 何者だ? まさか囲いの外から――――」

「ちっ、違いますっ!! この人たちは、その、ええと……」

「……いずれにせよ、“ボブラ様”に報告させてもらう。次の徴税を楽しみにしていろ」

 

 そう告げると、外套の人物は背を向けて歩き出し、停めておいた4輪バギーに乗って去って行った。

 

「あ、ああ……ああああ……!!!」

 

 村長は膝から崩れ落ち、村人達が駆け寄る。

 

「すまない皆……!! わた、私が誤魔化せなかったばっかりに……!!」

「そんな、村長のせいでは……!!」

「どうせあいつら、何もなくたっていちゃもんつけてきたはずだ!!」

「ハザクラ様、どうかお気になさらないでください。どうせただの口実です!」

 

 耐え難い不幸の渦中にあっても、村人はハザクラ達を気遣った。ハザクラはイチルギと頷き合い、村人達の前で膝を突く。

 

「俺達の責任だ。だが、俺達が必ずブランハットを討つ。約束する」

「子供の誘拐なんか絶対にさせないわ。任せて」

 

 ジャハルとラデックも力強く頷き同意を示す。

 

「ハザクラ様……イチルギ様……皆様、本当に、本当にありがとうございます……!!」

 

 

 

 村人達は倉庫の食料を持ち出し、ハザクラ達をもてなそうと料理を作り始めた。

 

「お、俺達は大丈夫だ。自分達の腹を先に満たしてくれ」

「いいんですよ! どうせ取っておいたって、皆さんがブランハットに勝てなければ根刮(ねこそ)ぎ持って行かれてしまいます! ならば、少しでも皆さんの力に!」

「そうは言っても……」

 

 しかし、遠慮するハザクラを尻目にラルバは全くの無遠慮で食材を食い荒らし始める。

 

「うお〜このキュウリうめぇ〜! 大根あんめぇ〜!」

「おいラルバ! 食い過ぎだ!」

「あ、ミョウガみっけ! うーん、そのまま食うもんじゃないねぇ。えっぐい」

「ラルバ!!」

 

 ハザクラを無視してラルバは自由気ままにほっつき歩き、妖怪のように村人に引っ付いては食材を奪い去って行く。

 

「ねえねえ何持ってんの? あ! イチゴだ!」

「そ、そう、ですが……召し上がられますか……?」

「食べる! うぉ〜あめぇ〜」

「あははは、はは……」

 

 自由奔放なラルバをラデックが止めようとするが、ふとハザクラの態度が気になり足を止める。

 

「ハザクラ? どうした?」

「ん? 何がだ?」

「いや、何だかいつもよりラルバに起こっていない気がして……」

「ああ、まあ、そうだな。そうかもしれない」

 

 要領を得ないハザクラの反応に、ラデックは辺りを見回す。

 

「そう言えば、イチルギやジャハルも何か変だな。ラルバが好き勝手暴れているのに、あまり関心が無いような……」

「……お前も勘が良くなったな」

「今のは褒め言葉だよな?」

「その調子で頭も良くなってくれ」

「褒め言葉じゃなかった。悲しい」

 

 ハザクラはラデックから離れ、イチルギの元へ向かう。

 

「イチルギ」

「ハザクラ。……さっき村に来た“使い”だけど、人間じゃなかったわ」

「外の門番と同じ魔導ゴーレムか?」

「ううん。そこまで機械的なものでもない……。その中間くらいかしら」

「……となると、キュリオの里にいた人造人間のようなものか……?」

「それとも違う……奇妙な感覚だったわ。間近で見たラルバなら分かってるのかもしれないけど、当の本人はあの様子だし……」

 

 そう言ってイチルギが見つめる先では、ラルバがケタケタと笑いながら村を探検して走り回っている。普段通りの奇行であるが故に、その行動の意図は読めない。

 

「まあ……奴が楽しそうにしてるってことは碌でもないことなんだろう。任せるのは不本意だが致し方ない……」

 

 そこへ、村人が食事を運んできた。

 

「さあ、みなさん召し上がってください! と言っても、そんなに量もありませんが……」

「あ、ああ。すまない」

 

 ハザクラは器を受け取り、盛られた野菜の胡麻和えをフォークで掬う。

 

「大根とキュウリと……ミョウガか。頂きます」

「どう……でしょうか……?」

「ん……ああ、とても美味しい」

「本当ですか? もし苦手でしたら無理なさらないでくださいね?」

「いや、本当に美味しい。特にこのドレッシングなんかいい塩加減で――――」

 

 ふと、ハザクラは違和感を覚えてイチルギの方を見る。彼女は、胡麻和えを一口噛み締め、静かに飲み込んでハザクラを見た。

 

