そしてこの先通貨の描写を多くなりますが、著者の経済知識がゴミカスなので厳密さよりも分かりやすさを重視で、本当は違うと思うんだけど今後は1
再び時は遡り、ラデック逮捕当日。
〜ダクラシフ商工会
天蓋を衝く絢爛な塔。幾何学模様が刻まれた石灰岩の家々。昼間だと言うのに煌々と光り輝く艶やかな電飾看板。強化ガラスの歩道橋がそこかしこに伸び、地上を覆うアスファルトでは奇抜さを極めた面妖なガソリン車が優雅に走っている。
そんな豪奢な街並みの中でも特に目を惹く、全面光沢質の金属で覆われた七色の巨城。リゾートカジノ、“クインテッド・パレス”。華美と言わざるを得ないド派手な建築物を、ラルバはニヤニヤと小馬鹿にするように見上げている。
「なんでも人形ラボラトリーを思い出すねぇ。臭う臭う。悪い奴の臭いがぷんぷんするぞぉ〜」
「ラルバさんの体臭ですよぉ、それ」
握られた腕を剥がそうと必死に
「おじゃましま〜す!」
「帰りてぇ〜」
その時、入口を警備していた大男がラルバの前に腕を出して遮る。
「入館証」
「へい?」
「入館証」
「うそ、会員限定?」
ラルバは辺りを見回すが、受付らしきところは見当たらない。その間にラルバ達の横を貴婦人が1人素通りし、その際に一枚のカードを警備員に見せていた。
「……はーん。招待制なのね」
「カードが無いならば帰れ」
「帰りましょうよぉ」
ラルバはニヤっと笑って
「ほい、“入館証”」
「帰れ」
「……じゃあもうちょい。10万
「帰れ」
「15?」
「帰れ」
「ええい50でどうだ!」
「帰れ」
「100!!」
「帰れ」
「うそぉん……」
ラルバは札束を手にしたまま警備員に腕を掴まれ、されるがままに道路まで押し出された。
「100万
「残念でしたねぇ。帰りましょうねぇ」
そこへ、今し方クインテッド・パレスから出てきたばかりの女がラルバ達に近寄ってくる。
「オマエら、賄賂堂々としすぎだろ」
「お前誰」
「正義の味方」
茶褐色のローブを目深に被った女は、顔も見せずに入館証のカードを手渡してくる。
「やったあ! くれんの?」
「ああ、やるよ。好きに使いな」
「さんきゅー! ……いや不気味だな。狙いは?」
「不気味だ? オマエが言うな」
怪訝な目を向けてくるラルバに、ローブの女は物怖じせず言い放つ。
「狙いくらい当ててみろ。オマエはそういうのお手のものだろ?」
「何故私を知っている? 答えろ」
ラルバはローブの襟を乱暴に掴み、鋭く尖った爪を女の
「要らないんならカード返せよ」
「ヤ! 要る! 要るが、私にも従ってもらう」
「強欲は身を滅ぼすよ。……ああ、滅びるのはオマエじゃなくてオマエの仲間か」
女がチラリとレシャロワークに目を向ける。レシャロワークは後ろを一度確認してから手を眼前で振る。
「ノンノン。自分仲間じゃないんで、滅びませんよぉ」
「滅ぼす側は気にしない。並んで歩いてりゃ仲間さ」
「じゃあお姉さんも並んで歩きましょう」
「結構。仲間じゃないんでな」
女はそのまま背を向けて立ち去ろうとする。それを黙って見守るラルバに、レシャロワークは不思議そうに尋ねた。
「あれぇ。行かせていいんですかぁ?」
「んー……、まあ」
先ほどの邪悪な笑みと打って変わって大人しい彼女に、レシャロワークは続けて首を反対方向に傾けた。
「脅したくせに。なんか変なもんでも見ましたぁ?」
「いいの! 折角カード貰ったんだし、早く遊び行こ! シャロちゃんの好きなゲームいっぱいあるよ!」
「カジノにコンシューマーゲームないでしょぉ……」
〜ダクラシフ商工会
堅物の警備員の横を堂々と進み抜け、2人はメインホールのゲートを潜った。
中はシャンデリアから内壁から床にカウンター、果ては扉のノブにまで、ありとあらゆるところに黄金色のイミテーションと電飾、天然石の装飾が散りばめられており、目を覆いたくなるような贅の限りを尽くしている。館内を流れる優雅な音楽の生演奏が癇に障り、遊戯を楽しむ富豪達の香水が吐き気を催させる。決して僻みや妬みなどではなく、一般的な金銭感覚を有する者なら顔を
