シドの国   作:×90

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シドの国をご愛読の皆様、いつもありがとうございます。

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249話 掌の上

〜ダクラシフ商工会 等悔山(ひとくいやま)刑務所 イチサンゴー通路〜

 

 真夜中。受刑者達が僅かな余暇の時間を楽しんでいると、収容房の鉄扉をガンガンと誰かがノックした。

 

「待て。俺が出る」

 

 濃い紫の長髪を編み込んだ強面の女が立ち上がると、返事を待たずに鉄扉が開かれた。

 

「こんばんは」

「……お前、デブんとこの……」

「シスターと申します。ドマドジュダ親分ですね? ゼラザンナはいらっしゃいますか?」

 

 部屋の奥にいたゼラザンナが怯えた目でこちらを見る。その視線をドマドジュダが体で遮りシスターを睨む。

 

「その前に教えといてやるよ。刑務所に、俺らに逆らうとどうなるか」

「もう教えたぞぉー」

 

 入り口の傍からマーデアバダットが顔を覗かせる。

 

「おまっ、マーデアバダット!?」

「ちっと子分借りるぞぉー」

「馬鹿やろっ良いわけあるか!! おいっ! 入るなっ!」

 

 立ち塞がるドマドジュダを押し除け、マーデアバダットはゼラザンナの前まで来て顔を寄せる。

 

「ひっ……」

「“イグジット”に会いてーんだろ? 会わせてやるよー」

 

 イグジット。その言葉にゼラザンナが、他の子分が、そしてドマドジュダが目の色を変える。マーデアバダットは有無を言わさずゼラザンナの腕を引き部屋を出ていく。

 

「あ、ちょっ」

「おい待てデブ!! おい!!」

「じゃーなー」

 

 ドマドジュダが止めようと手を伸ばしたところで、マーデアバダットは扉を勢いよく締めた。

 

「いってぇ!?」

 

 思い切り腕を挟んだドマドジュダは思わず手を離してしまう。激痛に悶える姿に心配した他の子分が駆け寄り狼狽えているが、ドマドジュダは痛みとは別の理由で額に汗を浮かべる。

 

「マジかよ……!! 消されるぞ、バダット……!!!」

 

 

 

〜ダクラシフ商工会 等悔山(ひとくいやま)刑務所 特別収容区画〜

 

 真夜中の運動場。そこを図書館方面に続く通路。その右側にある細い通路。鍵のかかった鉄格子の向こうには、獣の唸り声に似た怨嗟が微かに響いている。

 

「こっちだぁー」

 

 先頭で案内をするマーデアバダットは、灯のない通路を光魔法で照らし進んでいく。

 

 湿った石と、埃の臭い。地獄に続いているかのような景色の中、ゼラザンナは2人に申し訳なさそうに話す。

 

「……ご、ごめんね。2人とも。巻き込んじゃって」

「気にするな」

「バダット親分から話は全て聞きました。彼が何をしていたのかも、昨晩、何があったのかも」

 

 ゼラザンナは更に俯き足取りを重くする。

 

「……ウ、ウチさ。その、どうすれば、よかったのかな……」

「そんなこと、誰にも分かりませんよ。でも、これからどうすればよいのかは分かりますよ。生きて、幸せになるんです。プスパーカッカさんとの約束を守るために、彼女の分まで」

「うん……」

「その為にも、まずはここを出ましょう」

「……うん」

 

 鉄扉の前を通り過ぎようとした時、ゼラザンナはふと鉄扉の格子窓に目を向けた。

 

「があああああああああっ!!!」

「ぎゃあ!!」

 

 直後、何者かの絶叫が劈く。ゼラザンナがシスターに飛びつき、倒れかけたシスターを咄嗟にラデックが支える。

 

「大丈夫か?」

「無理!!!」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

 マーデアバダットは振り向いて足を止め、唐突に隣の収容房の扉を開ける。すると、中から黒い影が絶叫を上げて飛び出てきた。

 

「ぐがああああああああああっ!!!」

「おいしょー」

 

 襲いかかってきた影にマーデアバダットが肘打ちを入れると、影は体躯を布切れのようにふわりと浮かせて宙を舞う。ぺしゃりと落下したそれを、シスターが拾い上げて一言つぶやいた。

 

「……改造した防犯魔法?」

「おー。オメーらには凶悪犯がとっ捕まってるなんてパチこいたが、実際はこんなもんだー。この道はイグジットのいる通信室に繋がってるー。イタズラで来た馬鹿を追い払うためにイグジットが仕掛けた虚仮威しだぁー」

 

 マーデアバダットは再びのっしのっしと歩き始める。ラデックは少しだけ足を止め、シスターの手にしている防犯魔法の残骸を暫し見つめる。

 

「ラデックさん、どうかしましたか?」

「……いや、これ、どっかで見たことある気がしたんだが。なんだったっけな……」

「思い出せそうですか?」

「うーん……。そんなに前じゃなかったと思うんだけどな……少なくとも先月、いや、もっと最近か……?」

「オメーらぁー。置いてくぞー」

 

 マーデアバダットに呼ぶ声が暗闇に響く。

 

「取り敢えず行くか」

「そうですね。ゼラザンナさん、立てますか?」

「む、無理かも。おおお、おしっこ漏れた。おんぶして」

「おしっこ漏らしてるから嫌です」

「じゃあ嘘……」

「滴ってますよ」

「これは……よだれ」

「置いていきますね」

「ああああ歩くよっ!! 歩くってば!!」

 

〜ダクラシフ商工会 等悔山(ひとくいやま)刑務所 通信室〜

 

「ここが、通信室?」

「おー」

 