「ハザクラ」

「……ああ、やっぱり見当はずれではなかったか」

「え? え?」

 

 狼狽(うろた)える村人をその場に残し、2人は同時に倉庫へと向かう。

 

「……ひひひ」

 

 その後ろ姿を、ラルバは流し目で追い北叟笑(ほくそえ)んだ。

 

 

 

 

「すまない、ちょっと中を見せてくれ」

「え? はい! どうぞどうぞ!」

 

 村人達はハザクラとイチルギを笑顔で迎え入れ、倉庫を案内する。

 

「お食事はいかがでしたか? お口に合いましたでしょうか」

「ああ。とても美味しかったよ」

 

 そう言ってハザクラは、近くにあった木箱の蓋を開ける。中には大根が綺麗に敷き詰められており、隣にはミョウガの籠と少し錆びた鎌が置いてある。

 

「……これは……みな、この村で採れたものか?」

「はい! 畑もご覧になられますか?」

「……ああ、是非」

 

 

 

 

「こちらです」

 

 村の裏手、村を囲む広葉樹の膝下に、真四角に整備された畑が広がっている。雑草一つない綺麗な(うね)に、どの作物も色とりどりの花を立派に咲かせ、風に(なび)いて揺れている。

 

「畑はここだけか?」

「いえ、まだ向こうのほうにもあります」

「村の外か?」

「いや、畑は村の中だけです。村の外では全然育たなくて……」

「そうか……しかし広い(うね)だな」

 

 ハザクラはしゃがみ込んで土を少し手に取る。栄養を豊富に含んだ黒土からは、ミミズが数匹這い出て身を(よじ)らせている。

 

「…… これだけ広ければ手入れも大変だろう」

「いえ、作物の方はそんなに……。それよりも、地震のたびに家が崩れてしまう方が大変です。行商の方は建材までは売ってはくださらないので……」

「……何だって?」

「おーい! ハザクラ! こっちきてみろ!」

 

 不意にラデックに名前を呼ばれ、ハザクラは腰を上げる。少し離れたところでラデックが民家から顔を覗かせ、(しき)りに手を振っている。

 

 

 

 ラデックに呼ばれた先の民家で、ハザクラ信じられないものを目にした。

 

「……これは!?」

 

 土の家の中では、子供がゴザの上でブラウン管テレビを見ていた。画面の中では、幼児向けのアニメーションが流れており、ハザクラにも気付かずじっと画面を見つめている。

 

「な、何故、テレビが……!? いったいどこで……電気が来ているのか……!? いや、それより電波はどこから……!?」

「行商から買ったそうだ。電源はよくわからんが、アンテナが広葉樹の上にあるらしい。」

「いや、そういう問題じゃないだろう……!?」

 

 血相を変え、ハザクラは子供の手からリモコンを取り上げる。

 

「ちょっとすまない」

「あー! まだ見てるのにぃー!」

 

 子供の声を無視して、立て続けにチャンネルを切り替える。

 

「はいこちら紅藍(こうらん)デパートです! 季節の果物が――――」

「出たなスーサイドマン! 今日という今日は――――」

「見てくださいこのステーキ! 肉厚でとっても――――」

「そろそろお別れのお時間。今日のゲストは、俳優のジョウデン・シリョウ――――」

「面白い推理だな探偵さん、でもそれじゃあ僕がどうやって――――」

「次は足を大きく伸ばして、腰の運動――――」

「ところが何と今回に限り! 2点セットでこのお値段!」

 

 ロケ番組、アニメーション、グルメレポート、トーク番組、ドラマ、リズム体操、通販番組。そこまで回したところで、子供がハザクラからリモコンを奪い返した。

 

「返して!」

「あ、ああ、すまない」

 

 子供は元のアニメーション番組にチャンネルを切り替え、再び食い入るように画面を見つめ始めた。

 

「……どういう、ことだ」

「さっき家の人に話を聞いたが、電化製品や鉄製品なんかの道具は行商が売りに来てくれるそうだ。作物を金に換えてくれて、それで買うらしい」

 

 ラデックの説明を聞いて尚、ハザクラは唸り声をあげて否定する。

 

「その行商も怪しいが……そもそもこの電波は……一体どこから……!?」

「村の人間は、国外の電波を傍受していると思っているそうだ。だから、テレビ越しに知った国の外を夢見ている。……だが」

「ああ、これは……」

 

 ハザクラが髪をガシガシと掻きむしり、テレビ画面を睨む。

 

「旧文明時代の録画放送だ」

 

 画面の中の怪獣が天に向け光線を放ち、人工衛星を粉々に打ち砕いた。

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