これにはレシャロワークも思わず眉を歪ませ、縋るようにラルバに耳打ちをした。
「ラルバさぁん……自分マジで鬼帰りたいんですけどぉ……。ここにいる連中に混ざりたくない……」
「えーなんでー? シャロちゃんもセレブの仲間入りしたいでしょー? 宝くじにでも当たったと思って、今日から一皮剥けて優雅に過ごしちゃいなよ!」
「お金は欲しいけどセレブには憧れてないんでぇ……。1億
まるで乗り物酔いかの如く具合悪そうにするレシャロワークを引き摺り、ラルバは意気揚々と館内を歩き回る。
「まずはチップ買わないとねー。換金所は……お! 電子管理だ! ハイテクぅー! ハッキングしちゃおっかなー」
ホールの一角にあった電子端末を操作すると、入館証提示要求の文字が表示される。
「あ、このカードでチップ管理するんだ。便利ねー」
ラルバがローブの女から貰ったカードを挿入すると、画面に現在の保有チップ数と登録者情報が表示される。
「む」
「あらぁ」
2人はその画面を見て思わず声を漏らした。
“保有チップ数232万1114枚、勝率86%、ランク、シルバー”
「チップは……1枚10
「じゃああの女の人、自分らにポンと2000万
ラルバは暫く無言で画面を眺めた後、不気味に口角を上げる。
「え、なんですか」
「いいねえいいねえ。楽しいねえ。なぁんか気分良くなってきちゃった」
「うわあ気持ち悪い」
ドン引きするレシャロワークに、ラルバは顔を向けずに笑いかける。
「カードもう一枚作れたから、シャロちゃん好きなだけチップ持ってっていいよ。盛大に遊びんさい」
「自分タクシー代だけ貰えれば充分ですよぉ」
「帰ろうとしないの」
「おひー」
レシャロワークはラルバと別れ、気ままにカジノ内を散策することにした。
「ドリンク無料は嬉しいですねぇ。このライムシルクコークってのくださぁい」
「……どうぞ」
バーテンダーが不機嫌そうに口を曲げ、水滴のついた紙コップを差し出す。レシャロワークはそれを平然と受け取り、メニューを眺めながら口をつける。
「お、ライムうめー。……シルク要素どこぉ? 軽食も無料!? マジ!? え、じゃあホットドッグと……ホットドッグ……ホットドッグなくない? すんませーん。ホットドッグありますかぁ?」
「ありません」
「えー……。じゃあどうしよっかなー……」
セレブの場に似つかわしく無い俗人仕草を続けるレシャロワーク。そんな彼女の元へ、1人のスタッフが近寄ってくる。
「とりあえずこの小さいピザ? みたいなの3つとぉ、ローストビーフとぉ、シュリンプカクテルとぉ、この串に刺さってるお肉と野菜のやつ4本とぉ、スープのやつ? を1皿ずつとぉ、あとぉ」
「ご婦人、当カジノはお楽しみいただけてますでしょうか?」
注文中に話しかけられ、レシャロワークはふと顔を上げる。
「ご婦人。自分ですかぁ?」
「はい。わたくし、当カジノの案内役で御座います」
「案内役」
「そうです。どうやらご婦人は、当カジノのサービスにご満足いただけなかったようで」
案内人の慇懃無礼な物言いに、レシャロワークは暫し思案して答える。
「あー、このカジノって食堂ありますぅ? お腹いっぱい食べられるトコ」
「……少々お待ちを」
皮肉を意に介さないレシャロワークの能天気さに、案内人は眉を僅かに歪めて通信魔法を飛ばした。
「監視室、監視室。“サナヤハカウァ”様はまだ御遊戯中か?」
「こちら監視室。サナヤハカウァ様は現在、“パドック”にて御休憩中」
案内人はにこりと笑顔を作りレシャロワークに向き直り、手でホールの奥を指し示す。
「ご婦人、どうぞこちらへ」
〜ダクラシフ商工会
「当カジノ、“クインテッド・パレス”は、大きく分けて4種類のゲームを扱っております。バカラや花札などのカードゲーム。シックボーや丁半などのダイスゲーム。ルーレットやスロットなどのマシンゲーム。そして――――」