 細く狭い通路の最奥。錆びついた鉄格子の向こうに、塗装の剥げた鉄扉が見える。

 

「なんと言うか……その……」

「言いてーことはわかるー。どーみても狭過ぎるし、機材運ぶにも不便だしよぉー。実際、ここはただの古い独房だぜー」

「え? じゃあ……」

 

 マーデアバダットは慣れた手つきで鉄格子のナンバーロックを外し、奥の鉄扉に手を翳す。ピピっという短い電子音と共に、一瞬だけ魔法陣が光り輝いて消滅する。

 

「魔導錠……?」

「意外とハイテクだろぉー。ま、入りゃーわかるー」

 

 扉の中は、一般宅の物置のように狭い空間だった。入り口のすぐ傍に、先程の魔導錠を維持していたと見られる黒い外装の機械が置かれている。床と、両脇の壁と、天井、四方に模様のように張り巡らされた幾つもの配線。そして、何よりも部屋の奥の壁。一面が無理矢理繰り抜かれており、断面からは剥き出しの鉄筋が見える。繰り抜かれた穴には黒いカーテンがかけられており、僅かに風に揺れている。

 

「入るぞぉー」

 

 カーテンを捲った先には、想像だにしない光景が広がっていた。

 

 視界を埋め尽くすような機械の群れ。モニター。配線。薄暗い部屋を照らすのはモニターの明かりのみ。照明らしい光源はなく、闇の中には電源ランプの星々だけが浮かんでいる。見上げるような高い天井には幾つもの換気扇とカセットエアコン。さっきまでの酸化鉄と石だけの独房とは正反対の、テクノロジー製品の数々。

 

 その部屋の中央、部屋中のモニターが向いている先の大きな回転椅子。背を向けているせいで誰が座っているのかは分からないが、机に置かれたジュースの缶には噛み潰されたストローが挿さっている。

 

「今日は呼んでないよー」

 

 座席をくるりと回り、座っていた人物が姿を現す。

 

「脱走と不法侵入で死刑! なんつって」

 

 座っていたのは五分刈り坊主の小柄な少女だった。縁無しの細いメガネに、だぼだぼのTシャツを一枚だけ纏っている。少女はジュースの缶を手に取り、差したストローを齧りながらニヤニヤと笑っている。

 

「ラデックに、シスターに、ゼラザンナ、ゼラザンナ? アンタが来るのはちょいと予想外だな。びびって引き篭ってると思ってた」

 

 びくっと体を震わせるゼラザンナを庇いつつ、シスターが前に出る。

 

「私が連れてきました。貴方がイグジットですか?」

「ふーん……」

 

 質問に答える素振りもなく、少女はストローをガジガジと噛み続ける。そして。

 

「おいデブ。アンタ何勝手なことしてんだよ。殺してやろうか?」

 

 マーデアバダットに銃を突きつけた。

 

「オレじゃあ手に負えねーから連れてきたー」

「親分特権に思い上がったか? 所詮アンタらは受刑者、救いようのない咎人だ。本来ここに入る権限もなければ自由もない」

「おー。だからコイツらはオマエに任せるぜー。オレには権限も自由もねーからよー」

「ほんだらクビだよ。口開けて上向け」

「あー」

 

 マーデアバダットは銃口に向け口を開ける。その無防備な姿を少女は暫く銃と共に睨んでいたが、やがて舌打ちをして銃を下ろし、背を向けて不機嫌そうにストローを噛んだ。

 

「フン、幾ら不意を突いたとて、ワタシみたいなケジラミがアンタらに敵うもんかい。殺すならもっと上手くやるよ」

「そりゃーありがてー」

「分かってんのか? マーデアバダット。通信室(ココ)に叛逆者を連れてくるなんざ、アンタ自身の叛逆と見られても弁明できないよ」

「あー、別に気にしてねー。いざとなったらシスター辺りでも殺して無実でも主張してみるからよー」

「……あーね? 味方してやるのか敵になるか、どっちかにしてやんなよ。アンタ、そんなだから友達いないんだよ」

「友達がいねーのはオレが殺したからだー。昔はいっぱいいたぜー」

「尚更救えないね」

 

 少女はシスターに視線を戻す。

 

「で、えーっと? オタクらはどうしてここに? ワタシに何か用?」

「貴方に会いにきました。率直に申し上げます。私達の脱獄に協力してください」

「いーよ」

「えっ?」

 

 食い気味の被せるような肯定に、シスターは一瞬思考が止まる。

 

「いーよっつーか、してたよ。協力」

「……どう言う、ことでしょうか」

「クックック。ま、茶でもシバいてゆっくりしてけよ。エナドリしかねーけど」

 

 少女は部屋の隅の箱からジュース缶を数本拾い上げ、シスターに向かって放り投げる。

 

「ほれパス」

「わっ。とと」

「あ、いけね。炭酸投げちゃった。溢したら死刑な」

「えぇ……」

 

 自身も一本手に取り、咥えていた飲み口の噛み潰されたストローを差し込む。

 

「じるるるるる……。っぷあ。あー、そういやまだ名乗ってなかったな」

 

 シャツを捲って丸出しにした尻を掻き、元いた回転椅子に腰掛ける。

 

「アニキから話は聞いてんぜ、マゾヒストのシスターさん」

「マゾじゃありませ……えっ? アニキ?」

 

 ティスタフカは机の端に引っ掛けていたキャップを被り、ツバ越しにシスターを片目で見やる。

 

「三本腕連合軍、東薊農園工場長、ティスタウィンクの妹、“ティスタフカ”だ。アニキからアンタらの手助けしてやれって言われてる。ヨロシク」

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