バルコニーへ繋がる扉が開かれ、吹き抜ける風と共に楕円のレーストラックが現れる。
「この、“レースゲーム”です」
「ご飯は?」
屋外に設けられたバルコニー型の観覧席は緩やかな階段状になっており、扉を出たばかりの最上段からでもトラックを一望できる作りになっている。トラックには切り揃えられた芝が生い茂り、城壁のように巨大な電光掲示板が奥に見えるはずの街並みを遮っている。
「ここで行われる競技は一種類のみ。“フールファング”を競わせる着順予想賭博です」
「ご飯……」
「やることは至って簡単。フールファングがどの順番でゴールするかを当てるのみ! 難解複雑なゲームで興を削がれたご婦人にも、きっと気に入っていただけることでしょう」
案内人はしょぼくれるレシャロワークを先導し、バルコニー傍の通路から下へと降っていく。その先はいくつものテーブルとソファが備え付けられた屋外休憩所になっており、噴水や、動物の形をした生垣などが置かれ、屋内の電飾塗れの空間とは一変して自然と調和した空間になっている。
「こちらでしたらもう少し量の多いお食事の提供も可能です」
「ご飯!」
レシャロワークは大喜びですっ飛んでいき、ティータイムを楽しむ客の間をすり抜けていく。他の客はレシャロワークに軽蔑の眼差しを向けた後、案内人を咎めるようにムッとした視線を向ける。すると案内人は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごっはん! ごっはん!」
休憩所の建物側。壁から迫り出した食事の受付カウンターにレシャロワークは食い入るようにしがみつく。その時ふと、少し奥の空間に目が行った。
レシャロワークが降りてきた通路とは反対側。建物の外壁からは鉄の檻が生えており、動物園の一画のような展示スペースになっている。
その中には何かが横たわっているのが見えた。
「……あっ!! ネゴチャっ!!」
レシャロワークは顔色を変えて走り出し、檻に顔を寄せてしがみつく。
「ネゴチャっ!! んああああがわいぃ〜!!」
中にいたのは、体長2mはあろうかという大型の猫。もはや猫というよりは獅子に近いが、顔付きやシルエットは家猫そのもの。それが12頭。最も手前にいた長毛の黒猫が、雄々しい相貌で鬱陶しそうにニヤけ顔のレシャロワークを見る。
「ネゴチャァ〜。ぎゃわぃ〜ぬぇ〜」
後ろからついてきた案内人が説明をする。
「当カジノが管理する競争猫の“フールファング”です。その子は“アオノホウキボシ”ですね」
「ぎゃわいぃ〜。おっきぃ〜。モフりたぁ〜い」
「血統や戦績でしたらあちらの端末でご覧に――――」
「ちょっとお!!! 誰よその“ドブネズミ”は!!!」
2人の背後から怒声が響く。その声にアオノホウキボシは大きく身体を痙攣させ、素早い身のこなしであっという間に檻の奥へ去っていく。他の猫達も同じように警戒し檻の奥へと身を寄せる。
眉を
「これはこれは、“サナヤハカウァ”様。大変お見苦しいものを……」
「きったない髪……! きったない服……!! ブッサイクな顔!!! 貧乏丸出しのガキが、私のカジノを汚さないでくれる!?」
「……猫ちゃんの前で大っきい声、やめてもらえますぅ?」
サナヤハカウァと呼ばれた女性は、杖にしていた日傘を握る手に力を込め波導を激らせる。
「…………っ!!! このっ……ガキがっ……誰に向かって口をっ……!!!」
「サナヤハカウァ様、どうか怒りをお収めください。私共が今すぐに――――」
「うるさいっ!!! おいガキ!! カードを出しなさい!!」
案内人が慌てて宥めるも、サナヤハカウァは聞く耳を持たない。しかし、深く下げた案内人の顔には笑みが浮かんでいる。
「感謝なさい。お前がこの場に相応しいかどうか、見定めてあげるわ。下劣なドブネズミは猫の餌よ……!!」
「相応しいかはともかく、ゲーム勝負なら負ける気しませんねぇ」